コープソリューション2020年7月1日号掲載
最近、Webの世界においてキーワードとなっているのが顧客体験です
顧客が今どんな商品やサービスを求めているかを感知して的確に提供することで、それによって顧客が感じる幸福感であったり満足感であったり、あるいは期待に応えた企業に対する信頼感や次への期待感などが醸成されたものを顧客体験と呼びます。
ではなぜ今、顧客体験が注目されているのでしょうか。それはデジタルの力によって、個々の顧客それぞれに新しい体験を提供できる時代がやってきたからなのです。
■ 顧客満足はあくまで結果
かつて顧客満足度という指標が重要視された時期がありました。もちろん、今日でもサービスを提供する側にとっては重要な尺度です。しかし満足度というのはあくまでも結果であって、どういう商品やサービスを常態として提供することができるかということが問われるべきだというのが当時からの帰結でした。
いま、顧客体験と呼ばれているものは、提供される商品やサービスそのものではありません。商品やサービスによって、自分たちの暮らしや生活のシーンにおいて、そうあってほしい、あったらいいなと思ったことを、提供する方法やタイミングをコントロールすることで、より満足度を高めることができる、そういった手法のことなのです。
これまでも、マーケティングやプロモーションの世界において顧客体験を提供する様々な手法やツールは生み出されてきました。
例えば、店舗の特売チラシなども顧客体験を生み出すツールのひとつです。特売があることをチラシで知って、普段よりも安い値段で商品を買うことができたという満足感を生み出せたからです。
■ すでに常態化した個人別対応
ところが、こうしたマスマーケティングの世界は ひとりひとりの顧客に対してアプローチすることはできませんでした。それが今日、デジタルの力を活用することで、顧客ごとに最適な体験を提供することができるようになったのです。 いわゆる、パーソナルマーケティングがそれです。
例えば、ポイントプロモーションもそうですし、パーソナルチラシのようなものも登場してきています。年齢や性別、個人の嗜好、過去の閲覧歴によって ECサイトの商品の陳列を変化させるということなどは、すでに皆さんもよくご覧になっている通りです。
こうした個人ごとに表示や提案内容を変えることは、技術的な面では、そう難しいことではなくなってきています。
一方で、いったい何を顧客体験として提案していけばいいのかということについては、模索が続いています。
■ 満足の得られる体験をイメージ
これまでのプロモーションの定石であった、価格、商品の特徴や特性だけでは限られた顧客体験しか提供できません。いわば、従来型の顧客満足の域を出ていないのです。
安く買えた、好みのものが買えた、だけではなく、もっと違った体験を提供しなくては、満足感を得てもらえなくなってきているということがいえます。
なぜ、顧客体験を想像できていないのか、それは、どの企業も具体的な顧客体験をイメージするベースがないからです。
自動車メーカーであれば、社員も車が好きだったり、毎日運転をしていたりして、その中からより満足のいく新しい体験を創出もできると思います。
ところがいま求められているのは、MaaSのような移動そのものをサービスとしてとらえる考え方です。そうなると、自動車メーカーの社員といえども、そうそうアイデアが出てくるわけではありません。
一方で、生協は生活者である組合員を起点として事業活動を行っています。当然ながら多くの役職員も組合員としても生協を支え、支えられて生活をしています。
日々の生活の中で生活者として自分たちの暮らしを考えた時に、こういったサービスがあれば便利だとかここでこういったサポートがあれば本当に助かるのにということに気がつく場面は多いと思います。
ましてや、生協役職員を取り巻く社会もデジタルへの移行が進んでいます。スマホひとつをとっても、今回のコロナ禍を契機に、新しい使い方やサービスが多数提供されてきています。
そういったサービスのひとつとして、生協がこんなサービスをしてくれたら、と思うことは多いのではないでしょうか。
生協役職員が、新しい顧客体験をイメージできるかどうか。これからのデジタルシフトの中で、生協がその存在意義を認められるかどうかのひとつのポイントになるような気がします。