2009年12月7日月曜日

企業活動においてSNSは有効なツールか?③

企業活動においてSNSは有効なツールか?
第3回「口コミマーケティングと企業がとるべき方策」



インターネットビジネスの類型


 ネットコミュニティの現状については、ここまでで一定の分析ができたとしよう。
 それでは、このネットコミュニティをビジネスとしてどうとらえていくのか、どういった活用方法があるのか。


 まず、インターネット上でビジネスを行うということをいくつかの類型に整理してみよう。ここでは、インターネットプロバイダー(接続サービス)、ASP(ネットを介してのコンピュータ処理や各種機能の提供サービス業)は対象から外させていただく。


 第1の類型としては、すでに実社会において販売などの実績もある事業をさらに拡大する先としてインターネットを活用するケース。おそらくこのパターンが最も多いのではないかと考えられる。第2に実社会では販売実績や販売網といったビジネスインフラが未構築のケースで、ネット専業型でのビジネス展開を指向するケース。第3に、インターネットをプロモーションやマーケティングツールとして位置づけ、ビジネスそのものは実社会で完結させるというケースが考えられる。切り口は、インターネットとの位置関係と距離感によるものといえるだろうか。第2のケースではインターネットは販売手段であり、第3のケースでは広告媒体と位置づけている。第1はその中間だ。ただ、第2のケースにおいても、インターネットを単なる注文受付機能、たとえば、無人の電話注文受付の音声応答システムと同様だとは考えていないだろう。したがって、販売手段との位置づけの強弱が3つのケースの区分要素となる。共通する部分はインターネットのプロモーションおよびマーケティング機能という点だ。


 ネット販売については、わたしもいままさにその激戦の渦中にあって日々苦戦している世界なので、いろいろとお話ししたいことは多いのだがそれは別稿として、今回は、このプロモーションおよびマーケティングとネットコミュニティとの関係をお話しさせていただく。


口コミマーケティングの特徴


 プロモーションの世界において、今もっとも注目されているといって手法が「口コミ」(クチコミ)だ。バズマーケティングやバイラルマーケティングと呼ばれるもので、マスコミに対抗して、個人レベルでの声が形成するコミュニケーションの一種ということで、どうやら生みの親は大宅壮一氏だという。とすると、言葉自体はかなり以前から注目されていたようだ。新聞や雑誌テレビといったマスメディアが形成するコミュニケーションや情報発信に対して、一般市民が口伝えで発信する情報ということで、マスメディアが伝える「売る側」の広告に対して、「買う側」、「使う側」の声だということで、より高い信憑性と評価している人は多い。ただ、その反面、内容についてはあくまで伝聞にすぎないという不安定さもあるはずなのだが、どうも個人の意見だということで信用の方が勝っているようだ。商業化したマスメディアへの不信感の裏返しだろうか。
 こういった口コミも、これまでであれば、きわめて限られた範囲での広がりしかなっかたので、それほど注目はされてこなかった。しかし、電子メールや電子掲示板の登場が状況を一変させた。すでに言い古された言葉だが、誰でもがネット上では情報発信者になれる時代になったからだ。そうなると、企業もネット上でのバイラル、口コミに注意を払わざるを得なくなってきた。さらに、先進的な企業においては、この口コミを積極的にプロモーションやマーケティングに生かそうという取り組みも始まり、いまや口コミは企業の広告戦略の一端を担うまでになってきている。


ブログを中心とした口コミプロモーション


 こうしたバイラルや口コミの手段として活用されているのがブログやSNSだ。電子メールや電子掲示板が口コミの手段として早くに姿を消したのは、電子メールにおいては、いわゆる無差別配信の規制が徹底されはじめ、SPAM以外では個人が不特定多数にメール配信することなど考えられなくなってきたことによる。また、これも不特定多数に対する情報発信としては、早くから活用されてきた電子掲示板は、いわゆる匿名性を前提とする2chなどが主流となったことで、情報操作や作為的な誘導が可能であることから情報の信憑性に欠けるという評価を受けるばかりでなく、それを利用する企業側にもマイナスのイメージを持たれる可能性があることから敬遠されている。


