2006年11月4日土曜日

エンドユーザーコンピューティングの光と影



エンドユーザーコンピューティングの光と影
生協の情報システムが抱える今日的課題 第8回


 パソコンの普及は、情報システムの姿を大きく変化させる契機ともなったわけだが、その一つの推進力となったのがEUC(エンドユーザーコンピューティング)の潮流だろう。かつて、OAと呼ばれたひとつのブームがあった。それまで、コンピュータはガラス張りの専用室に安置されて一部の専門家だけが触れることのできる「神聖」な装置だった。一般の人たちは、紙テープやパンチカードといった入力媒体でデータを提供し、大量のアウトプット帳票で結果を享受するというスタイルが通常であった。ところが、入出力端末が登場し、事務所内に設置できるオフコン(オフィスコンピュータ)が登場しはじめると、次第にコンピュータは身近な存在となり、大型コンピュータへの情報の出入り口に過ぎなかった専用端末に処理能力が付加され、現在のエクセルの簡易版ともいえる表計算ソフトや、アクセスの簡易版のようなデータ処理ツールが搭載されることによって、一気にOAブームが到来したのだった。


 すでに、70年代にはマイクロコンピュータ、いわゆるマイコンが登場し、表計算ソフトの元祖といわれるビジカルクなども存在はしていたが、どちらかといえば研究用かホビーの世界であり、業務用としては大型機の端末機から派生したオフコンとそこに搭載されていたOAソフトが重用されたようだ。生協関係では、日本電気のLANシリーズというOAソフトが数多く導入されたようで、現在でも使われているところもあるという話も聞いている。


 OAブームがもたらしたものは、これまで専門家が管理していたコンピュータを、専門家でない人たちがある程度の学習で使うことができるということだろう。そのことじたい業務システムや既存の情報システムを根底から覆すほどの実効性はなかったが、手書き、電卓計算があたりまえの業務だったホワイトカラー層に、もはやコンピュータが自分たちの手の中にあるという事実と、それによって実現できる業務改善の可能性は、大きな意識改革をもたらしたという点においてはきわめて重要な転換点だったのではないか。


 しかも、このOAの流れは、それまでコンピュータのすべてを掌握してきた情報システム部門にとっても、大きな福音をもたらすものでもあった。この流れは、本来、パソコンの浸透とネットワークの広がりを待って起きるべきものだったはずだが、業務レベルの要請は、そういったコンピュータ技術の進歩をしのぐ勢いで高まっていったからだ。これまで、コンピュータに対するインプットから最終的なアウトプットまで、すべての形式や業務の流れ、帳票のデザインといった部分まで情報システム部門が統括し設計しプログラミングして提供するというのが当然の職務だった。しかしながら、OAやEUCへの流れは、インプットはデータで渡す一方、アウトプットもデータで提供してもらってエンドユーザーがOAツールで自由に加工して最終形態を作り出すという方向に動き始めたのだ。


 これによって、情報システム部門はインプットアウトプット設計と呼ばれるシステム構築でもっとも重要でかつ複雑な対エンドユーザー部門との調整作業から大きく手を引くことができるようになった。エンドユーザーにしても、ちょっとした表示変更でもいちいちシステム担当者のご機嫌をうかがいながら依頼し、コストを負担し、充分に待たされるというストレスから解放されたわけで、EUCはまさに輝ける一大構造改革のように思われた。


 けれども、すべての物事には光と影があるように、このEUCにも大きな落とし穴があることがようやく知られるところとなった。いや、実際には業務の中に埋没してしまって、このきわめて危険な状況は多くの管理者層からは見えなくなってしまっているのかもしれない。情報システム部門でも危機感を持って対策を考えているところもあるようだが、EUCの歴史や取り組みの長い組織ほど、もはや手のつけられない状況に陥ってしまっている。(以下次号)

(コープソリューション 2006年9月号掲載)