2016年12月1日木曜日

今、求められるインターネットガバナンスとは?[連載第15回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年11月1日号掲載

  多くの生協でインターネット事業を今後成長・発展させるべき重点課題と位置づけて、それなりの投資や取り組みを進めてきています。
  日生協のCWS共同基盤をはじめとして、基本的な宅配受注のツールとしてのシステム整備は、EC業界標準に比肩するものとして、いずれの生協においても着実に役割を果たしつつあります。
  しかし、各地の生協で、事業全体の中でインターネット事業がどれほどを占めているかというと、取り組みを先進的に長年続けている生協でさえ、宅配事業の20~30%。多くは10~15%です。しかも、その内訳はというと、宅配の注文手段、受注ツールとしての事業高がほとんどであり、インターネット本来の機能を生かしたり、組合員のライフスタイルの変化に即応していたり、といえる部分は、まだまだそう多くはありません。
  例えば、スマホの保有が過半を超えるような現状にあっても、受注システムはパソコンを基本とし、決してモバイルファースト(優先的にスマホ対応を進める)になっていないことは幾度か指摘したとおりです。
  生協独特の成功事例の水平展開という必勝手法が成り立つような取り組みが、この分野ではまだ数例しか存在しないことが一因なのかもしれません。
  こうした中で、いくつかの問題点が露見してきています。宅配の注文手段、受注ツールとしての整備は、取り組みの差はあるものの、おおむね充足されてきています。一方で、各生協のインターネット担当部局では、あらたな取り組みの一環として、ツールや仕組みの開発や改善を起案することを求められます。チャレンジ、あるいは、強化すべき分野という組織内コンセンサスのもと、事業規模に見合わない予算措置がとられることもあるようです。
  こういった場合、インターネット担当部局が、しっかりとした体制のもとで構成されていれば問題は少ないでしょう。だが、多くの場合、限られた人員、事業組織階層や他部署から比較的独立したポジションにあり、組織内の合意プロセスに乗っ取らず、牽制がかからないこともあるようです。あってはならないことですが、担当者の思い込みやアイデアレベルの施策が闇雲に承認されてしまうケースなどもあるようです。
  情報システム部門が関わっていれば、ITガバナンスが働く場合もありますが、概してインターネット分野は基幹システムからも距離を置いていることが多く、情報システム部門の関わりも限定的になってしまいがちです。
  2020年に向けた生協の供給事業の大きな潮目を迎えようとしているちょうど今、インターネットも、これからの生協の事業に貢献できる道筋を見つけ出す節目にさしかかっています。
  実験やチャレンジという不確定な言葉ではなく、具体的になにをめざしていくのか、どういった成果を獲得していくのかを明確にする姿勢を経営トップが示す必要があります。
  かつて、情報システム部門が経営層からブラックボックス化していた時代がありますが、現在は、システム監査やITガバナンスが徹底されています。
  インターネット事業は、まだまだ未開拓であり、技術的な動向や変化が激しい分野です。だからといって、経営トップは要員任せにすることなく、将来の事業の中核になるべきインターネットと向き合う必要があります。それがインターネットガバナンスです。
  どの生協・事業連合も2020年をひとつの区切りとして、事業計画を組み立てつつあります。来年度2017年度から3ヶ年の取り組みが2020年の生協の姿を決めるといっても過言ではありません。
  インターネット事業も同じです。2020年のあるべき姿を描きながら、2017年度からの3ヶ年計画を立案するべきでしょう。
  めざすべき事業の到達点、それに関わる投資や経費をどう捻出するのか。自分たちだけで算段できる分野ではありません。他の生協や外部との協力関係を築き、研究開発の投資を抑えることを考えます。生協独特の成功事例の水平展開という必勝手法をこの分野にも適用するべきでしょう。
  日々進化するインターネットの世界です。現状コストも見直せば、必ずカットできるポイントは見つかります。
  担当部局には、漫然と結果のみを報告するような姿勢ではなく、他の事業分や同様にPDCAのサイクルをしっかりと回していくような指導を行う必要があります。
  こういったインターネット分野へのガバナンスを徹底するためには、経営トップや管掌役員が、不可知の分野だと逃げ腰にならず、真正面から理解し取り組んでいくことも必須要件です。
   そのために、知識や業界動向でわからないことがあれば、わたしのような外部のちからをうまく活用するなど、柔軟にすすめていくことも。最後はやや宣伝めいてしまいました。

