2019年11月1日金曜日

アフターデジタル 生協はまだ…[連載第50回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2019年10月1日号掲載

 オムニチャネルが喧伝されてから、すでに数年になります。一時の話題性のあるキーワードという味方もありましたが、ネットとリアルとの比率が変化する中で、その位置づけや、めざすべきところが大きく変わってきています。もはや、デジタルは新しいものから、当たり前のものになってしまっています。その現在地点から、近い将来を見据えた概念が「アフターデジタル」です。


■ オムニチャネルの変化
 以前、このコラムで、生協におけるオムニチャネルとは、一般の小売り事業者のネットとリアルの関係や、いわゆるO2O(Online to Offline)と呼ばれるネットからリアル店舗への送客とは異なり、生協独特の業態である宅配と店舗との、ネットを活用した相互送客であると説明しました。
 大きく考え方が変化したわけではありませんが、この1年ほどで、オムニチャネルは話題の中心から去り、O2Oは、もはや古語か死後のように扱われ始めています。
 生協でも宅配のEC比率が高まり、ウィークリー以外の配送サービスや、商品供給以外の各種サービスの展開、取り扱う品目の多様化などもすすんでいます。
 ただ、店舗とのオムニチャネルについては、まだまだかもしれません。

■ オンラインとオフラインの融合
 今、最もトレンディーなワードは、OMO(Online Merges Offline)、すなわち、オンラインとオフラインの融合です。
 toがMergesへ変化しただけと思われるかもしれませんが、この違いは大きいです。かつてのtoは、あくまでリアル店舗が主体であって、ネットは送客する側という従の立場でした。
 この数年で世の中は大きく変化しました。もはや販売の中心はネットであり、ネットが従ではなく、主になってしまった業種・業界が増えています。かつてカタログ通販大手と呼ばれた企業で、現在もその地位を維持できているところはいくつあるでしょうか。すでにその地位は、アマゾンやその他のネット通販に凌駕されてしまっています。
 とはいえ、ネットのシェアがリアルを上回ったという現状においても、ここまでの道筋は、これまでも何度かお伝えしたとおりで、多くの経営層は、道なりの変化でしかないと認識されるのではないかと思います。
 しかし、今回お伝えしなくてはならないのはネットの比重が高まってきたことによって、生協の顧客である組合員が求めているものが変化しつつあるという事実です。
 それは、CX(Customer Experience)と呼ばれる顧客体験の変化と熟成です。

■ 変化する顧客の体験と意識
 初期のネット販売は、カタログ通販の注文の形態が紙からネット上のツールへと変化したものでした。それ以外の点においては従来からの通販と何ら変わるところはありませんでした。
 ところが、昨今において、顧客に個別に対応したサイトやこれまでの買物に基づく提案、当日や翌日配送歯元より、ネットで注文してリアル店舗で半時間以内に受け取れるサービスなど、考え得るあらゆるサービスを通じて、顧客に利便性を実感させることができています。これがCX改革なのです。
 顧客は、望むときに望むサービスが提供される、買物が負担に感じられない、生活に必要な時間を、自分の満足のために充てられる、こうしたことを希求しています。
 そして、このCX改革を具現化するためには、あらゆる点においてOMOが実現できている必要があります。

  ■ リアルを包含したデジタル社会とは
 ネットを中心とした買物や、リアルでもモバイル決済の浸透などにより、あらゆる買物行動や個人の嗜好がデータ化され可視化されている世界をデジタル世界と呼び、リアル世界が、もはやデジタル世界なしでは成り立たない状態をアフターデジタルと呼んでいます。
 もはや、社会全体としてアフターデジタルが中心となりつつあるなかで、生協はどうでしょうか。
 生協の役職員は、組合員という顧客と日常的に、リアルに接しているために、その変化に気づきにくいのかもしれません。生協が変わらない状態では、組合員も生協との関わりを従来から変えることはできないのです。これまで通り、宅配を利用し、店舗を利用してくれてはいます。
 しかし、その一方で、外部の様々なOMO型のサービスに接していく中で、組合員のほうがデジタル社会のCXに目覚めてしまうことは想像に難くありません。
 顧客が変化している事実をしっかり見据えていく時期に至っているように思えます。