企業活動においてSNSは有効なツールか? 第3回「口コミマーケティングと企業がとるべき方策」 |
インターネットビジネスの類型
ネットコミュニティの現状については、ここまでで一定の分析ができたとしよう。
それでは、このネットコミュニティをビジネスとしてどうとらえていくのか、どういった活用方法があるのか。
まず、インターネット上でビジネスを行うということをいくつかの類型に整理してみよう。ここでは、インターネットプロバイダー(接続サービス)、ASP(ネットを介してのコンピュータ処理や各種機能の提供サービス業)は対象から外させていただく。
第1の類型としては、すでに実社会において販売などの実績もある事業をさらに拡大する先としてインターネットを活用するケース。おそらくこのパターンが最も多いのではないかと考えられる。第2に実社会では販売実績や販売網といったビジネスインフラが未構築のケースで、ネット専業型でのビジネス展開を指向するケース。第3に、インターネットをプロモーションやマーケティングツールとして位置づけ、ビジネスそのものは実社会で完結させるというケースが考えられる。切り口は、インターネットとの位置関係と距離感によるものといえるだろうか。第2のケースではインターネットは販売手段であり、第3のケースでは広告媒体と位置づけている。第1はその中間だ。ただ、第2のケースにおいても、インターネットを単なる注文受付機能、たとえば、無人の電話注文受付の音声応答システムと同様だとは考えていないだろう。したがって、販売手段との位置づけの強弱が3つのケースの区分要素となる。共通する部分はインターネットのプロモーションおよびマーケティング機能という点だ。
ネット販売については、わたしもいままさにその激戦の渦中にあって日々苦戦している世界なので、いろいろとお話ししたいことは多いのだがそれは別稿として、今回は、このプロモーションおよびマーケティングとネットコミュニティとの関係をお話しさせていただく。
口コミマーケティングの特徴
プロモーションの世界において、今もっとも注目されているといって手法が「口コミ」(クチコミ)だ。バズマーケティングやバイラルマーケティングと呼ばれるもので、マスコミに対抗して、個人レベルでの声が形成するコミュニケーションの一種ということで、どうやら生みの親は大宅壮一氏だという。とすると、言葉自体はかなり以前から注目されていたようだ。新聞や雑誌テレビといったマスメディアが形成するコミュニケーションや情報発信に対して、一般市民が口伝えで発信する情報ということで、マスメディアが伝える「売る側」の広告に対して、「買う側」、「使う側」の声だということで、より高い信憑性と評価している人は多い。ただ、その反面、内容についてはあくまで伝聞にすぎないという不安定さもあるはずなのだが、どうも個人の意見だということで信用の方が勝っているようだ。商業化したマスメディアへの不信感の裏返しだろうか。
こういった口コミも、これまでであれば、きわめて限られた範囲での広がりしかなっかたので、それほど注目はされてこなかった。しかし、電子メールや電子掲示板の登場が状況を一変させた。すでに言い古された言葉だが、誰でもがネット上では情報発信者になれる時代になったからだ。そうなると、企業もネット上でのバイラル、口コミに注意を払わざるを得なくなってきた。さらに、先進的な企業においては、この口コミを積極的にプロモーションやマーケティングに生かそうという取り組みも始まり、いまや口コミは企業の広告戦略の一端を担うまでになってきている。
ブログを中心とした口コミプロモーション
こうしたバイラルや口コミの手段として活用されているのがブログやSNSだ。電子メールや電子掲示板が口コミの手段として早くに姿を消したのは、電子メールにおいては、いわゆる無差別配信の規制が徹底されはじめ、SPAM以外では個人が不特定多数にメール配信することなど考えられなくなってきたことによる。また、これも不特定多数に対する情報発信としては、早くから活用されてきた電子掲示板は、いわゆる匿名性を前提とする2chなどが主流となったことで、情報操作や作為的な誘導が可能であることから情報の信憑性に欠けるという評価を受けるばかりでなく、それを利用する企業側にもマイナスのイメージを持たれる可能性があることから敬遠されている。
そこに登場してきたのが、個人HPの簡易版ともいうべきブログだ。一定のコメントやトラックバックという双方向のコミュニケーション機能もあり、情報の発信者が明確になっているという点において受け手にも安心感を持ってもらえる。そのため、形式は様々だが、ビジネスブログという企業が自分の名前でブログを公開して自社の製品やサービスを広告しているものが大変多くなっている。ただ、このビジネスブログは、あくまで広告という側面からは従来のマス広告とそう大きな違いはない。
むしろ企業が目を向けているのは、個人が公開しているブログで、特定のテーマに特化していたり、語り口や表現にファンがついていたりするブログだ。そういったブログサイトを公開している人のことをブロガーまたはアルファブロガーと呼んで、いわばブログ世界におけるオピニオンリーダー的な扱いをしている。
