2016年6月1日水曜日

ようやく動き始めた「マーケティングオートメーション」への取り組み(1)[連載第9回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年5月1日号掲載

  昨年末のこの連載で、「ネットからの大量データをどう活用するか」というテーマを取り上げました。
  その際に、ネット上から顧客別に収集した膨大なデータから、キーとなる情報を集計・分析し、顧客ごとの特性に応じて自動的に次のアクションに結びつける仕掛けを「マーケティングオートメーション」と紹介しましたが、その内容についてもう少し詳しくご紹介しましょう。
  ネットで買い物をされた経験をお持ちであれば、買い物サイトを訪れた際に、過去にそのサイトで購入したり、購入まで行かなくても検索した商品がおすすめ商品として表示されていることに驚かれた方も多いと思います。
  現実の店舗でも、常連の購買傾向や購入履歴をベテラン店員が記憶していて、次の商品をおすすめするということは昔からよくある販売手法で、ネットで、人間の記憶に代わるものとして購入履歴やサイトのログ情報を元に、同じ商品や関連する商品をおすすめする仕掛けは、「レコメンド」と呼ばれ、比較的単純なプログラムで実現でき、かつ、それなりに効果のある手法として、これまでも比較的広範囲に採用されています。
  しかし、この方法では、はじめて来訪する、いわゆる一見の客には履歴も何もないので対応できません。
  そうすると、あらかじめ用意しておいた今週のおすすめ品を紹介するとか、初来店の方への特別クーポンなどを提供して、まずは1品でも購入してもらう仕組みを組み込んでおくわけです。
  ここまでは、リアルの店舗でも同じような対応をされていると思います。ところが、ネットの場合は、レジで現金を払って商品を持って帰るということがふつうはありません。つまりは、一度でも購入してもらうと、メールアドレスなり、配達があれば住所までもが確保でき、店舗側から何らかのアクセスできる顧客ということになります。
  もっとも、最近は、オプトアウト、といって、この連絡先にはいっさい連絡を取らないでくれ、という宣言をされる、つれない顧客も多いので、店の側としては、「メールを受信していただければ、毎回お得なクーポンをお送りしますよ」などとオプトアウトされない工夫を凝らすことになるのです。
  ともあれ、こうして一見さんであっても、アプローチが可能な顧客が確保できたわけです。なんとかして、この顧客にもういちど来店してもらう仕掛けが必要になります。
  たとえば、購入された商品の味や使い心地をたずね、あわせて、お得なクーポンをプレゼントたり、他にもお気に入りそうなものがありますと2度目の来店をうながすわけです。
  こうして、2度目3度目の来店をうながしていき、その間、来店が間遠くなるとご機嫌伺いをする、久しぶりに来店すれば、お帰りなさいクーポンをプレゼントする、そうこうして、一見の客を常連に育て上げるというパーソナルマーケティングが確立されてお店は大繁盛となるわけです。
  こうした手法は、ネットに先立つはるか昔から、優良顧客を抱える老舗のセールスマネジャーたちが知恵を絞って作り上げてきたもので、今に始まったものではありません。そうしたマネジャーたちは、自分の記憶の及ぶ範囲という規模において、ひとりひとりの顧客に季節ごとに手紙を送るといった事細かな対応をして、そういった商売を成り立たせてきました。
  しかし、それを現代の大量顧客を相手にする販売業務において同様に対応することは現実的ではなかったのです。
  ひとりひとりの顧客にみずから手紙を送るような対応ができる範囲は限られています。いきおい、現代においては大量の均一な内容のダイレクトメールが氾濫することになってしまったわけです。
  もちろん、最近の生協の共同購入チラシのように、オンデマンド印刷で、個人別に違った文面を印字したりすることは実現できていますが、莫大な設備投資が必要であったり、様々な状況に応じて、日々スタイルを変えていくフレキシビリティには限界があるようです。
  ネットの場合は、こうした対応について、きわめて柔軟です。
  あらかじめ用意されている顧客育成のプログラムに応じて、初回利用かどうか、それ以降の利用回数、前回利用からの間隔といった定量的な条件にもとづいて、電子メールによるクーポン配信などのお誘い、おすすめ施策。サイト来訪時に、来訪頻度や購入金額といった顧客情報にあわせ、特別なバナーや特典商品の表示などはごく当たり前に顧客別対応ができるのもネットならではです。
  しかも、この顧客育成のプログラムや、それの下敷きになるシナリオは、販売状況や顧客の反応を見ながら、日々柔軟に変更することも可能です。まさに、かつての敏腕セールスマネジャーたちが、目の届く範囲でしか実現しえなかったような細密な顧客対応を、数万人という単位でこなしてしまう仕組みが「マーケティングオートメーション」と呼ばれるものなのです。
  では、もう少し、具体的な取り組み方法や、その限界などについても触れておきましょう。(つづく)