2016年11月1日火曜日

生協の注文アプリのあるべき姿[連載第14回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年10月1日号掲載

  組合員が生協や生協のインターネットサービスに求めているものは、YAHOO!やGoogleといったマルチラウンドなサービス展開をし、インターネットポータルサイトとしてすべてを包含している存在になり代わるものではありません。
  TwitterやFaceBookなどのソーシャルメディアについても、生協がそれらを活用する側に回ることはあっても、みずからがコミュニティシステムを運営する必然性は、閉ざされたグループでの交流というある種の目的を持った場面を除いては、あまり考えられるものではありません。
  購買サイトとしても、アマゾンや楽天とは規模的にも扱い品目的にもかなりの開きがあります。
  もとより、年会費や送料もなく、食料品や日用雑貨、ふだん用の衣料というきわめて生活に密着した商品ジャンルで、週一注文、週一配送、過半の商品がリピート注文という定期購買型の生協の注文サイトとアマゾンや楽天とを比較することがナンセンスだといえます。
  こうした購買サービスの利用は、先に挙げたアマゾンや楽天を「購入することの楽しみを包含したオンデマンド型ショッピングサービス」と位置づけた場合、生協のそれは、日常のくらしの中で、「必要な物品を、もれなく、手間をかけずに調達するためのサービス」と定義できるかもしれません。ここでいう、「もれなく、手間をかけず」というのがキーワードであり、求められるアプリの第一のコンセプトです。
  生協のサービスを極論すれば、日常生活に必要な物品を、常に絶やすことなく自動的に補充してもらえるサービスと言い換えてもいいかもしれません。
  とある古くからの生協では、かつて、配達の担当者が組合員のご家庭の冷蔵庫や食品棚の中を確認し、不足する物品を勝手に注文するということで喜ばれていたといいます。勝手にと云うと語弊がありますが、組合員と担当者との信頼関係に基づく暗黙の了解、とでも云っておきましょう。
  まさに、これからの生協の注文も、組合員が一切の斟酌をせずに、必要な物品が必要なだけ家庭内に在庫されている。いわゆる家庭内在庫管理と自動注文、これが究極の姿でしょう。これを実現するには、かつては、気の利いた担当者がご家庭に上がり込まないと達成できなかったのかもしれませんが、それは今日的な対応とは云えない部分も多いです。しかし、現在では、そういったことをITの力を借りて実現することが、徐々にですが可能になりつつあります。
  すでに、一部の生協で活用されている家計簿アプリや冷蔵庫アプリといったものが、家庭内在庫管理の一翼を担っています。もともと生協で利用された商品の情報は生協が管理しています。家計簿をつけることで、生協以外の販売店で購入した物品の情報を登録することになります。こうして、家計支出を管理する家計簿によって、入ってきた物品を把握することができるようになります。冷蔵庫管理アプリはその反対で、消費した物品を把握するためのものになります。冷蔵庫だけでなく食品棚も管理することで、物品の消費や支出を管理することができるのです。
  とはいえ、こうした完全自動型の注文システムやアプリを一気に実現できるかというと、なかなかハードルが高いと云わざるを得ません。自動運転自動車にしても、まず、スタートは衝突警報から始まり、自動ブレーキ、進路逸脱防止、自動車庫入れと段階を踏んで有人運転手が乗車している前提での試験走行にまでたどり着きました。
  そこで、アプリの第二のコンセプトは、「成長するアプリ」です。
  ユーザビリティー(操作性や使い勝手)や提供するサービス機能について一気に完成形をめざすのではなく、組合員の反応、技術動向や後方支援システムなどの充実度を見据えながら、追加拡張や部分改修をしながら育てていくことが重要です。
   これは言葉にすれば簡単なように思えますが、実は、それを実現するためには、アプリの基本構造から見直していく必要があります。
   ご承知の通り、スマホのアプリとひとことで云っても、日本で主流となっているアップル社のiPhoneと、Google社の基本OS「アンドロイド」を搭載したスマホとがあり、その両方に対応したプログラムを作らなければならない宿命を背負っています。
   このため、最初の製造はもとより、ちょっとした改修も両方に行わなくてはならず、手間も費用も二倍かかるというのが悩みでした。
   最近では、両者の違いを包含して、同じ構造のプログラムから両方のプログラムを生成することができるシステムも登場してきています。
   こうした最新の技術を活用しながら、アプリを成長させていくことも、より使いやすく、かつ、使われるアプリを提供するためには必要な考え方ではないかと思います。

