生協に求められるITのスキルスタンダードとは |
生協の情報システムが抱える今日的課題 第2回 |
前回に引き続きIT要員について。今、IT業界ではスキルスタンダードという考え方が盛んに云われている。技能標準とでも云おうか。年代や熟練度に応じてこういった技能を持っていることが望ましいという考え方をより基準を明確にして、具体的に記述したものだ。生協のIT要員もこれまではこういった業界の標準におおむね準拠した形でプログラマからシステムエンジニアへという道を歩んできた時代もあった。
それを可能にしてきたのがホストコンピュータの存在だろう。最近でこそパソコンやサーバコンピュータの進出は企業におけるITのあり方を根底から変えることとなったが、こういったコンピュータは、いわばスポーツカーのようなもので、少量のデータを高速に検索したり登録したりといった作業にはきわめて大きな力を発揮する。しかし、生協の共同購入には大量の注文データを様々な形に並べ替えたり集計したりという作業、ダンプカーや貨物列車が、小回りはきかなくても大量輸送に適しているように、一日数回で構わないけれど、大量のデータを一括して処理できるような巨大なコンピュータシステムが必要だ。ホストコンピュータによる巨大バッチ処理が生協という事業モデルの中核のITシステムとなっているのだ。
ホストという単一のコンピュータによってほとんどの業務が行われてきたことから、IT要員の最大の使命は、ホストコンピュータの知識や技術を自分のものとして磨いていくことにあった。メーカーのエンジニア達の指導を受け、周囲には同じ道を歩んできた先輩達もいて、あたかも職人の世界に弟子入りしたかのように、目標は先輩達に負けないように、メーカーのエンジニアに一歩でも近づくようにホストコンピュータの操作からプログラミングの知識や技術を磨き続けていったわけだ。
しかし、最近のコンピュータ事情は大きく様変わりしている。パソコンやサーバコンピュータはウィンドウズという基本プログラムが主流だが、その上で動いているミドルウエアと呼ばれるプログラムの中核になるシステムは数も多く、しかも数年で標準といわれるものが交代していくという変化の激しい世界だ。どれかひとつを数年かけてマスターしたころにはすでにその知識は陳腐化している場合も多い。
メーカーのエンジニアは、自社製品が中心で、製品戦略的にもかなり先までのロードマップを作って社員教育を行っているが、ユーザー企業である生協の場合は、それぞれの業務用途に応じて最適な製品を選択することが求められるので、とてもこれまでのように数年をかけて内部要員を職人に育てているような時間的な余裕はない。もっとも、そういったジレンマからか、製品の選択権を放棄して、特定のメーカーに完全に依存してしまっている生協もいくつか知っているが、前回の規模の問題をクリアできない以上、それもある意味で賢明な戦略といえるのかもしれない。
こういう状況下で、一般の中堅ユーザー企業は、技術的な部分はおおむねメーカーの支援に任せて、内部IT要員は業務システムとIT技術の橋渡しに徹するべきだという意見が多い。もちろん、ITに関する知識がまったくないのでは問題だが、それは最初の数年で充分に習得できるものだ。今、コンピュータメーカーの人材育成の課題は現場力だと云われている。メーカーだけに技術はなんとかできても、依頼先の企業の業務システムの実態を的確に理解しシステム化プランを構築できる人材がメーカーでも不足しているという。生協においても同様ではないか。「現場」を理解できずに素人に毛が生えた程度の技能や経験に慢心して、井の中の蛙になっているIT要員のなんと多いことか。
彼らの仕事はITの専門家となることではなく、業務とIT、現場と支援メーカーを橋渡しして最適なITシステムを構築させ、きっちりと活用させていくことであり、それが最大の存在価値であるように思える。
(コープソリューション 2006年3月号掲載)
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