 そこに登場してきたのが、個人HPの簡易版ともいうべきブログだ。一定のコメントやトラックバックという双方向のコミュニケーション機能もあり、情報の発信者が明確になっているという点において受け手にも安心感を持ってもらえる。そのため、形式は様々だが、ビジネスブログという企業が自分の名前でブログを公開して自社の製品やサービスを広告しているものが大変多くなっている。ただ、このビジネスブログは、あくまで広告という側面からは従来のマス広告とそう大きな違いはない。


 むしろ企業が目を向けているのは、個人が公開しているブログで、特定のテーマに特化していたり、語り口や表現にファンがついていたりするブログだ。そういったブログサイトを公開している人のことをブロガーまたはアルファブロガーと呼んで、いわばブログ世界におけるオピニオンリーダー的な扱いをしている。


 こうしたアルファブロガーをつかむことは、訪問者数の多い彼らのブログで自社の製品やサービスを取り上げてもらえるチャンスが多くなり、そのことは、ブログの特性上、トラックバックなどを通じて、その他のやや訪問者数においては劣るものの、数多くのブログサイトに同じ情報が掲載されることになり、検索サイトにおいてもっとも評価される被リンク数(どれだけのサイトからリンクされているか)を多く獲得でき、結果的にキーワード検索で上位に表示されることにつながる。


 そのため、企業側ではアルファブロガーに対して製品情報を提供したり、新製品などの発表会への招待、商品サンプルの無償提供といったことを行っているところも少なくない。そこまで行ったとしても、関わる作業やコストは、効果に比べて従来のマス広告のそれよりもはるかに少ないといわれている。
SNSは口コミマーケティングの切り札か


 しかしながら、ブログを使った口コミによるプロモーションは、プロモーション効果という点においては高い評価を得ているものの、マーケティングという側面からはやや違った評価となっている。それは、結局は広告を一方的に発信して、それが口コミという手法で広がりを見せているだけだというものだ。たしかに、どういった顧客層に支持されているのか、支持されていないのか、ということについてはなかなかつかみにくい状況ではある。そのため、インターネット上のブログや掲示板での書き込みを分析してどういった評価を受けているかというデータマイニングを行うシステムが考案され、それによるサービスも展開されてきているが、あくまでマイニングの域を超えてはいない。


 その点において、SNSであればどうだろうか。会員制かつ招待制のSNSであれば、ある程度の個人属性や会員間の相互関係も把握できる状況にある。しかも、形式は違えども、SNSのマイページというのは一種ブログのようなもので、口コミが広がる要素は充分に持っている。また、コミュニティ機能においては、特定のテーマごとに関心のある会員が集まって意見や感想を交換できる一方で、掲示板のような匿名性はないので炎上したり無責任な情報が氾濫する可能性も少ない。


 こうした点から、企業がSNSを口コミマーケティングツールの本命と考えたのもうなづけないではない。しかし、現実にはそこにミクシィの巨大な壁がそびえていたのだ。


 SNSを自社で運営するコストと、得られる情報やメリットは会員数に比例して大きくなることは、口コミの特性からしておわかりのことだと思う。比例度合いも、二乗かそれ以上に大きくなる度合いは高い。しかも、かかるコストはそれほど大きくはならない。それはSNSが基本的にユーザーサイドでの自立型のコミュニティであり、運営側はルールやマナー違反という面に注意していればそれほど大きな負荷はないからだ。(この部分には多少の異論もあると思うが、この稿ではあまりふれない。)


