コープソリューション2019年8月1日号掲載
業務提携したスーパーも百社近く、稼働する車両台数も3百台を超えています。独自に移動販売を展開している生協も増加しつつあり、もはや、新たな流通チャネルと位置づけるべき時期に来ているのかもしれません。
移動スーパーが単なる買い物難民対策に終わるのか、事業としての展望がどこまであるかを2回にわたって考えてみます。
■ 直営に不向きな収益モデル
とくし丸が公表している事業モデルによると、日販9万円、週6日稼働で216~270万円の月商となります。30%の荒利益率として75~80万円程度の荒利益です。
この中から、配送車両の償却費、人件費、店舗側の取り分などを勘案すると、個人事業主が30万円程度の月収を稼ぎ、店舗側も諸経費分として直販の半分ほどの荒利益が入るというビジネスモデルです。
ところが、このサービスを企業などが直営で運営すると考えた場合、正規社員ではないとしても、社会保険などを含めたフルタイム人件費として成り立つ金額ではありません。
もともと、高齢社会や地方における過疎化などを要因とする700万人といわれる買い物難民に対する支援として、社会貢献的要素が強いビジネスモデルです。
いくつかの生協でも取り組みを進めていますが、一部の例外を除き、いずれも採算に見合う事業ということではないようです。
■ ネットスーパーのジレンマ
一方、同様に、店舗を持たない業態という意味でのネットスーパーもなかなか広がりきらないジレンマを抱えています。単純に考えれば、移動スーパーよりも単純で、単に店舗にある商品を、ネットから注文を受けてピック(商品の集品)してお届けするだけなのです。
ところが、ここにスーパーマーケットのからくりがあるのです。何かというと、商品をピックするという作業は、通常、お客さんが自身で行ない、レジまで持ってきてくれて決済、自宅まで持ち帰ってくれるのです。
ネットスーパーでは、注文を受ける仕組み、商品をピックする作業、チェックアウト作業、お届けする作業、すべてが店側に付加されてしまいます。
セルフサービスという客側の力を借りることで、大量一括販売を実現し、その結果としての低価格を実現してきたスーパーの、セルフサービスでないという、ある意味において真逆を行っているのがネットスーパーです。
こう考えると、生協の週一宅配がどれほど合理化と効率化によって収益を確保しているかがおわかりいただけると思います。
■ 買い物難民対策で終わるか
とくし丸が公表しているデータや、イノベーション系のメディアやTV番組の報じている情報から見ると、このビジネスは、冒頭の数値データだけでは計りきれないものを持っているようにも思えます。
メディアの報じ方でも、ひとり暮らしの高齢者や老人介護施設などを巡回して重宝されたり感謝されたりしている社会貢献部分が強調されていますが、プラスアルファの取り組みと言うべき点が垣間見えてきています。
当日の品揃えは、訪問する高齢者の顔を思い浮かべながら、好みの商品を多めに積載するとか、次回巡回時の予約を受けたり、母店となるスーパーで扱っていないものをロードサイドの家電量販店で買いそろえて届けたりと、人間味あふれたふれあいのビジネスのように伝えられています。
しかし、これは見方を変えれば、今、ネット上で最先端のECサイトなどが展開しようとしているワンツーワンマーケティングのめざすところであり、極めて高度なオンデマンドセールスであるようにも思えます。
こういった手法の原点は、いわゆる町の個人商店、八百屋や雑貨店が当たり前に実現していた、ひととのふれあいをベースとした商売です。
現状の移動スーパーも個人事業主というオーナーが限られた個人顧客を相手にしているわけですから、場所が固定されていないだけで、かつての個人商店の手法が生きてくるのかもしれません。
ただ、それである限り、事業としてはオーナー個人の努力や力量に依存する部分が多く、新たな流通チャネルとなるような規模の創出には至らないでしょう。
本当にそうなのでしょうか。
ここまでは、多少ネガティブな情報をもとにしてお話ししましたが、近未来を見据えて、移動スーパー、移動販売がどのように変化する可能性を持っているかについて、次回、お話しします。
キーワードは、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)です。(つづく)