こうしたアルファブロガーをつかむことは、訪問者数の多い彼らのブログで自社の製品やサービスを取り上げてもらえるチャンスが多くなり、そのことは、ブログの特性上、トラックバックなどを通じて、その他のやや訪問者数においては劣るものの、数多くのブログサイトに同じ情報が掲載されることになり、検索サイトにおいてもっとも評価される被リンク数(どれだけのサイトからリンクされているか)を多く獲得でき、結果的にキーワード検索で上位に表示されることにつながる。
そのため、企業側ではアルファブロガーに対して製品情報を提供したり、新製品などの発表会への招待、商品サンプルの無償提供といったことを行っているところも少なくない。そこまで行ったとしても、関わる作業やコストは、効果に比べて従来のマス広告のそれよりもはるかに少ないといわれている。
SNSは口コミマーケティングの切り札か
しかしながら、ブログを使った口コミによるプロモーションは、プロモーション効果という点においては高い評価を得ているものの、マーケティングという側面からはやや違った評価となっている。それは、結局は広告を一方的に発信して、それが口コミという手法で広がりを見せているだけだというものだ。たしかに、どういった顧客層に支持されているのか、支持されていないのか、ということについてはなかなかつかみにくい状況ではある。そのため、インターネット上のブログや掲示板での書き込みを分析してどういった評価を受けているかというデータマイニングを行うシステムが考案され、それによるサービスも展開されてきているが、あくまでマイニングの域を超えてはいない。
その点において、SNSであればどうだろうか。会員制かつ招待制のSNSであれば、ある程度の個人属性や会員間の相互関係も把握できる状況にある。しかも、形式は違えども、SNSのマイページというのは一種ブログのようなもので、口コミが広がる要素は充分に持っている。また、コミュニティ機能においては、特定のテーマごとに関心のある会員が集まって意見や感想を交換できる一方で、掲示板のような匿名性はないので炎上したり無責任な情報が氾濫する可能性も少ない。
こうした点から、企業がSNSを口コミマーケティングツールの本命と考えたのもうなづけないではない。しかし、現実にはそこにミクシィの巨大な壁がそびえていたのだ。
SNSを自社で運営するコストと、得られる情報やメリットは会員数に比例して大きくなることは、口コミの特性からしておわかりのことだと思う。比例度合いも、二乗かそれ以上に大きくなる度合いは高い。しかも、かかるコストはそれほど大きくはならない。それはSNSが基本的にユーザーサイドでの自立型のコミュニティであり、運営側はルールやマナー違反という面に注意していればそれほど大きな負荷はないからだ。(この部分には多少の異論もあると思うが、この稿ではあまりふれない。)
ところが企業SNSで一定の規模の会員数を集めた例や成功例をあまり聞かない。いくつかの会員制サイトが企業とタイアップして成功例とされているのはあるが、あくまで従来型の企業や主催者制作型サイトで、SNSではない。かつて、ファッション系の通販会社が販売サイトとは別にSNSの専門サイトを開設して有名女性タレントをキャラクターとして採用し、10万人会員をめざすとしていたが、結局は1年足らずで撤退した。それでもSNSとしてはある程度の成功規模だったように思えるが、企業のめざすレベルではなかったのだろう。やはり、口コミを醸成しようとすると、前出のように10万人といった規模は不可欠となってくる。しかも、それでもミクシィはすでに1千万人という会員規模を持っている。この圧倒的な集中はどこからくるのだろうか。
答えはある種単純かもしれない。SNSは会員制のクラブのようなものだ。毎日のように顔を出して仲間ともうち解ける場所だ。そういったひいきの店が何店も必要だろうか。ミクシィで検索していて、何十年ぶりかに同級生と出会った、というような再会の話題は尽きることを知らない。これも、同じコミュニティ空間に存在していればこそであって、企業の都合で、独自SNSを立ち上げたところで、よほどそこでなければ情報が入手できないといった特殊な要件かメリットがない限りは、あえて居心地のいい世界を離れてやってくるユーザーは少ないはずだ。
こうやって考えてくると、我が国のネット世界において、ミクシィのひとり勝ちの時代は、もうしばらく、あと1~2年は続くと考えて間違いないだろう。そうなってくると、ここしばらくは、ネットコミュニティをビジネスで活用するという点において、独自SNSはよほど特殊な場合を除いて、成功の可能性は少ない。むしろ、ビジネスブログを中心に考えていくべきではないかというのがわたしの結論だ。ただし、寄らば大樹の陰、小判鮫商法とでもいうのだろうか。ミクシィを活用して口コミを広げる方法はないわけではない。ただし、公式に企業がミクシィ上でプロモーションを行うとなると、月に数百万円の費用がかかることをお忘れなく。
この原稿を書いてから2年が過ぎた。SNSの世界に於いては、やはりまだミクシィの独走は続いているように見える。しかし、ニコニコ動画などの動画系SNS、ミニブログといわれるツィッターの台頭、リアルタイム動画中継システムUstreamの登場などで、もはやSNSという定義ではインターネット上のコミュニティサービスがくくりきれない状況となってきている。こうした状況で、狭義のSNSであるミクシィが、ミクシィアプリでさらにユーザーを増やしている点については敬服に値する。今後も、SNSを中心としたコミュニティビジネスから目が離せない。
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