2018年11月1日木曜日

働き方改革とデジタルシフト[連載第38回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年10月1日号掲載

世は挙げて「働き方改革」。仕事を効率化するとはいいながら、残業時間削減だけが先行する感のある企業も多く見受けられます。とりあえず人間の単純作業をロボット化するツールが喧伝されていますが、あるべき働き方改革がどういったものか。おそらく誰しもが、ITやインターネットなどのデジタル技術を活用するという方法論では一致するはずですが、改革の着地点が同床異夢の様相を呈しているようです。


■ セルフレジはなんのために?
 最近では、多くのスーパーでセルフレジを見かけるようになりました。買物の最後にレジで待たされてせっかくの楽しい気分が吹き飛ぶという経験は誰しもあるもの。もちろん、スーパーの側でも対策を講じてはいます。大型店などで、百台近いレジを並べて、混雑を緩和しようとしたり、混雑時にスタッフ総出でレジに入るなど、当たり前の光景でした。  セルフレジはレジのスタッフを確保できなくても、とりあえずお客様に自身でチェックしてもらうことで、混雑緩和をめざしたものですが、かえって時間がかかったなどという声も多くあります。

■ アマゾンGOのねらい

 レジそのものを排除するということで、アマゾンGOという店舗を米アマゾンが展開していますが、働き改革の話題が多い日本では、もっぱら、省力化、合理化のための施策と捉えられています。  ところが、現地のアマゾンGOを視察した人からの報告では、米アマゾンのめざしているのは、省力化、無人化ではないといいます。  店内には商品の補充や説明のためにかなりの数のスタッフが配置されていて、その数は通常のスーパーよりもむしろ多いのではないかということでした。  どうやら、米アマゾンがめざしていたのは、せっかく顧客が買物という楽しい体験をしているのを、レジ待ちなどで台無しにしないための施策であり、そのために買物をサポートするスタッフも配置していたのです。

■ めざすべきは「デジタルシフト」

 今、日本では国を挙げて働き方改革が叫ばれています。その目的とするところは、労働時間の短縮です。その手段として、業務の自動化、IT化による省力化が注目され、RPAツール(ロボティクス・プロセス・オートメーション、ロボットによる作業や手順の自動化ツール)がメディアや展示会場でもてはやされています。  たしかに、自動化され、合理化され、労働時間の削減につながれば、充分な成果には違いありません。  しかし、それは、働き方改革ではなく、生産性改善でしかないのではないかと思えます。  同じように話題となっている言葉にデジタルシフトがあります。デジタル化することで様々な作業や業務を自動化し、社会の仕組みの多くを変えていこうというものです。  人間がアナログベースで行って来たことを、主にインターネットを中心としたデジタル技術を活用することでの改善をめざすというものです。  ここに、生産性改善との大きな違いがあります。  デジタルシフトは、限られた人間の労働時間の中で、これまでよりもはるかに多くの情報や要素をコントロールしながら、顧客にもっとも素晴らしい体験を提供することと定義できます。  この場合の顧客とは、ほんとうのお客さんであったり、自身の属する組織やメンバーの場合もあるでしょう。また、顧客体験とは、言い換えれば、自分も含めたすべての相手に対して、アナログ時代であれば、個人の力量や共有不能なノウハウによってしか提供できなかった達成感や満足感を、均質に提供することのできる事象や結果だといえます。  働き方改革によって、残業時間は削減できたとしても、生産性が追いつかずに顧客満足度や自身のモチベーションが低下するようなことでは、会社にとってもマイナスですし、単なる切り捨てに過ぎません。

■ 第一線が使える道筋を

 ただ、このデジタルシフトというのも、一朝一夕にできるものではないのです。  システム化やIT化というレベルであれば、それこそ専門家に依頼して仕組みを構築すればなんとかなります。デジタルシフトは、ミクロ的にはそれぞれの仕事ひとつひとつにフォーカスして、それぞれに最小のコストで、最大のメリットを生み出すことを考えて行かなくてはならないのです。また、全員がそれに関わり、使いこなさなくては意味がありません。  もちろん、組織全体、社会全体と行ったマクロな視点も考えるべき立場の人も必要でしょう。  そのためには、デジタルシフトやその活用に即した人材の育成も喫緊の課題です。  生協の宅配や店舗といった第一線、いわゆる現場レベルでは、そういったリテラシーは不要と言われるかもしれませんが、現場を支える人たちが、デジタルシフトの恩恵を理解し、使いこなしていくように道筋を考えて行かなくてはならないでしょう。