いまや、あらゆる場面で企業活動におけるインターネットのの活用ということがいわれている。インターネットビジネスに関するコンサルティングにおいて新しいトレンドであるSNSの提案が登場しないことはまずあり得ない。仕組み上は、低価格の投資で実現できるSNSだが、何事もその本質を理解していないと無意味な投資やコストに終わってしまうことがある。SNSが本当に有効に活用できるために必要な企業リソースや社内体制、コンセプトは何かを解説する。
なお、本稿は2007年に執筆したものに、最近の動向などを加筆訂正した。
第1回「ネットコミュニティツールの歴史を概観する」
第2回「ミクシィはなぜひとり勝ちできているのか」
第3回「口コミマーケティングと企業がとるべき方策」
企業活動においてSNSは有効なツールか? 第1回「ネットコミュニティツールの歴史を概観する」 |
SNSの黒船襲来
数年前になるが、日本のネットコミュニティの世界に激震が走ったニュースがある。世界最大級といわれるアメリカのSNSネットワークサービス「マイスペース」が、日本に上陸するというものだ。当時全世界で1億数千万人の会員を有し、特にUSでは多数の著名なアーティストが名前だけでなく、ブログやマイページを連ねているというインターネット界の巨人マイスペースの登場に、国内最大手SNSサービス「ミクシィ」の株価は急落した。
なにしろ、マイスペースジャパンの筆頭株主は、稀代の業界革命児、孫正義氏が社長を務めるソフトバンクだ。自社携帯電話との連動など、何かが始まると固唾を飲んで多くの人々が見つめる中、同年11月にマイスペースジャパンはベータ版サービスを開始した。
パソコン通信の時代 ネットワーク黎明期とフォーラムの隆盛
インターネットビジネスの世界で、以前からその特徴とも優位性ともいわれている側面が「双方向性」だ。BtoC、対消費者ビジネスの世界において、コンシュマー(消費者)との双方向のコミュニケーションルートの確保というのは、ビジネス側にとって永遠の悲願に他ならない。インターネットという世界は、それを実現する手段だというものだ。しかし、ネット上での双方向のコミュニケーション手段という点においては、もっともベーシックなものとしての電子メールがある。しかし、ONEtoONEにおいては双方向だった電子メールも、BtoCの1対nの世界においては、チラシやテレビCMと同様、一方向のメディアでしかなかった。同様に初期の電子掲示板システムも、その名の通り1対nの情報発信ツールでしかなかったのだった。
ところが、この電子掲示板システムを大きく変貌させたものがある。仕掛けとしては掲示板にリンク機能を持たせ、最初のトピックスに対してコメントが書き加えられるようにした電子会議室の登場だった。これによってはじめてネット上での双方向、しかも、BtoCを意識していたビジネス側にとって、予想すらもしていなかった参加者双方向のコミュニケーションをも作り出せることが確認できたことは大きな成果だった。
こうして、まだ当時はインターネットではなく、パソコン通信と呼ばれていた1990年前後のネットワークの世界において、パソコン通信のサービスプロバイダーであった日本電気のPC-VANがCUG(クローズドユーザーグループ)という名称でテーマごとに参加者を募り、いくつかの電子会議室を提供して双方向のコミュニティサービスを提供し、その後、富士通系のニフティサーブでフォーラムという名称で発展し、最盛時には200万人の会員と300余のフォーラムとが活動し、ネットコミュニティを社会文化のレベルにまで引き上げた時代があった。しかし、フォーラムがそこまで盛んであったとはいいながら、やはり特定のサービスプロバイダーの会員向けサービスであったことから、ビジネスとしての企業参入には一定の制約もあり、また、社会全体としてはまだ一部の層の世界という見方が中心であり、社会的に認知されたというレベルにとどまっていた。
インターネット登場 匿名性のネット社会へ
ネットワークの世界が社会的に広まったのは、やはり2000年以降のインターネットの普及によるものだといえる。特定のプロバイダーに属さなくても利用できるオープン性が広く受け入れられる要因ともなったが、プロバイダーによって担保されていた参加者個人の特定や様々な被害への対応といった参加者保護の機能はほとんど消滅し、不特定多数の参加者によって顔の見えない不透明な空間へと変質していったことがあげられる。
ただ、この変貌は、いわばネットワーク社会が、それまでの特殊な一部の参加者によるものから一般の社会に受け入れられた、一般社会と同質のものへと普遍化した結果という見方もできる。一般社会の写像であるがゆえに、どうしても光の当たる部分と、「裏」とか「闇」といった部分も誕生せざるを得ない、いわば一般社会の縮図といったようなものが出現してしまったのだろう。マスメディアなどによれば、どうしてもこの「裏」や「闇」が注目されがちだが、そのことばかりを強調するあまり、本来あるべきネットの良さや自由さを規制しすぎるようになることは注意すべき点だ。もちろん、一般社会同様にルールや規制というものが適切に施行されていくべきことはいうまでもない。
