コープソリューション2019年6月1日号掲載
■ 精神主義で乗り切れない現状
背景にあるのは、高齢(化)社会に伴う労働人口の圧倒的な不足です。ただ、それは、昨今の事情であって、それ以前から日本の労働環境における生産性の低さが遠因になっていたことがあります。
技術革新によって、労働現場での生産性は急速に向上しました。それによって、ホワイトカラー業務やサービス業に多くの人員が流れたこともあって、一時的な人余り現象が発生した時期があります。
2000年代初頭の景気低迷期、空白の時代においては人員を整理することはあっても生産性を向上させるという方向性はありませんでした。
当時、OA化という現在のIT化の走りのようなブームがありましたが、電話のメモまでワープロで打ったり、パワーポイントの資料の美しさを競う風潮など、今となっては笑い話のような時代もありました。
バブル期を謳歌した団塊世代が就労世代から引退し、労働人口が激減した中で、景気の回復とともにホワイトカラーの生産性向上が重要課題となり、サービス業、特に高齢者を受け入れる介護業界では、もはや外国人に頼るしかない状況に追い込まれています。
かつて、生産性を維持するために、日本特有の精神主義的な企業体質で乗り切ってきた企業が、過労死などの社会現象を惹起するに至りました。ことここに至って、ようやく社会も働き方を変えていくという必然性に気がつき始めたようです。
■ したくてもできないIT化
企業の生産性を向上させる方策として、最も有効なものは、言うまでもなくIT化でしょう。早い話が、人間がやるべき業務を自動化するというもので、最も合理的、効率的な対策です。
しかし、ここにも大きな問題が立ちはだかります。ITベンダーの要員不足によるIT化コストの高騰です。お金で片がつけばまだしも、依頼しても2年待ち3年待ちというケースもあるようです。
もちろん、外部に任せきりというわけにはいきません。頼りにすべき社内のIT部門が、疲弊しきっています。
昨年、経産省、文科省、総務省、厚労省などがまとめた報告書で、最もインパクトのある表現が、「2025年の崖」です。ITベンダーに限らず、企業内IT部門も、旧来からのIT資産の維持管理に終われ、新しい知識や技術を吸収する余裕もなく、技術やノウハウの伝承もままならないまま、あと5年ほどで、ベテランIT要員が定年を迎え始める。これが、「2025年の崖」なのです。
■ 時代に取り残されるレガシー組織
いまから20年前と比較して、企業の業務内容は大きく変化しています。製造現場では、ロボットの導入はもはや当たり前となっていますし、昨今はIoTなど、さらに高度な熟練の技までをITが肩代わりしてくれています。
ところが、ホワイトカラーの生産性はどうでしょうか。
郵便の時代からすると、コミュニケーション密度はメールやSNS、チャットツールの活用で飛躍的に濃くなっています。ところが、その反動で、情報の波に流されてしまうという声も多く、管理職などは半日をメールやツールの処理に費やしているという調査もあります。
また、企業間の契約や決済という取引の世界や、採用、人事といったHR(ヒューマンリレーションズ)でも、まだまだデジタル化はすべてではないようで、経理部門や人事、総務部門といったレガシーな組織に人員を割かれるという状況は大きくは様変わりしていません。
そういった中で、生協はさらに厳しい環境に置かれていることが明らかになってきています。(つづく)