2006年2月10日金曜日

生協に存在しないプロジェクトマネジャー



生協に存在しないプロジェクトマネジャー
生協の情報システムが抱える今日的課題 第1回


[前提]
 二十数年にわたっていくつもの生協の情報システムに関わり、最近はITコーディネータとしての立場から生協の事業と情報システムの関係についても検討をすすめてきた。その観点から、連合の時代を迎えた生協グループのシナプスともいえる情報システムが抱える数多くの課題について言及する。



 システムなしでは運営不可能な共同購入という事業を中核とする生協では、一般の小売業よりも高い事業高あたり一%程度のシステム経費が必要だといわれている。二百億円の事業高の生協であれば年間のシステム経費はおおよそ二億円必要になるということだ。これには機器の費用から消耗品、そしてシステム要員の人件費も含まれている。外部委託費用を除くと情報システム要員は三~四人しか確保できないことになる。この陣容でホストコンピュータを運用管理し、業務システムの調整を行い、改善や変更要望に対応し、パソコンが壊れれば駆けつける。このような状況で時代の変化に対応した生協のビジネスシステムをIT面から支えるための企画立案や、実作業はベンダーに委託するにしても、業務ラインからの要望をとりまとめて新しいシステムの全体構造を作り上げていくプロセス、これを最近では多くの場合、関連するラインスタッフやベンダーも交えてプロジェクト方式で構築作業を進めていくことが多いのだが、このプロジェクトをまとめていくマネジャーとなる人材が、この規模の生協の情報部門から育ってきているとは考えにくい。


 これまでのような単協規模でのシステム開発であればまだしも、事業連合が各地に生まれて、業務システムの見直しや統合が始まっている現在、IT分野においてもこれまでにない大規模なシステム開発が必要となってくる。ところが、生協関係者からも、億円単位のシステム開発を担えるプロジェクトマネジャーが存在しないという危惧の声が挙がってきている。


 十人にも満たない組織のマネジメントしか経験したことのない単協のシステム要員に、どうしてベンダーも含めて数十人規模のプロジェクトのマネジメントができるだろうか。少人数で業務システムを支えていくために、良く言えばプレイングマネジャー、悪くいえばいつまでも一作業者にならざるを得ない状況。しかし、それはどうやって部下に仕事をさせるかというマネジメントの基本とは相反するやり方でしかない。


 システムベンダーでは億円単位のプロジェクトに参加する経験を若いときから積み上げて、はじめてプロジェクトリーダーやマネジャーになれる。そういったベンダーSEに対して、連合化によって事業規模や投資する資金だけは大きくなったからといって生協のシステム要員がすぐに大規模プロジェクトをコントロールできる人材に化けるはずはない。事業規模だけが大きくなって、業務システムが追従できないために混乱を招いた例は、ここ数年でも枚挙にいとまがない。


 一方、中国地方のとある生協のように、システム経験のないプロジェクトリーダーを擁立してベンダーに主導されながらもラインスタッフなどをとりまとめて店舗システムを混乱なく構築した例や、近畿の生協でシステム部門中心だがラインも積極的にプロジェクトに参加し共同購入の受注情報を一元化して首里コストの大幅削減と第一線のマネジメント改革を行った例など、成功例もないわけではない。


 事業連合時代の情報システムに求められているのは、システム要員の技術力ではなく、ラインの要望をもとにシステム全体をイメージし、それをベンダーに的確に伝えて具体化するコーディネート力と、計画通り完成させ、実際に業務システムとして機能し、所期の成果を上げるところまでおし進めていけるプロジェクトマネジャーとしての能力なのではないだろうか。


(コープニュース 2006年2月号掲載)