 ところが企業SNSで一定の規模の会員数を集めた例や成功例をあまり聞かない。いくつかの会員制サイトが企業とタイアップして成功例とされているのはあるが、あくまで従来型の企業や主催者制作型サイトで、SNSではない。かつて、ファッション系の通販会社が販売サイトとは別にSNSの専門サイトを開設して有名女性タレントをキャラクターとして採用し、10万人会員をめざすとしていたが、結局は1年足らずで撤退した。それでもSNSとしてはある程度の成功規模だったように思えるが、企業のめざすレベルではなかったのだろう。やはり、口コミを醸成しようとすると、前出のように10万人といった規模は不可欠となってくる。しかも、それでもミクシィはすでに1千万人という会員規模を持っている。この圧倒的な集中はどこからくるのだろうか。


 答えはある種単純かもしれない。SNSは会員制のクラブのようなものだ。毎日のように顔を出して仲間ともうち解ける場所だ。そういったひいきの店が何店も必要だろうか。ミクシィで検索していて、何十年ぶりかに同級生と出会った、というような再会の話題は尽きることを知らない。これも、同じコミュニティ空間に存在していればこそであって、企業の都合で、独自SNSを立ち上げたところで、よほどそこでなければ情報が入手できないといった特殊な要件かメリットがない限りは、あえて居心地のいい世界を離れてやってくるユーザーは少ないはずだ。


 こうやって考えてくると、我が国のネット世界において、ミクシィのひとり勝ちの時代は、もうしばらく、あと1~2年は続くと考えて間違いないだろう。そうなってくると、ここしばらくは、ネットコミュニティをビジネスで活用するという点において、独自SNSはよほど特殊な場合を除いて、成功の可能性は少ない。むしろ、ビジネスブログを中心に考えていくべきではないかというのがわたしの結論だ。ただし、寄らば大樹の陰、小判鮫商法とでもいうのだろうか。ミクシィを活用して口コミを広げる方法はないわけではない。ただし、公式に企業がミクシィ上でプロモーションを行うとなると、月に数百万円の費用がかかることをお忘れなく。


 この原稿を書いてから2年が過ぎた。SNSの世界に於いては、やはりまだミクシィの独走は続いているように見える。しかし、ニコニコ動画などの動画系SNS、ミニブログといわれるツィッターの台頭、リアルタイム動画中継システムUstreamの登場などで、もはやSNSという定義ではインターネット上のコミュニティサービスがくくりきれない状況となってきている。こうした状況で、狭義のSNSであるミクシィが、ミクシィアプリでさらにユーザーを増やしている点については敬服に値する。今後も、SNSを中心としたコミュニティビジネスから目が離せない。




2009年11月9日月曜日

企業活動においてSNSは有効なツールか?②

企業活動においてSNSは有効なツールか?
第2回「ミクシィはなぜひとり勝ちできているのか」


掲示板からSNSへ


 いまやネットコミュニティといって、すぐに答えが返ってくるものといえば2チャンネル(2ch)とミクシィだろう。ミクシィという言葉すらご存じないかたは、申し訳ないが、GooleでもYahooでも構わないので、検索窓に「ミクシィとは」[検索]とやってみていただきたい。あるいは、お知り合いのITコーディネータにお聞きいただきたい。ここでは、そこまでの解説はしない。おそらく、ネットビジネスやネットコミュニティに関心をお持ちで、ここまで読み進んでこられた皆さんであれば、そういう心配はないのではないか。


 2004年3月にサービスを開始したソーシャルネットワークサービス(SNS)のミクシィは、翌2005年8月には、早くも100万人の会員を突破している。一世代前のネットコミュニティであるパソコン通信の覇者ニフティサーブが100万人の会員に達するのに10数年を費やしたことから考えると、隔世のスピードだ。しかも、ミクシィは4ヶ月後の同年12月には200万人、2006年7月に500万人、そして2007年3月についに1千万人という大台に到達している。


 会員同士のグループであるコミュニティは数10万とも百万ともいわれ、1日の参照数(ページビュー)は2億をはるかに超えるという。おそらく今日時点においては、会員数は日本の人口の1割を超え、一概に比較できるものではないが、閲覧者数においてもテレビや新聞といったマスメディアに比肩されるような存在になっているといえる。


