コープソリューション2019年4月1日号掲載
■ 手が届く最新情報技術
最近では、様々なセンサー技術や画像解析の技術の進歩によって、ひと昔前までであれば大変な手間と費用をかけなければならなかった店舗内の客導線なども比較的容易に収集できるようになりました。
こうした技術のひとつの結実が無人店舗の実現だったりするわけです。
そこまで一気に行かなくても、現状の店舗における来店客の行動の可視化は、単に店内にとどまることなく、他店との競合状況や使い分け、買い回りといった店舗外での行動分析も可能になっているのが昨今です。
Web上では、さらに精緻な情報の収集が可能で、個人の嗜好や生活スタイル、果ては行動予測までも分析できる環境が整いつつあります。
しかし、そうした最先端の情報分析技術が、実際にそれを必要としている企業や組織の手の届くところにある訳ではありません。
たしかに、実現できる技術的裏付けはあります。情報を収集するシステムや集計する仕組みも比較的入手しやすいコストに落ち着きつつあります。
また、Web上で検索すれば、情報分析サービスを提供する会社はすぐにいくつも見つけることができるはずです。
すでに、いくつかの生協で情報分析ツールやサービスを導入しているという話を聞いています。
しかし、喉から手が出るほど欲しがっていた情報が入手できる状況にありながら、それによって大幅に売り上げを改善したとか、利益が上がったという事例がほとんど聞こえてきていないのはなぜなのでしょうか。
■ 定型的な分析の限界
例えば、いずれの生協でも商品の売れ行きや販売傾向を分析するのに、購入者の年代などを当てはめたグラフなどが報告書を飾ってはいると思いますが、その分析が直ちに商品企画の軌道修正に反映されることはないでしょう。
ひとつの商品、ひとつのサブカテゴリーを対象に、販売手法やチャネルがカタログかWebかといった、多種多様な要素を加味しながら今後の動向を予測するというのは、もはや人力の域を超えているのは明らかです。
分析すべき要素の数や収集されるデータのボリュームは、もはやビッグデータであり、本当の意味で解析や予測にはAIなどの力を借りなければ対応できない状況です。
おそらく、実際に日々の業務の中でデータの洪水に押し流されつつある人たちにはわかりきったことなのかもしれません。
■ AI時代に対応できる人材
それでは、ビッグデータを蓄積するシステムとAIを導入することで、解決する問題かといいますと、それは正しくはありません。
たしかに、AIを使ったシステムやサービスが少しずつ登場し始めています。では、そういったサービスが、お金を出して買ってきてすぐに使えるかというとそういうものではありません。
AIというのは、深層学習という仕組みを使って大量のデータから学習をすることで人間を超える判断力や予測力を獲得するものです。
世の中のいろいろな場面で同じような判断が行われるものであれば、どこかのAIを持ってくることができるかもしれません。
しかし、生協の宅配事業のように、地域性や独特のビジネスルール、サービスであるものは、なかなか外部からの移植などで対応できるものではありません。
AI化が進む中で、おそらく最後まで取り残される事業分野になる可能性が高いものです。
そうならないためには、まずは、生協の宅配事業における様々な情報を収集する仕組みを準備し、蓄積する努力を続け、さらに、多様な視点での分析や試行を専門に行う人材を早期に育成する必要があります。
データサイエンティストと呼ばれるこうした人材を、確保しておくことこそ、生協の事業がAIの活用時代においても遅れをとらないための方策だと思います。