2019年12月1日日曜日

DXの処方箋[連載第51回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2019年11月1日号掲載

 DX(デジタル・トランスフォーメーション)、その重要性は、もはや国家的命題といわれるまでになっています。生協に限らず、様々な企業の経営層からは、DXの必要性や重要性については理解できているつもりでも、いざ、自分のところに展開するのに、どうすればいいのかわからないという声も聞かれます。
 「2025年の崖」、その対応はもう待ったなしの状況です。どう対処すればいいか、今回は概念論ではなく、自社において具体的な対応を進めるための処方箋をご提示しましょう。 
 今回は、経営層の方に読んでいただきたい内容ですが、もちろん、それ以外の方で、社内のDX推進に関心がある方は、これを参考にトップへの説明や説得にご活用ください。

 来たるべき「2025年の崖」。壁であればそこで立ち止まれますが、崖ともなると奈落への転落あるのみです。経産省がいかに強烈な危機感を持って名付けたかがうかがえます。
 DXの必要性や自社の状況については、経営層のみなさんであれば、一定の自覚と認識はお持ちでしょう。
 しかし、認識や自覚はあれど、まだ数年の猶予があるという考えでは問題です。
 DXは、システムや機械をお金で買ってくればいいものではないのです。全社的な意識改革、構造改革、そして、事業改革が必要なのです。

■ まずはトップが腹をくくる

 DXへの取り組みは、担当の部署を決めたり、担当者を任命しただけでは決して進みません。
 それでは、社内の多くの認識は、せいぜい年度方針、事業方針という受け止めです。
 ことの重大さをトップみずからが腹をくくって、全社に対して説得をし、意識を変えることが最初にすべきことです。
 それには、自社の状況を調査・分析し、5年から10年後をシミュレートしてみるのがいいでしょう。おそらく、そうした未来志向的な社内プロジェクトは存在するかもしれません。しかし、そうしたプロジェクトの多くは、現状の延長線上で悲観的ではない未来を描いてしまいます。

■ 全社横断型プロジェクト

 DXを推進する上で、次の5年、10年を考えるプロジェクトは決して意味がないわけではありません。
 ただし、トップの危機意識をしっかりと共有したうえで、企業が生き残り、さらに発展するための方策を検討できる全社横断的なプロジェクトを立ち上げる必要があります。
 また、プロジェクトまかせではなく、トップみずからも参加しましょう。
 プロジェクトの性格は、答申型ではなく、起案から実行までやり遂げる、完結型であるべきです。
 参加メンバーは、社内の部署責任者ではなく、部署を動かす力と権限を持った、次世代を担う人材を結集します。
 部署の責任者は、どうしても組織に責任を負う意識が先に立ちます。彼らを排除するわけではなく、プロジェクトメンバーをバックアップする側にまわってもらうべきです。

■ 温度差への配慮とワクワク感

 部署ごとの温度感にも注意が必要です。人事・経理といったレガシー系の部署は、DXからは縁遠い感じがありますが、人事であれば、テレワークやWeb会議の推進、eラーニングの展開といった、DXの基盤ともなる課題の推進役になれますし、経理もRPAによる業務の自動化を先行させることで、全社的な定型業務の削減の先導役ともなれます。
 現業系部署は、長年の改革トレンドに疲弊している可能性があります。IT化の走りの頃から、同じ課題に何度もチャレンジしてきた経験が、無意識に抵抗勢力化してしまっていることもあります。
 AIやIoTなどの新たなテクノロジーを身近に感じることで、挑戦へのモチベーションを高めてもらうことも必要でしょう。
 プロジェクトにとって最大の敵は、与えられ感や受け身の意識です。参加メンバーがこのチャレンジによって、自分たちの仕事や自分たちの顧客である組合員のくらしがどう変化するのか、夢や期待感、展望を持って参加できることも重要です。
 わたしは、そのことを「ワクワク感」と呼んで、「こんなことが実現できたらワクワクするね。」という意識を参加メンバーにも持ってもらうことを心がけています。

■ 成功のカギは…

 プロジェクトは、それなりの時間がかかるものです。特に事務局となるメンバーは、負担も大きくなりますので、ある程度の時期に専任化し、できれば、トップ直轄の改革セクションとして独立させることも考慮すべきです。
 また、DXに限らず、改革にヒトとカネは不可欠です。せっかくでき上がった改革プランに投資を惜しむようなことがないようにするのもトップの役割だと思っていただきたい。それが、DX成功のカギであると思います。