 社会的な影響力や、これは人が集まれば必ず起こる現象だが、犯罪行為や違法行為も散見されるようになってはきている。だがしかし、一方で、同様に大規模なネットコミュニティである2chが、誹謗中傷と罵詈雑言の巣窟のように評されるのとは対照的に、比較的おだやかなネットコミュニティを維持できているのは、会員制であることと、しかもその会員資格に紹介者が必須であるという、オープンなネットワークの中にある種、現実社会のしがらみを持ち込むことによって成しえた「安定」なのかもしれない。


 こうしたミクシィの騰勢に対して、他のSNSはどうなっているのだろうか。初回にもふれたが、ネットコミュニティの黒船襲来と話題になった米マイスペースはまったくふるわないまま低迷している。日本最初の商用SNSで現在でもビジネス系に強いといわれるグリー(Gree)も、auの携帯向け公式SNSに採用されたことで息を吹き返しているが60万人台、アバターという似顔絵風のキャラクターを使うことで若い年代層に支持されているカフェスタ(Cafesta)がミクシィに続く第2位という位置にあるが200万人には届いていない。


システム要因ではないミクシィの寡占化


 ではなぜ、ここまでの寡占化、いやもはやミクシィの独占状態といっても過言ではない状態が続くのだろうか。SNSシステムとしてミクシィが他に抜きんでたものがあるかといわれても、これといって特徴のあるものはない。これは、わたしの個人的な感想や報道によるものではなく、システム上の厳然たる事実があるからこう言える。


 それは、ミクシィを構成しているSNSのシステムは、ほとんど同じものがオープンソースとして公開されているからだ。オープンソースとは、有志の人たちなどが、ネットなどの公開スペースでプログラムやシステムを共同で構築して、使用権を一般に提供しているソフトウエアだ。ご存じのかたも多いと思うが、ある程度の知識のあるかたなら「Open-PNE」(オープンピーネ)というSNSシステムをご自分のサーバかPCにインストールしてみていただきたい。ログインして驚かれるかもしれないが、微細な点は違っていても、ほとんどまったくミクシィと同じシステムが、おそらく最低30分もあれば、自分の手中に収めることができるのだ。


 こうして考えると、システム的な優位性がミクシィを独占的な立場に置いているわけではないことは間違いなさそうだ。こう考えると、SNSというネットコミュニティの特性の中にその理由があるように思えてくる。


変質し始めたサイレントマジョリティ


 おそらく、従来の掲示板型のネットコミュニティが、書き手と読み手とに完全に分離することに関係があるのだろう。わたしもニフティのフォーラムマネジャーを10数年務めてきた経験があるが、フォーラムの会員数が3万人であった時点でも電子会議室(掲示板と同様)への発言者は1%未満だった。わたしも発言するメンバーに対して、電子会議室で発言するというのは、パネルディスカッションのようなもので、数人が井戸端会議をしているように思えても、その周囲を数百人、時には数千人が黙って見守っていることを忘れてはいけない、と軽率な発言をしないように諭したものだった。


 しかし、SNSでは参加者はまったくの観客ではない。SNSの特徴として、必ず個人のページというものがあり、それが、最小でも紹介者のページにはその人のページとして紹介されており、紹介者の別の友人からは、その人の存在を隠すことができないようになっている。この友人というつながりがSNSの最大の特徴の一つかもしれないが、それが実社会のそれとは異なるものであっても、友人関係を結ぶことで、はじめてお互いのページなどをその友人にも紹介できるようになっている。仮に紹介者以外とは一切の交流を絶っていたとしても、誰かの公開日記を見たり、その個人ページを訪れたりすると、足跡という訪問記録が残って、その人の訪問を持ち主に知らせてしまう。まさに、社会のしがらみのように周囲との関係性を縦横に結んでしまうシステムなのだ。


