2020年7月1日水曜日

コロナ禍を改革の原動力に[連載第58回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2020年6月1日号掲載

   非常事態宣言は、一定解除の方向に向かいましたが。コロナウイルスへの感染の恐れがなくなったわけではありません。不安定な状況のなかで、経済活動やくらしが、コロナ禍以前に戻ると考えている人は少ないようです。
 厳しい経営環境に置かれた飲食業や百貨店、イベント関係はもとより、一時的な好況にも、安堵していられない業界もあります。生協もそのひとつです。この時期を社会全体の変革期ととらえることで、生協の事業についても、今だからできることがあると考えるべきではないでしょうか。



■ 意味を失う予算やKGI

 生協の宅配事業については、物流センターや配送現場で、年末最大物量を超える注文が、3月後半からずっと続いている状況で、悲鳴に近い声が上がっています。
 そうなると、もはや供給予算などKGIといわれる目標はあまり意味を持たなくなります。
 店舗も同様です。おそらく、今後、緊急事態宣言解除後の社会動向においても、外出自粛は継続するでしょうし、宅配需要や内食傾向は高止まりすることは間違いありません。
 緊急事態という非日常の中に身を置いているため、感覚が麻痺しがちですが、特需はいずれ終わります。そのときに、特需は厳しい前年実績として、減収という現実を突きつけてきます。

■ 否応なしの構造改革

 今回のコロナ禍は、今まで日常であった生活スタイルやビジネススタイルを根底から覆してきています。 つまりそれは、社会全体にある種の構造改革を求めてきているということです。
 近代国家が成立して以降、ビジネスも消費も、教育すら、人が集まりながら築き上げられてきた社会が、人との接触をある程度抑制しながら、これまで同様の、あるいは、これまで以上の関係性を持ち、これまで以上の経済活動を継続しなければならない、という時代へと一気に変わらざるをえなくなっています。
 けっしてこのことをネガティブに考える必要はありません。むしろ、こうした変革期こそ、新しいチャンスが数多く存在するからです。
 コロナ禍がある程度沈静化してくると、ひとや社会は元に戻ろうとするバイアスが働きます。しかし、震災や災害を見てもわかるように、復旧は復興以上に困難を伴います。完全に元に戻ることはありえないですし、また、元に戻すよりも新たに創造することのほうが、意味があることも多いからです。

■ 特需に流されない攻めの意識を

 今、特需に湧いている生協の事業かもしれませんが、このときだからこそ、この次を考え、準備しなくてはいけません。
 宅配需要は、すでに多くのライバルの参入を招きつつあります。ここまで需要が高まれば生協宅配のコンペチターも登場するでしょう。生協ほどのシステム効率や、規模を持たなくとも、採算が採れるめどが立ったと考える流通やその他の事業者は少なくありません。
そのときに、生協は宅配事業を守りに入るのでしょうか。
 ある程度安定した社会情勢では、なかなか取り組めなかった、挑戦的な取り組みが、今なら取り組める状況にあります。
 移動や繁華街への人出が制限されているなかで、ネットスーパー、夕食宅配、移動販売といった事業を一気に高度化し、規模を拡大したり、相互に組み合わせてリモデルしたりすることなど、今ならできることは数多くあります。
 生協宅配でしか扱えなかった商品を、一般の宅配便で届けるということも考えられるはずです。
 おそらく、すでに検討されている生協もあると思いますが、ネットスーパー事業においては、UberEatsなどとの協業を模索できないでしょうか。
事業だけではありません。業務遂行においても、テレワークが今後、当たり前になってくるとすれば、在宅を前提とした経験者の再雇用や、育児休職のあり方の再検討も必要になってくるでしょう。
実際にテレワークを実施してみての問題点や課題を解消し、Webコミュニケーションの円滑化などを図る必要があります。
おそらく、全国の生協の事務所で見られるような、密閉・密集・密接した作業スペースからの解放だけでなく、事務所コストの削減効果も狙えるはずだと思います。