コープソリューション2019年6月1日号掲載
■ 生協こそがレガシーな組織
前回は、社会全体としての動向でしたが、ひるがえって生協はどうでしょうか。
言わずもがなですが、さらに厳しい状況にあります。
生協は近年まで都道府県を活動エリアとする生協法に縛られて広域化や共同化はあくまで事業連合という単位でしかなしえませんでした。
ようやく都府県を越えての合併が始まっていますが、広域化や巨大化といった規模によるメリットの恩恵には浴してきませんでした。
もちろん、地域に根ざしたという生協本来の成り立ちについて疑念を差し挟むつもりはありません。
あくまでビジネスモデルとしてのメリット・デメリットとお考えください。
例えば、ITシステムをとっても、ほぼ同じようなビジネスモデルでありながら、組織や法人が異なるためにそれぞれが別々に開発するということが長い年月にわたって続いてきました。
これまでも共同化の取り組みがいくつも起案され、あるものは頓挫し、あるものは成功してきました。それでもECにおけるCWSシステムのような成功例は数少ないといわざるを得ません。
■ 成功モデルゆえに遅れた改革
生協の宅配(個配・共同購入)のビジネスモデルも、長年にわたって、組合員から支持され、生協最大の事業を支えてきた素晴らしいモデルです。
しかし、それゆえに、モデル全体の大きな変更もなく、長い期間にわたって小規模なメンテナンスだけで命脈を保ってきたシステムが多く見受けられます。
そのため、生協のIT部門の要員は、同じ仕組みを連綿と受け継ぎ、保守管理することを最大使命として、まさしく、新しい技術や知識を磨くことに割く時間的な余裕もなかったのです。
まさしく、「2025年の崖」に最も強く影響されるのは生協なのかもしれないのです。
とはいえ、いまならまだ若干の時間が残されています。
メールやSNSなどで膨大になったコミュニケーション情報には、AIを投入して重要度の選別や内容の要約、自動返信などでの合理化が始まっています。
メールさえ送っておけば仕事をした気分になるようでは、もはや淘汰される時代になるでしょう。
レガシーな部門が持つビジネスルールなどには、決済EDI、人事評価にAIを投入する等の動きが強まっています。
一番のレガシー資産であるITシステムについても、既存システム基盤をプログラミングなしで移行できるローコード開発などの手法も、実用局面を迎えつつあります。
■ デジタル人材の育成こそ急務
IT活用によるビジネスモデルの構造改革が希求される中で、結局のところ、それを実現できるのは、ビジネスの中身を充分に理解する一方で、ITやデジタル技術についての造詣も深い、いわゆるデジタル人材ということになります。
残念なことに、生協の中ではこうしたデジタル人材がまだまだ充分には育ってきていないのです。
向こう5年ほどの時間軸の中で、デジタル人材を育成し、ビジネスモデルをデジタルシフトさせるために、いま何をしなければならないのか。それは、組織体制自体のデジタルシフトしかありません。
デジタルシフトとは、経営のリソースである、人・物・金、すべてに関わる仕組みや情報の流れを極限まで人間作業を排除し、高度な意思決定のみを残した事業形態のことをいいます。
業務の先端から末端までを見通し、どこに非効率な部分があるか、さらに効率化することができないかという視点をすべてのメンバーが意識すること。そして、経営層や上位者は、その対策への関わりを最大限に評価し、組織全体での取り組みへと昇華させる。こうしたデジタル人材の育成と活用以外に、生協におけるデジタルシフトの実現は難しいでしょう。