2016年10月1日土曜日

スマホアプリ第2の波の到来[連載第13回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年9月1日号掲載

  インターネット業界で、この数年間、常に上位に位置づけられてきたヒットキーワードに「モバイルファースト」があります。
  この言葉は、これまでのパソコンを中心としたWebサイトや画面設計をやめ、もはや利用者数や利用時間でパソコンを凌駕しつつあるスマホを中心に据えた取り組みを推奨するものです。
  ところが、なぜ、このキーワードが何年も上位に留まっているかというと、多くの関係者から指示され、その方向に様々な取り組みがなされているにもかかわらず、いまだに、スマホを中心とした使い勝手のよいサイトというのは、それほど多くはないという実態があるからなのです。
  若い世代を中心に、インターネットの利用や各種の情報収集にはスマホが中心で、もはやパソコンは仕事や学校の授業のためにしか使っていない人たちが増えてきています。
  そういった彼らが、異口同音に訴えるのは、パソコンサイトにはたくさんの情報があるのに、スマホサイトにはそれが反映されていないことが往々にしてあり、もはやパソコンを使わない彼らにしてみれば、インターネット上の情報発信が遅れた、「つまらない」サイトや企業に見えてしまっている、ということです。
  これは企業にとっては、集客や売上の低下、リクルートにおける人材確保にも支障が出る重大な事態なのです。
  ただ、企業やサイト運営者も手をこまねいていたわけではありません。従来からのパソコンサイトも手を抜くわけにはいきませんし、それに加えてスマホサイトを拡張しなくてはいけないわけですので、様々な負荷がかかってしまいます。それに対応するために登場したのが「レスポンシブ」と呼ばれるWebデザインの技法です。
  この技法は、パソコン向けにサイトを作ると、それがスマホにも適した形でサイトが作られることから、サイト管理者の救世主と呼ばれ、一時期ブームとなりました。
  しかし、結果から云うと、この技法もすべてのサイトを席巻するまでには至りませんでした。その理由は、云うまでもなく、モバイルファーストではなく、あくまでPCファーストであったからです。
  パソコン向けに最適化されたサイトデザインを、どのように変換してもスマホで見ると、表現や操作性において最初からスマホ向けにデザインされたサイトには及ぶべくもありません。
  では、スマホサイトを先に設計することで目的は達成できるかというと、なかなかそうはいきません。インターネットのサイトは、基本的にブラウザと呼ばれる標準的な表示プログラムで様々な表示や動作をコントロールしています。標準的であるが故に表現や動作に多くの制約があり、かゆいところに手の届くサイトはなかなか実現できません。