 もっとも、そういった関係性をいやがる人ばかりではないからこそ、また、ネット上での、そればかりではないことは承知しているが、よく取り上げられる2chのような匿名型のコミュニティにおける殺伐としたコミュニケーションに疲弊したり嫌悪感を抱いたりした人たちにとっては、自分の判断でコミュニティの範囲を狭めたり広げたりできる、自分にあったネットコミュニティという意味でSNSが受け入れられたのではないか。


 そうして、ある種、そこに居着いてしまった人たちにとって、友達もミクシィ上にできはじめ、また、これは規模のメリットということかもしれないが、わたしも長年疎通であった友人数人とミクシィ上で再会することができたが、こうした実社会にも通じるメリットがあって、ますますミクシィに集中する傾向は強くなって、いわば幾何級数的に拡大していったということなのではないだろうか。


 ここまで長々とミクシィ論を展開してきたが、この稿の目的がそれではないことはいうまでもない。ただ、ここまでごらんになってお気づきのように、これまでミクシィについて分析してきたことがすなわち、ネットコミュニティの今日的状況の分析になるわけだ。ただし、この状況分析が今日的であると言ったことをご記憶いただきたい。後段で少し将来的な動きについても触れさせていただく予定だからだ。


2009年10月12日月曜日

企業活動においてSNSは有効なツールか?①

テーマの概要:
 いまや、あらゆる場面で企業活動におけるインターネットのの活用ということがいわれている。インターネットビジネスに関するコンサルティングにおいて新しいトレンドであるSNSの提案が登場しないことはまずあり得ない。仕組み上は、低価格の投資で実現できるSNSだが、何事もその本質を理解していないと無意味な投資やコストに終わってしまうことがある。SNSが本当に有効に活用できるために必要な企業リソースや社内体制、コンセプトは何かを解説する。


なお、本稿は2007年に執筆したものに、最近の動向などを加筆訂正した。


第1回「ネットコミュニティツールの歴史を概観する」
第2回「ミクシィはなぜひとり勝ちできているのか」
第3回「口コミマーケティングと企業がとるべき方策」


企業活動においてSNSは有効なツールか?
第1回「ネットコミュニティツールの歴史を概観する」


SNSの黒船襲来


 数年前になるが、日本のネットコミュニティの世界に激震が走ったニュースがある。世界最大級といわれるアメリカのSNSネットワークサービス「マイスペース」が、日本に上陸するというものだ。当時全世界で1億数千万人の会員を有し、特にUSでは多数の著名なアーティストが名前だけでなく、ブログやマイページを連ねているというインターネット界の巨人マイスペースの登場に、国内最大手SNSサービス「ミクシィ」の株価は急落した。


 なにしろ、マイスペースジャパンの筆頭株主は、稀代の業界革命児、孫正義氏が社長を務めるソフトバンクだ。自社携帯電話との連動など、何かが始まると固唾を飲んで多くの人々が見つめる中、同年11月にマイスペースジャパンはベータ版サービスを開始した。


パソコン通信の時代 ネットワーク黎明期とフォーラムの隆盛


 インターネットビジネスの世界で、以前からその特徴とも優位性ともいわれている側面が「双方向性」だ。BtoC、対消費者ビジネスの世界において、コンシュマー(消費者)との双方向のコミュニケーションルートの確保というのは、ビジネス側にとって永遠の悲願に他ならない。インターネットという世界は、それを実現する手段だというものだ。しかし、ネット上での双方向のコミュニケーション手段という点においては、もっともベーシックなものとしての電子メールがある。しかし、ONEtoONEにおいては双方向だった電子メールも、BtoCの1対nの世界においては、チラシやテレビCMと同様、一方向のメディアでしかなかった。同様に初期の電子掲示板システムも、その名の通り1対nの情報発信ツールでしかなかったのだった。


 ところが、この電子掲示板システムを大きく変貌させたものがある。仕掛けとしては掲示板にリンク機能を持たせ、最初のトピックスに対してコメントが書き加えられるようにした電子会議室の登場だった。これによってはじめてネット上での双方向、しかも、BtoCを意識していたビジネス側にとって、予想すらもしていなかった参加者双方向のコミュニケーションをも作り出せることが確認できたことは大きな成果だった。


