2015年12月1日火曜日

「コンソーシアム」型事業モデルとネット活用[連載第3回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時- 
コープソリューション2015年11月1日号掲載

日本の最西端、晴れた日には山の上から台湾が望めるという国境の島、与那国島。この島を今年9月28日に襲った台風21号は、瞬間最大風速81.1メートルというとてつもない暴風によって、大きな爪痕を残していった。

意外に知られていないことだが、この日本最西端の島でもコープおきなわの共同購入が行われており、フェリーによって運ばれるコンテナに収められた共同購入の商品が、この島の生活を支える重要なライフラインのひとつになっている。

筆者も、かつてこの島を訪れ、コンテナから取り出されたシッパーや折れコンを一斉に港に集まってきた組合員が分け合うという光景を目の当たりにし、泊まった民宿ではコープのティシュが当たり前に置かれ、朝食にはこれもコープの味付けのりが添えられていた。民宿の主人によると、共同購入が始まって、それまで高かった島の物価は沖縄本島並とは行かないまでも、かなり下がったという。

今回の台風堝においても、コープおきなわは直ちに救援募金をはじめるなど離島の組合員の生活復旧を支援している。

災害時という特殊な状況下でなくとも、離島や僻地という住環境では、都市部では当たり前の買い物ひとつをとっても思うように行かないのが実情だ。

もっとも、都市部であっても、郊外型の大型店やコンビニの影響で町中の個人商店やローカルスーパーが姿を消し、車や移動手段を持たない高齢者が買い物難民となっている。

僻地型であれ、高齢者型であれ、生協の共同購入・個人宅配は、買い物難民への対応策として高いポテンシャルを持っている。ところが、なぜか、今ひとつ評価されていないきらいがある。

そのひとつの検証材料となるかもしれない事例がある。地方創成の事業のひとつであり、総務省が掲げるICT推進のモデル事業がある。奈良県葛城市と民間事業者がコンソーシアムを作って、市内の高齢者のヘルスケア支援と買い物支援を行うというものだ。凸版印刷が民間側の中核企業となって、参加者にタブレット端末を貸与している。コンテンツとしては、イオンがネットスーパー機能を提供し、WAONカードにシールを貼っただけのものだが、専用のICカードをタブレットにかざすことで買い物の決済やヘルスケアを担当する医療機関、社会福祉団体のサービスとも連係している。また、地元ボランティアの手厚いサポートも成功の一因といわれている。

こうした国家戦略である地方創成の施策に対して、生協が関わっている事例というのがあまりに少ないといわれている。この葛城市のモデルでも、なぜここに生協が加わっていないのかと不思議になるほどだ。事実、総務省の担当者からは、生協に関わってもらいたかったという声も聞かれている。

ではなぜ、こうした官民一体型事業モデルに生協が関われないのか、それは、行政の規模にも問題がある。地方創成で様々なプロジェクトを推進する主体は市区町村という末端行政機関になる。ところが、生協が常日頃対応しているのは中間に位置する都府県だ。生協の事業モデルは、少なくとも都府県、事業連合であればさらにリージョナルなエリアを対象とする。一方で、葛城市の人口は3万人強。生協の事業規模からすれば、共同購入の配送センターひとつ分の活動エリアにも満たない規模かもしれない。

いかにモデル事業とはいえ、巨大なシステム事業である共同購入・個人宅配を、一部のセンターや地域に向けてだけカスタマイズするというのは、なかなかハードルが高いというのが生協側の言い分だろう。

買い物難民対策とヘルスケア、この2つは地方創成のみならず今後の社会システムにおける重要なキーワードになる。生協の様々な事業は、そのニーズに充分に応えられるだけのポテンシャルを有しているはずだ。

たしかに、これまでは規模によるメリットを強調してきた生協ではあるが、一方で個を志向した取り組みや政策も数多く着手されてきている。要は、それらを具体化するアイデアがどこにあるかではないか。

小さな一地方都市が取り組んだ事例に、全国からの視察がひきも切らず、同様の事業が数多く着手されている葛城モデルに、そのヒントがあるかもしれない。

前回も紹介したとおり、使い勝手のいいインターネットのインフラを提供し、丁寧にサポートしていくことで、高齢者に活用してもらうことは決して不可能なことではない。同様に社会的弱者、地理的不利を抱える僻地住民に、より高レベルの各種サービスやコンテンツを提供していくことも可能ではないだろうか。

その場面において、生協だけでなく、行政や、仮に同業他社であっても、おぎないあえるサービス提供者と共同して、コンソーシアム型の事業モデルを志向することもこれからの生協を考える上でのキーワードのひとつとなるだろう。