  また、ブラウザにもいくつかの種類があり、すべてのブラウザで同じ表示や動きをさせることは技術的にも難しく、どうしても無難な表現しかできないのです。
  そうしたWeb上での成約から解放される手段として、スマホアプリという手法があります。アプリというのは、インターネットと通信をしながら、実態はスマホ上で作動するプログラムのことです。
  アップル社のiPhone(ios)とグーグル社のアンドロイドという2種類の基本システム(OS)でほぼ寡占化されている現在のスマホ市場であればこそ、この2種類のOSに対応したアプリを作れば、ほとんどの表現や動作を思うとおりにコントロールできるわけです。
  アプリの構築は、スマホ向けのWebサイト構築より投資規模が大きくなることは課題ですが、それでも圧倒的な使い勝手の良さなどから、生協のインターネット事業においても、3年ほど前に第1次のアプリ開発ブームがありました。それまで、Webサイトで対応していたeフレンズなどの共同購入注文サイトをアプリに置き換える動きが始まりました。
  注文番号での注文で、スマホの小さなキーボードではなく、画面いっぱいに表示された大きな電卓型のキーボードから注文番号を入力できる「注文電卓」アプリは、類型を含め、全国ほとんどの生協で提供されている大ヒットアプリです。
  また、Webカタログをアプリ化することで、よりページめくりやページ内での移動を高速化したもの、商品の画像と品名などを分類や用途ごとにタイル状に画面に表示してタッチするだけで注文できるものなど、いくつものアプリが制作され公開されました。
  ただ、この当時のアプリは、Webサイトの注文機能を改善したりアプリならではの操作感を実現するにとどまったものが中心でした。そのため、今ひとつ利用が伸びなかったり、新規の利用者獲得に充分貢献できるまでには至っていませんでした。
  もちろん、組合員の生活の利便性向上に資するようなアプリの開発もいくつか行われていましたが、大きなトレンドにはなっていませんでした。
  そこへ、昨年あたりから新しい潮流が生まれはじめています。
  Webサイトの注文機能の焼き直しでも、単なる生活支援型でもない、新しい形の注文アプリです。
  背景には、この数年、組合員別の利用データの分析が進み、より精度の高い個人別おすすめ(パーソナルレコメンド)が可能になったことや、AI(人工知能)とそれを支えるビッグデータの活用が生協内でも取り組まれはじめたことなどがあります。
  この第2の波は、今年の末から来年の初めにかけて、いくつかの生協で姿を現しはじめるものと思います。
  この新しい潮流に期待したいものです。

