2005年8月4日木曜日

プリンタショックの背後にあるもの

プリンタショックの背後にあるもの


■ プリンタ市場を取り巻く情勢


 好調な業績を誇っていたキャノンが営業利益の下方修正を発表し、株価が一気に下落した翌日、プリンタ関連でキャノンとシェアを二分するセイコーエプソンもプリンタ販売の業績悪化と収益の悪化で業績の下方修正を発表しました。これに連動するように、リコーなどのプリンタ関連企業へも株式の連想売りが発生して、市場は今や「プリンタショック」と呼ばれる状態に陥っています。


 プリンタ市場の現状としては、国内市場はある程度飽和状態が続いているわけですが、おもに欧州向けの輸出市場でキャノンやエプソンの製品が高い人気の元で大きなシェアを獲得してきました。しかし、ここに来て、HPなどの海外ブランドの台頭による価格競争によって収益性が悪化してきたことが今回のプリンタショックを招いたといわれています。


■ プリンタショックの背景


 さて、ここで経済情勢を論ずるつもりは毛頭ありませんが、かといえ、経済の動向と不可分のビジネスの世界に身を置いているわけですから、まったく無視するわけにはいきません。そこで、いわゆる市場の動向とは違った観点で今回の出来事を分析してみることにしましょう。


 まず、パーソナルユースを考えていましょう。最大の利用目的はなんでしょうか。ホームパーティの案内状や住所録程度であれば、枚数は知れています。パーソナルで写真画質のインクジェットプリンターを購入する層の目的の最たるものは年賀状印刷ではないでしょうか。一方で、キャノンとエプソンというシェアを二分するメーカーのパーソナル機の中で上位機は実勢4万円台、普及機で2万円程度です。これを4年使うとして、年賀状を毎年100枚出す人であれば1枚あたりのプリンタコストは上位機で100円、普及機でも50円になります。さらにインク代も結構大きなコストです。写真画質を求めるとなるとフォト光沢紙も必要になります。どうせパソコンで文字も含めてレイアウトしてしまうのであれば、そのまま写真プリントにしてしまうほうがコスト的には安くて済みます。インク代もばかになりません。4色が6色に、ついには8色のカートリッジを必要とする機種まで登場し、インターネット直販でも8色で1万円を超えてしまうというもはや消耗品といえないコストになっています。


 こうして年末ごとに新機種が発売されるプリンタ業界の流れは、すでに消費者からは敬遠されはじめていて、プリンタの市場は国内から未開拓の欧州市場へと向かいはじめたところへ、海外ブランドの競合製品の登場、特にHPやDELLといった直販系の大手メーカーがプリンタとのセット販売を強化してきたために単体販売の両社が低価格競争に巻き込まれたという状況のようです。


 しかしながら、表面的には国際的な価格競争という様相を呈しながら、実際のところ、プリンタメーカーにとって最大の危機が迫ってきているのは意外に別方向からではないかと考えます。


■ ペーパー媒体の変化


 それは、情報の交換や情報発信そして記録の中心的媒体であった紙、あるいは印刷物というものが、やはりそれでも中心であり続けることはここ何十年かにわたって間違いないにせよ、その地位を次第に浸食されつつあるということなのです。おそらく、インターネットが普及したとはいいながら、新聞や雑誌は現在の姿形を変えずにこれからも残り続けるでしょう。それは、ラジオやテレビが登場したときでさえ、新聞や雑誌などのペーパーメディアは生き残ったばかりでなく、独自性を発揮してさらに発展を遂げたことからもいえると思います。


 ただそれは、大規模な出版業や印刷業の場合であって、わたしたちの身近にあるペーパーメディアは大きく変わりつつあるのです。考えてみれば、わたしも義務教育の終わり頃に謄写版印刷というものに出会って、学級新聞というメディアを初めて作ってから、学生時代の手書き原稿とコピー機の登場で簡単に作れるようになった同人誌、ワープロソフトとプリンターの登場で、かつてなら専門業者に頼まなければならなかったようなペーパーメディアがいとも簡単に作り出せるようになって、ついにはフルカラーで写真画質のものでも作り出せるところまで到達したわけです。まさに頂点を極めたといっても過言ではないかも知れません。


■ インターネットによるペーパーレスの進展


 そういった中で、実はプリンタメーカーを震撼させるような流れが起こっていたのです。それはメールやインターネット上のサイトの伸張が、これまで主流であったインクジェットプリンタの市場を周囲から取り崩し始めていたのです。もはや、写真をプリントして配るという習慣は、特に若年層を中心として大きく減りつつあります。企業でそうであるように、印刷物の抑制は、単に環境への影響を理由として削減を迫られているだけでなく、企業内のワークフローの中で、紙による情報公開や情報共有が不可能になる一方で、データによる配布や情報の流通、最後まで問題であった外部から到来する紙情報についてもイメージ処理が簡単かつ効率的に行われるようになったことで、一気に紙からの脱却が進み始めています。


 こうしたことは、大企業や先進的な組織から始まったことですが、IT化の進展や中堅以下の企業やパーソナルユースにおいても活用可能な低価格のイメージスキャナやかつてはアドビー社のアクロバットというソフトでしか作成できなかった文書イメージ処理のデファクトスタンダードであるPDFという形式のイメージデータを作成するソフトが低価格化し、ついにはフリーウエアでまで登場するに至って、一気に活用度が高まってきたのです。


■ OA化の時代は、むしろ紙の増産


 かつてOA化というキーワードがあり、そのめざすところがペーパーレスオフィスであるとうたわれた時代がありました。しかし、OA化の進展は、ワープロや表計算ソフトの活用で、むしろ紙資料が増大して、ペーパーレスには大きく逆行していたのです。もちろん、紙をハンドリングすることについての手間やコストの問題はOA全盛当時からすでに指摘されていたとおりですが、それを解消するだけのITインフラが整備されていなかったわけです。ようやく当時の理想であったペーパーレスオフィスやそれに伴う業務の効率化、環境への負荷軽減といった命題に解決の糸口が出てきたわけですから、これを充分に意識した企業内の業務フローの効率化や改革をすすめて行かなくてはならないでしょう。


 そして、最後のハードルといわれていた許認可申請や法的文書保管についても、e文書法や公的文書の電磁的記録による保管の促進といった施策で行政関係が一気に歩調を合わせてすすめようとしている現在、もはや障害となるのは既存の業務携帯や業務形式に拘泥する一部の経営者層や管理者層、経験者層、および改革抵抗勢力だけになってきているのです。


■ 時代を見極めたソリューション提案を


 時代の流れとしてのプリンタショックは、まだまだ続いていくと思われますし、プリンタ業界にとってはさらにきびしくなる可能性は高いといえます。しかし、コピー機大手の富士XEROX社のように、早くからPDFに対抗するDocuWorks(ドキュワークス)といったイメージ形式および管理のソフトをトータルソリューションとして提供しているメーカーもあります。時代の流れと方向性を見極めることも経営の力だということを認識していただく一方で、ソリューションを提案する側にとっては、プリンタショックの背後にあるものをいかに理解し、大きな時流に即した形での業務改善や経営改革を提案できるかが問われているものと思われます。


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