 こうして、まだ当時はインターネットではなく、パソコン通信と呼ばれていた1990年前後のネットワークの世界において、パソコン通信のサービスプロバイダーであった日本電気のPC-VANがCUG(クローズドユーザーグループ)という名称でテーマごとに参加者を募り、いくつかの電子会議室を提供して双方向のコミュニティサービスを提供し、その後、富士通系のニフティサーブでフォーラムという名称で発展し、最盛時には200万人の会員と300余のフォーラムとが活動し、ネットコミュニティを社会文化のレベルにまで引き上げた時代があった。しかし、フォーラムがそこまで盛んであったとはいいながら、やはり特定のサービスプロバイダーの会員向けサービスであったことから、ビジネスとしての企業参入には一定の制約もあり、また、社会全体としてはまだ一部の層の世界という見方が中心であり、社会的に認知されたというレベルにとどまっていた。


インターネット登場 匿名性のネット社会へ


 ネットワークの世界が社会的に広まったのは、やはり2000年以降のインターネットの普及によるものだといえる。特定のプロバイダーに属さなくても利用できるオープン性が広く受け入れられる要因ともなったが、プロバイダーによって担保されていた参加者個人の特定や様々な被害への対応といった参加者保護の機能はほとんど消滅し、不特定多数の参加者によって顔の見えない不透明な空間へと変質していったことがあげられる。


 ただ、この変貌は、いわばネットワーク社会が、それまでの特殊な一部の参加者によるものから一般の社会に受け入れられた、一般社会と同質のものへと普遍化した結果という見方もできる。一般社会の写像であるがゆえに、どうしても光の当たる部分と、「裏」とか「闇」といった部分も誕生せざるを得ない、いわば一般社会の縮図といったようなものが出現してしまったのだろう。マスメディアなどによれば、どうしてもこの「裏」や「闇」が注目されがちだが、そのことばかりを強調するあまり、本来あるべきネットの良さや自由さを規制しすぎるようになることは注意すべき点だ。もちろん、一般社会同様にルールや規制というものが適切に施行されていくべきことはいうまでもない。


 インターネットの拡大によって、コミュニケーションの手段として最初に注目されたのが電子メールだ。たしかにそれまでも電子メールは一定のシェアを有してはいたが、テキストベースでマーケティング的にはあまり大きな広がりを見せていなかった。しかし、インターネットブラウザとしてマイクロソフトがインターネットエクスプローラ(IE)をWindowsというOSに標準装備したのと同様に、アウトルックエクスプレス(OutlookExpress:OE)をWindowsに同梱したことによって、さらに電子メールのユーザーが拡大していった。ただ、電子メールそのものへの認識やマナールールといったものが未成熟なままでの急速な拡大は、コンピュータウィルスの蔓延や迷惑メールの爆発的な増加などでマーケティングツールとしてはあまり効果が期待できなくなっていき、個人間のコミュニケーションツールとしての活用にとどまっているのが現状ではある。もっとも、電子メールと他のWebサービスなどを組み合わせたオプトインメールなどについては、現在も進化してきており、迷惑メール対策やウィルス対策の進展とともに再度見直しが進んできているという状況もある。


個人日記型ブログからビジネスブログへの展開


 こうした中で、ビジネスの世界でのインターネット活用は、もっぱらホームページと呼ばれる静的Webサイトをベースとした情報発信型が中心だったが、2002年頃からWeblog、Web上の日記、記録という意味のサイトが、まずは個人サイトを中心にUSから広がりはじめた。通常のWebサイトとの違いは、HTMLというWebサイト専用のマークアップ言語を理解していなくても、簡単に情報をWebサイトに掲載できることから、毎日の日記のような情報発信に適しているというものだ。CGM(カスタマージェネレーテッドメディア:個人の情報発信用ツール)と呼ばれるジャンルに属するツールだが、のちに「ブログ」と呼ばれて日本でも一気に広まったものだ。