2016年9月1日木曜日

ポケモンGOがもたらしたもの[連載第12回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年8月1日号掲載

  この号がみなさんのお手元に届く一週間ほど前。海外で先行して配信され、やや話題先行となっていたスマホゲーム「ポケモンGO」
が、ようやく日本でも配信され、一気に利用者が殺到して、社会現象にまでなっています。
  実は、わたしも、いちおうは仕事上の知識として必要ということにしていますが、スマホゲームや、ネットゲームに関心の高い、いわゆるオタクの端くれでもあります。
今回のポケモンGOの原型となったナイアンティック社のイングレスというゲームにも親しんでいるので、そのおおよその仕組みも想像できていましたが、イングレスがややマニアックなものであったことから、日本発祥のポケモンという万人受けしやすいキャラクターと結びつくことで、一気に広がりを見せることは当然という思いで今回の騒動をながめていました。
  ポケモンGOの最大の特徴は、なんといっても位置情報を元にし、AR(拡張現実)世界でプレイするというところでしょう。ベースになっている地図は、自分が生活し、活動している現実世界ですが、そこにいつの間にかポケストップやジムという拠点が、それもちょっとしたランドマーク的な場所に忽然と登場し、自分が歩くと、ゲーム上のアバターも、あたかも現実世界を共有するかのように移動していく。そして、その道すがらポケモンが出現する。まさに、GPSの位置情報を最大限に活用したゲームといっていいでしょう。
  こうした位置情報の活用は、以前からのカーナビ、スマホの普及に伴う地図アプリなど、今に始まったことではありませんが、近年ますますその活用の範囲が広がってきています。
  一方で、より精度の高いGPSを求める声も高まり、国産の準天頂GPS衛星も
準備が進められ、数年以内に誤差数センチ以内というサービスが提供される見通しです。さらには、屋外だけでなく、衛星からの電波が受信できない建物内や地下空間での位置情報をGPS電波同様の方式で把握可能な技術も整備されつつあり、もはや、地球上のあらゆる場所で位置情報を活用できる段階へと入ってきています。
  では、生協の事業への位置情報の活用についてはどうでしょうか。BtoBでの物流分野における活用はカーナビと組み合わせた配送ルート最適化などで実績もあります。今回ご紹介したいのは、BtoC、いわゆる組合員との関係の中での活用で、主には店舗での活用がイメージされています。
  まず、パッシブ(受動的)な利用としては、店舗における来店者の把握、および、フロア内での動向の調査というものがあります。
  あらかじめ、スマホにアプリをインストールして、組合員番号などを登録してもらう必要はありますが、そのスマホを持った組合員が来店したことが把握できます。これまでの来店客数は正確にはレジ通過客数です。本当の意味での来店状況、滞店時間などが把握できます。
  店舗入り口にセンサーなどの設備を設置することに比べると、スマホの位置情報を活用することの方がローコストになり、アプリインストール者へのポイント提供などによる収集するデータの拡大の原資も捻出できます。
  また、長年の懸案であった来店客の店舗内での行動調査、いわゆる客動線調査もきわめて容易になりますし、通過や他名前での停止なども把握できます。
  スマホとアプリという限られた対象者で実施する以外にも、GPSではありませんが、買い物カートに位置測定装置を取り付け、同様に客動線を把握、POS通過と合わせて、購買までの分析をする仕組みなどは、すでに東芝テックなどがサービス提供を開始しています。
  そして、アクティブ(能動的)な活用方法としては、まさしく、ポケモンGOにも関連してくるかもしれませんが、特定商品の棚前を通過すると、スマホが振動して画面上にその商品のクーポンが表示されたり、あらかじめ、買い物をするリストをスマホに登録しておけば、来店と同時に、そのリストにある商品を最短で手にできるルートを、スマホ画面上の店内レイアウトに表示したりすることなどは、想定の範囲内といっていいでしょう。
  もとより、最短であるはずのルート上に、なぜか店側がおすすめしたい商品の陳列の前を必ず通過する設定になっていたとしても、不思議ではありません。
  アイデアレベルでは、以前から語られてきた仕組みやツールではあります。しかし、実際に組合員に理解し、利用してもらえるような形にするという段階になると、まだまだ、実現には高い壁がありました。
  とりつきにくいといわれてきた位置情報をはじめとする最新技術と店舗利用者とのインターフェイスをより身近なものとしてくれつつあるのは、ポケモンGOのようなムーブメントのおかげなのかもしれません。

2016年8月1日月曜日

IoTやAIで変わる生協の事業構造[連載第11回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年7月1日号掲載