インターネットの拡大によって、コミュニケーションの手段として最初に注目されたのが電子メールだ。たしかにそれまでも電子メールは一定のシェアを有してはいたが、テキストベースでマーケティング的にはあまり大きな広がりを見せていなかった。しかし、インターネットブラウザとしてマイクロソフトがインターネットエクスプローラ(IE)をWindowsというOSに標準装備したのと同様に、アウトルックエクスプレス(OutlookExpress:OE)をWindowsに同梱したことによって、さらに電子メールのユーザーが拡大していった。ただ、電子メールそのものへの認識やマナールールといったものが未成熟なままでの急速な拡大は、コンピュータウィルスの蔓延や迷惑メールの爆発的な増加などでマーケティングツールとしてはあまり効果が期待できなくなっていき、個人間のコミュニケーションツールとしての活用にとどまっているのが現状ではある。もっとも、電子メールと他のWebサービスなどを組み合わせたオプトインメールなどについては、現在も進化してきており、迷惑メール対策やウィルス対策の進展とともに再度見直しが進んできているという状況もある。
個人日記型ブログからビジネスブログへの展開
こうした中で、ビジネスの世界でのインターネット活用は、もっぱらホームページと呼ばれる静的Webサイトをベースとした情報発信型が中心だったが、2002年頃からWeblog、Web上の日記、記録という意味のサイトが、まずは個人サイトを中心にUSから広がりはじめた。通常のWebサイトとの違いは、HTMLというWebサイト専用のマークアップ言語を理解していなくても、簡単に情報をWebサイトに掲載できることから、毎日の日記のような情報発信に適しているというものだ。CGM(カスタマージェネレーテッドメディア:個人の情報発信用ツール)と呼ばれるジャンルに属するツールだが、のちに「ブログ」と呼ばれて日本でも一気に広まったものだ。
ブログが広まった理由として、CGMとして専門の知識や、HTMLを編集するという手間をかけずに、あたかも掲示板で発言するような簡単さで画像つきの情報を掲載することができることと、コメント機能として、掲示板ほどオープンではないにせよ、これまでの個人掲示板に相当するコミュニケーションツールが標準装備されていることがあるが、何よりも大きく広まった機能の特徴として「トラックバック」という機能があったことだ。このトラックバックという機能は、RSSフィードという掲載記事の所在情報をインターネット上に配信する機能のひとつで、これを使うことで、これまでのコメントが相手のWebサイトやブログ上で発信しなければならなかったのに対して、自分の持っているWebサイト上で、相手のブログでの発言にリンクを張ることで、自分のサイトの記事を充実させながら、相手とのコミュニケーションも図れるというもので、Webサイト間のリンクをさらに高度化したようなもの。このトラックバックの登場によって、従来のネットコミュニティが、広漠としたWeb上に発言やコメントが分散して存在し、リンクという機能でしか相互に結びあわされなかったものが、自動的かつ有機的なWeb(蜘蛛の巣状)の密接なつながりを実現することができた点にある。
しかし、こういった荒らしや炎上をむしろ取り込んで、火事場や暴走行為の周辺に集まる野次馬をも読者として取り込んで急速に規模を拡大したのが2チャンネル(2ch)だ。管理者の「ひろゆき」と呼ばれる青年は、むしろ何も対応しないことで、いわゆる社会規範勢力や常識層と呼ばれる人々からはひんしゅくを買いながら2chを巨大掲示板システムへと発展させていった。内容ややり方に賛否はあるにせよ、人が集まり巨大化すれば情報も自然と集まるようになり、またそれが人を呼び込んでいくという循環が始まると、もはや一般の人々も企業も2chを無視できなくなって、ひろゆき氏も一時期マスコミの寵児的に扱われた時期もある。しかし、社会的にその存在が認知されながらも、誹謗中傷や匿名性、荒らしや炎上という負のイメージがあまりに強すぎるために、ビジネスユーザーにおいては、2chの存在や自社および自社製品についての発言やコメントには注意しつつも、積極的に2chをプロモーションなどに活用しようという動きはあまり大きな動きにはならなかったのも事実だ。
個人日記型ブログからビジネスブログへの展開
こうした中で、ビジネスの世界でのインターネット活用は、もっぱらホームページと呼ばれる静的Webサイトをベースとした情報発信型が中心だったが、2002年頃からWeblog、Web上の日記、記録という意味のサイトが、まずは個人サイトを中心にUSから広がりはじめた。通常のWebサイトとの違いは、HTMLというWebサイト専用のマークアップ言語を理解していなくても、簡単に情報をWebサイトに掲載できることから、毎日の日記のような情報発信に適しているというものだ。CGM(カスタマージェネレーテッドメディア:個人の情報発信用ツール)と呼ばれるジャンルに属するツールだが、のちに「ブログ」と呼ばれて日本でも一気に広まったものだ。