2020年1月1日水曜日

2020年への焦燥[連載第52回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2019年12月1日号掲載

 様々な取り組みや計画が進行してきたオリンピックイヤー2020年。この何年かのビジネス社会におけるマイルストーンのひとつに、いよいよ到達します。
 次なるは、2025年の崖です。この崖は突然に訪れるものではなく、すでにもう、わたしたちのまわりで変化は起きつつあります。
 この数年の到達点であり、来るべき2025年に向けた次なる変化の端緒の年である2020年が、わたしたちのビジネスにどのような影響をもたらすのかを、ある種の焦燥感を持って迎えようとしているみなさんは多いのではないでしょうか。



■ ITへの過剰な期待

 IT分野を中心としたコンサルティング大手のガートナー社が、毎年秋に公表する「先進テクノロジーのハイプ・サイクル」という図があります。話題となっている先進テクノロジーの成熟度と社会への採用度・適用度を表した図で、黎明期、過剰な流行期、幻滅期、回復期、安定期を経て、社会の基盤技術へと進化するというものです。
 2019年版では、レベル4と呼ばれる完全自動運転の一歩手前のレベルに達するにも、まだ10年の歳月が必要という幻滅期に自動運転技術を位置づけたり、話題の5Gは、過剰な期待度の頂上にあったりするという、やや厳しい指摘の多いレポートとなっています。
 ところが、同じレポートの2015年版、いまから5年前を見直してみると、AIの一角をなす基礎技術である「深層学習」、「IoT」、「音声翻訳」などが過剰な期待のピークといわれ、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)は、幻滅期という低い評価に位置づけられているのです。

■ 消えたテクノロジー達

 2015年版で過剰な期待や幻滅という評価を受けたテクノロジーの多くは、すでにわたしたちの身の回りにも登場してきており、回復期、安定期に位置づけられるのかもしれませんが、2019年版にはその名前すらありません。
 もはや、先進テクノロジーですらないほど、一般化しているという事実は、現在、過度に取り上げられたり、評価されたりしているテクノロジーの多くが2025年までには、実用化、商用化している可能性が高いことを意味しています。
 こうしたテクノロジーを現実のビジネスに取り入れているところは数多くあります。もちろん、流通業においても事例は増えつつあります。最近では、いずれも業界では大手のシステムベンダーと流通小売が組んで、小売りの持つ膨大な顧客データや購買データを、AIを使って分析し、最適な顧客戦略を立案するプロジェクトが、いくつもスタートしています。こうしたリリースの中に、生協の名前がないことが一抹の不安を感じさせます。
 新しいテクノロジーを一般化したシステムやサービスが、ある日、提案書の形で持ち込まれることがないとは言い切れませんが、その時点では、実用化のノウハウや初期の先行者利益は、別の同業他社に奪われてしまっているでしょう。

■ いまがDXの好適期

 冒頭にも述べましたが、各社が取り組んできた先進技術のビジネスへの転換が、この1年ほどの間に、次々と現実のものとなってきます。
 このタイミングこそ、みずからの組織のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現する好機でもあります。
 とある大手システムベンダーのトップが、あるインタビューでDXはあくまでツールだと断言して各方面からひんしゅくを買ったようです。システムベンダーの立場からすると、あながちそういう意識もあるのかもしれません。
 しかし、DXが単なるシステムツールや手技・手法でないことは、すでに多くのみなさんがご存じの通りです。
 DXは、今日的な事業構造改革であり、組織改革・機構改革です。そのために、精神論や小手先のテクニックではなく、新しいテクノロジーを中核としたデジタルベースの思考力を備えたデジタル人材によって実現されるべきものだと考えます。
 もし、あと1ヶ月を切った現時点で、DXのための準備が充分でないと感じられるのであれば、かなりの焦燥感を持って2020年を迎えていただく必要があると思います。