ブログが広まった理由として、CGMとして専門の知識や、HTMLを編集するという手間をかけずに、あたかも掲示板で発言するような簡単さで画像つきの情報を掲載することができることと、コメント機能として、掲示板ほどオープンではないにせよ、これまでの個人掲示板に相当するコミュニケーションツールが標準装備されていることがあるが、何よりも大きく広まった機能の特徴として「トラックバック」という機能があったことだ。このトラックバックという機能は、RSSフィードという掲載記事の所在情報をインターネット上に配信する機能のひとつで、これを使うことで、これまでのコメントが相手のWebサイトやブログ上で発信しなければならなかったのに対して、自分の持っているWebサイト上で、相手のブログでの発言にリンクを張ることで、自分のサイトの記事を充実させながら、相手とのコミュニケーションも図れるというもので、Webサイト間のリンクをさらに高度化したようなもの。このトラックバックの登場によって、従来のネットコミュニティが、広漠としたWeb上に発言やコメントが分散して存在し、リンクという機能でしか相互に結びあわされなかったものが、自動的かつ有機的なWeb(蜘蛛の巣状)の密接なつながりを実現することができた点にある。


 しかし、こういった荒らしや炎上をむしろ取り込んで、火事場や暴走行為の周辺に集まる野次馬をも読者として取り込んで急速に規模を拡大したのが2チャンネル(2ch)だ。管理者の「ひろゆき」と呼ばれる青年は、むしろ何も対応しないことで、いわゆる社会規範勢力や常識層と呼ばれる人々からはひんしゅくを買いながら2chを巨大掲示板システムへと発展させていった。内容ややり方に賛否はあるにせよ、人が集まり巨大化すれば情報も自然と集まるようになり、またそれが人を呼び込んでいくという循環が始まると、もはや一般の人々も企業も2chを無視できなくなって、ひろゆき氏も一時期マスコミの寵児的に扱われた時期もある。しかし、社会的にその存在が認知されながらも、誹謗中傷や匿名性、荒らしや炎上という負のイメージがあまりに強すぎるために、ビジネスユーザーにおいては、2chの存在や自社および自社製品についての発言やコメントには注意しつつも、積極的に2chをプロモーションなどに活用しようという動きはあまり大きな動きにはならなかったのも事実だ。


個人日記型ブログからビジネスブログへの展開


 こうした中で、ビジネスの世界でのインターネット活用は、もっぱらホームページと呼ばれる静的Webサイトをベースとした情報発信型が中心だったが、2002年頃からWeblog、Web上の日記、記録という意味のサイトが、まずは個人サイトを中心にUSから広がりはじめた。通常のWebサイトとの違いは、HTMLというWebサイト専用のマークアップ言語を理解していなくても、簡単に情報をWebサイトに掲載できることから、毎日の日記のような情報発信に適しているというものだ。CGM(カスタマージェネレーテッドメディア:個人の情報発信用ツール)と呼ばれるジャンルに属するツールだが、のちに「ブログ」と呼ばれて日本でも一気に広まったものだ。ブログが広まった理由として、CGMとして専門の知識や、HTMLを編集するという手間をかけずに、あたかも掲示板で発言するような簡単さで画像つきの情報を掲載することができることと、コメント機能として、掲示板ほどオープンではないにせよ、これまでの個人掲示板に相当するコミュニケーションツールが標準装備されていることがあるが、何よりも大きく広まった機能の特徴として「トラックバック」という機能があったことだ。このトラックバックという機能は、RSSフィードという掲載記事の所在情報をインターネット上に配信する機能のひとつで、これを使うことで、これまでのコメントが相手のWebサイトやブログ上で発信しなければならなかったのに対して、自分の持っているWebサイト上で、相手のブログでの発言にリンクを張ることで、自分のサイトの記事を充実させながら、相手とのコミュニケーションも図れるというもので、Webサイト間のリンクをさらに高度化したようなもの。このトラックバックの登場によって、従来のネットコミュニティが、広漠としたWeb上に発言やコメントが分散して存在し、リンクという機能でしか相互に結びあわされなかったものが、自動的かつ有機的なWeb(蜘蛛の巣状)の密接なつながりを実現することができた点にある。