ブログが広まった理由として、CGMとして専門の知識や、HTMLを編集するという手間をかけずに、あたかも掲示板で発言するような簡単さで画像つきの情報を掲載することができることと、コメント機能として、掲示板ほどオープンではないにせよ、これまでの個人掲示板に相当するコミュニケーションツールが標準装備されていることがあるが、何よりも大きく広まった機能の特徴として「トラックバック」という機能があったことだ。このトラックバックという機能は、RSSフィードという掲載記事の所在情報をインターネット上に配信する機能のひとつで、これを使うことで、これまでのコメントが相手のWebサイトやブログ上で発信しなければならなかったのに対して、自分の持っているWebサイト上で、相手のブログでの発言にリンクを張ることで、自分のサイトの記事を充実させながら、相手とのコミュニケーションも図れるというもので、Webサイト間のリンクをさらに高度化したようなもの。このトラックバックの登場によって、従来のネットコミュニティが、広漠としたWeb上に発言やコメントが分散して存在し、リンクという機能でしか相互に結びあわされなかったものが、自動的かつ有機的なWeb(蜘蛛の巣状)の密接なつながりを実現することができた点にある。
このブログの特徴に着目したのが多くの企業だった。情報発信という側面においては、従来のWebサイトと大きな相違はない。しかし、そのブログから発信されるRSSフィードは、その企業のユーザーやウォッチャーに対して、更新されたり新たに発信された情報が存在することをダイレクトに伝える機能を持っている。企業サイトの場合、いつ更新されるかわからない情報を期待して何度も来訪してくれるほどのヘビーユーザーは、そう多くはないのは実情だ。更新情報を伝えてくれるRSSフィードの存在ほど貴重なものはないといえる。また、そのユーザーが自分のブログを持っていて、そのブログに製品についてのトラックバックを記入してくれることで、今度は、そのブログ所有者のRSSフィードを受信している読者にも企業からの情報発信が伝わることになる。こうしたことから、ここ数年、Webサイトをブログに変更したり、製品単位でブログを開設する企業が大変多くなっている理由はこのあたりにあるのだ。
ブログからSNSへの発展 ーRSSフィードがもたらした変革ー
このブログの登場によって、Webの世界の状況も大きく変わろうとしてきた。特にRSSフィードの存在は、従来型の電子掲示板にはない情報発信の形を築いてきたからだ。そうして、RSSフィードをベースにしたブログと電子掲示板を融合したような、統合的なネットコミュニティツールとして、ネット上に現実世界のスタイルを移植したようなシステムが登場してくる、それがSNS(ソーシャルネットワークシステム)だ。SNSは、個人がベースとなる日記を書き込むスペースがはじめにある。いわゆるブログにあたる部分だ。そして、共通のテーマについてコミュニティと呼ばれるグループを形成することができる。この中心になるのが電子掲示板だ。そして、SNSの最大の特徴は、オープンなネットコミュニケーションの世界にきわめてリアル社会に近い、人間関係のルールを持ち込んだことにある。それが、紹介制・招待制の導入だ。SNSには誰でもが参加できるものではない。かならず、すでに参加している人からの紹介や招待が必要となる。いわゆる飛び入り飛び込みの拒絶と紹介者の確保だ。したがって、SNSのメンバーはたどっていけば、必ず最初のひとりに行き当たるし、匿名であっても、その人物を知る紹介者が最低でもひとりはいることになる。このことが何を意味するかというと、完全匿名になりうる一般のネットコミュニティと違って、最低ひとりとはいえ、リアル社会における関係性を持った人物がコミュニティの中に存在するということで、結果として参加者それぞれの行動に自制機能が働く、匿名だから何でもありではなく、ひんしゅくを買うような行動をとると、紹介者に迷惑が及ぶという、ネット上の最新の仕組みでありながら、結構人間社会の古来からの関係性を利用しているというおもしろい仕組みでもある。
このSNSが日本でも商用サービスとして登場してくるのが2004年頃のことだ。いくつかのサービスが登場したが、その中でもミクシィがしだいに会員数を伸ばしてきて、現在では1千1百万人と国内においてはひとり勝ち状態になっている。状況によってはSNSでもコミュニティの炎上騒ぎがないわけではないが、一般的には、現状においてもっとも穏やかで安心のできるコミュニティといっても過言ではないようだ。冒頭に書いた世界1億9千万人という登録者数を誇るマイスペースが鳴り物入りで登場して1年近くなるが、ミクシィがさらに会員数を伸ばす一方で、マイスペースはようやく会員数が百万人に達したに過ぎない。
最近の動向としては、こうしたSNSと動画が一体化したニコニコ動画等が新しいトレンドとなりつつあるが、このあたりは、別稿にさせていただく。
マイスペースジャパン概要 http://creative.myspace.com/jpn/recruit/index2.html
(株)ミクシィ会社概要 http://mixi.co.jp/
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