2019年8月1日木曜日

ネット注文、前年比120%の罠[連載第47回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2019年7月1日号掲載


■ 好調なネット注文?

 様々な要因はあるにせよ、我が国の経済状況は、いつの時代にもある将来的な不安定さは持ちながらも、それなりに安定的な推移を見せています。
 生協の事業についても、数年前までの増収増益という好況ではないまでも、多くの生協で、底堅いと云っていい業績を残しています。
 その中にあっても、宅配を中心としたネット受注の利用人数は、前年度と比べて、少なくとも105%、生協によっては120%という高伸長を見せています。
 これは、ネット注文の周知や浸透を図る広報活動、注文機能の設計の軸足をパソコンからスマホへシフトさせてきたこと、また、「お気に入り」や「いつでも注文」といった便利な注文手段を充実させ、個人別のレコメンド型注文がようやく浸透してきたなど、これまでの努力が一定成果を上げているように思えます。

■ そこに隠された真実

 ここまで生協のネット注文を持ち上げはしましたが、この評価に大きな罠があることに気づかれたでしょうか。
 それは、実績の対象を利用人数に限定したことです。
 たしかに、利用人数においては高伸長となっています。しかし、これを供給高で前年比較すると、一気に一桁程度の伸長となってしまいます。
 もちろん、一桁であっても伸長としてはかなりのものですが、利用人数が20%も伸長している点からすると異常に低いとも云えます。
 まず、利用人数の伸長の理由が、生協の努力だけではなく、生協の宅配のコアな利用年代層である50~60歳代へのスマホの浸透がこの数年で一気に増加したことによるものが一因として考えられます。
 ところが、それに比例して利用金額が堅調であれば、ネット供給高も同様の伸長になるはずです。
 そうなっていない原因としては、ひとつには生協のネット注文の利便性に惹かれての利用ではなく、スマホ保有という新しいツールを手にしたことでの物珍しさも手伝っての注文方法の変更であることが想像できます。
 また、これまでの若年層であっても、パソコンよりスマホ利用者の方の利用点数が少なくなるという傾向がありました。これは生協の注文サイトの作りが、まだ本当の意味でモバイルファーストになり得ていないためであると分析されています。
 このため、初期には1回あたりの利用金額が、紙の注文書を含めた宅配全体の平均より高かったネット注文でしたが、ここ最近は平均を下回るようになりました。
 それでも、これまで生協を利用してこなかった層、特に若年層を新規に取り込むためにネット注文は必須、ということでしたが、すでに生協の宅配を利用している、しかも、コアな利用者が、単に注文方法を紙からネットへのシフトしただけであり、なおかつ、利用単価がそれによって減少するということになると、本末転倒と云われ兼ねない状況となります。

■ いくつもある打開策

 では、どうすればこの状況から脱却できるのでしょうか。
 それにはまず、増加しているネット利用者の構成に注目する必要があります。新規利用者の獲得に向けた施策がはまっているのか、世間一般のネット利用やスマホの利用の伸長による既存利用者のシフトかを把握することが第一歩です。
 新規利用者の増加が低調な場合は、不断の広報戦略が必要です。
 もちろん、宅配にお利便性に興味を持って加入された新規組合員を、そのままネット注文に誘導できる仕掛けは必須です。
 既存組合員のネット利用者についても、とるべき施策はあります。
 まずは慣れないスマホからでも、これまでの紙の注文書以上に注文をしてもらう対策です。
 すでに、紙の注文書でも、「お気に入り」登録された商品や過去注文商品の印刷の色を変えるなどは当たり前になっています。
 ネット注文は、そうしたレコメンド系には一日の長があります。急ぎの時には、「お気に入り」と過去利用商品からだけ選ばせることでの注文忘れを防止し、浮いた時間で、おすすめ商品にも目を向けてもらうことでのもう1品を確保できます。
 スマホ利用者を意識した注文方法の展開もポイントになります。全国的にも、スマホとWebカタログの組み合わせが予想外な効果を上げています。
 ネット注文への誘導効果の高い、Web限定企画や数量限定企画は、そのまま、宅配事業の供給の「真水」となるものですから、この分野に注力をすることで、1回の利用単価を平均より高い水準に維持している生協もあります。
 道なりの利用者増加だけに目を奪われることなく、ネット注文が、次世代の宅配事業の中核になるためにも、的確な業績評価と対策が不可欠だと思われます。