 このブログの特徴に着目したのが多くの企業だった。情報発信という側面においては、従来のWebサイトと大きな相違はない。しかし、そのブログから発信されるRSSフィードは、その企業のユーザーやウォッチャーに対して、更新されたり新たに発信された情報が存在することをダイレクトに伝える機能を持っている。企業サイトの場合、いつ更新されるかわからない情報を期待して何度も来訪してくれるほどのヘビーユーザーは、そう多くはないのは実情だ。更新情報を伝えてくれるRSSフィードの存在ほど貴重なものはないといえる。また、そのユーザーが自分のブログを持っていて、そのブログに製品についてのトラックバックを記入してくれることで、今度は、そのブログ所有者のRSSフィードを受信している読者にも企業からの情報発信が伝わることになる。こうしたことから、ここ数年、Webサイトをブログに変更したり、製品単位でブログを開設する企業が大変多くなっている理由はこのあたりにあるのだ。


ブログからSNSへの発展 ーRSSフィードがもたらした変革ー


 このブログの登場によって、Webの世界の状況も大きく変わろうとしてきた。特にRSSフィードの存在は、従来型の電子掲示板にはない情報発信の形を築いてきたからだ。そうして、RSSフィードをベースにしたブログと電子掲示板を融合したような、統合的なネットコミュニティツールとして、ネット上に現実世界のスタイルを移植したようなシステムが登場してくる、それがSNS(ソーシャルネットワークシステム)だ。SNSは、個人がベースとなる日記を書き込むスペースがはじめにある。いわゆるブログにあたる部分だ。そして、共通のテーマについてコミュニティと呼ばれるグループを形成することができる。この中心になるのが電子掲示板だ。そして、SNSの最大の特徴は、オープンなネットコミュニケーションの世界にきわめてリアル社会に近い、人間関係のルールを持ち込んだことにある。それが、紹介制・招待制の導入だ。SNSには誰でもが参加できるものではない。かならず、すでに参加している人からの紹介や招待が必要となる。いわゆる飛び入り飛び込みの拒絶と紹介者の確保だ。したがって、SNSのメンバーはたどっていけば、必ず最初のひとりに行き当たるし、匿名であっても、その人物を知る紹介者が最低でもひとりはいることになる。このことが何を意味するかというと、完全匿名になりうる一般のネットコミュニティと違って、最低ひとりとはいえ、リアル社会における関係性を持った人物がコミュニティの中に存在するということで、結果として参加者それぞれの行動に自制機能が働く、匿名だから何でもありではなく、ひんしゅくを買うような行動をとると、紹介者に迷惑が及ぶという、ネット上の最新の仕組みでありながら、結構人間社会の古来からの関係性を利用しているというおもしろい仕組みでもある。


 このSNSが日本でも商用サービスとして登場してくるのが2004年頃のことだ。いくつかのサービスが登場したが、その中でもミクシィがしだいに会員数を伸ばしてきて、現在では1千1百万人と国内においてはひとり勝ち状態になっている。状況によってはSNSでもコミュニティの炎上騒ぎがないわけではないが、一般的には、現状においてもっとも穏やかで安心のできるコミュニティといっても過言ではないようだ。冒頭に書いた世界1億9千万人という登録者数を誇るマイスペースが鳴り物入りで登場して1年近くなるが、ミクシィがさらに会員数を伸ばす一方で、マイスペースはようやく会員数が百万人に達したに過ぎない。


 最近の動向としては、こうしたSNSと動画が一体化したニコニコ動画等が新しいトレンドとなりつつあるが、このあたりは、別稿にさせていただく。


マイスペースジャパン概要 http://creative.myspace.com/jpn/recruit/index2.html
(株)ミクシィ会社概要 http://mixi.co.jp/