  今回は、やや引きの強いタイトルをつけてしまいました。先にお詫びしておきますが、今号だけで、このタイトルの内容を説明し尽くすことはできませんが、決してウソ偽りを書こうとしているのではありません。
  おそらく、IoTやAIについては、コンピュータにまつわる得体の知れない技術という印象をお持ちの方が多いでしょう。
  しかし、こういった技術が結び合わさることにより、いよいよ夢物語だったことが、現実に近づこうとしています。SFやアニメの世界では夢の部分を取り上げればよかったのですが、いよいよ現実となってくると、もっと世知辛い対応を考えておかなくてはならないのです。
  まず、端緒となるIoTについて説明しておきましょう。IoTは「物のインターネット」という言葉の英単語の頭文字です。翻訳しても何のことかはわかりません。端的に言えば、あらゆる製品に、高度なセンサーが内蔵されインターネットとつながることなのです。これによって、あらゆる機械や道具がいっせいにしゃべりはじめます。実際に言葉を発するのではなく、その製品の状態をデータで発信しはじめるのです。そうなると、これまで、人間が気にかけてやらなくてはならなかった製品の状態がすべて自動的に把握できるようになります。身近な例を挙げれば、植木鉢は植木の水分や養分が少なくなったことを知らせてくれます。おむつは、排泄があったことを知らせてくれます。たったそれだけのことです。その知らせを受ければ、あなたは植木に水や養分を補給し、おむつを交換するだけです。別に大仰な仕組みがなくても、これまでもできてきたことです。
  もう一歩進めてみましょう。冷蔵庫に設置されたセンサーが牛乳の残量を検知して、自動的に補充の注文を出してくれたらどうでしょう。
  でも、このあたりまでは、すでに以前からアイデアはありましたし、すでに似たような仕組みも実現できています。
  しかし、IoTが違っているのは、そういったセンサー技術だけで成り立っていないことなのです。
  昨年あたりに話題となったビッグデータ、今年のキーワードのひとつAI。AIは、かなり以前から人工知能という日本語に置き換えられていましたが、今年のAIは、「深層学習」という言葉に変化していますが、これらは、別々の技術ではなく、一体となって、大きな変化を作り出そうとしています。
  IoTで、いろいろな製品がいっせいに語りはじめるとしたら、その情報量は膨大なものになります。とても人間の頭脳では解析できるものではありません。それを統計的に解析し、傾向や特異値を割り出す技術がビッグデータです。そのデータを繰り返し学習することでAIは、より高度な判断や予測をする能力を身につけます。これが「深層学習」です。
  植木鉢の水分量センサーは、単に水やりのタイミングしか教えてくれないように思えますが、それが、地域や広域のデータとなれば、気象センサーとしても活用でき、農業に適用すれば自動農場などとも結びつきます。
  おむつからのデータで、お母さんに、今眠っている赤ちゃんがいつ目覚めるかの予想時間を知らせ他の用事を済ませたりもできるほか、健康管理や育児、介護、見守りなどヘルスケア全般のサービス提供にもつながります。
  冷蔵庫が牛乳を注文する、それは家庭のレベルでの合理化ですが、ビッグデータが集まれば、市場予測や生産計画の精度は格段に向上します。
  ただ、こうした夢の側面と、世知辛い現実とは、常に同居していて、すでに、こうした技術が一般化した段階での社会構造や労働環境の大きな変化が指摘されています。
  自動運転車の登場は、おそらく、マイカーよりも大規模物流を支える大型トラックなどへの導入が先行して、物流分野に大きなインパクトを与えます。
  宅配物流へのドローンなどの投入は日本などの都市環境や住宅環境ではなかなか難しいとしても、宅配ロッカーやコンビニ受け取りといった、受け取り手段が改良されれば、物流は一気に無人化・自動化される可能性があります。
  食品のうち、生鮮品や一部の嗜好品、いわゆるコンビニ商品以外は、宅配中心となり、店頭で購入しなくなるようになれば、食品スーパーの活路はどこにあるのでしょうか。
  「IoT、ビッグデータ、AIをはじめとした新たな技術により、世界的に『第4次産業革命』とも呼ぶべきインパクトが見込まれる」これは、経産省が4月に発表した日本再興戦略2016の中で、繰り返し語られている言葉です。
   これまで成長を遂げてきた生協も、この新しいパラダイムの中でどのように新しい価値創造を遂げていくかが問われつつあります。

2016年7月1日金曜日

ようやく動き始めた「マーケティングオートメーション」への取り組み(2)[連載第10回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年6月1日号掲載

  ここ数年、One to One、あるいは、個人対応型という言葉で、それまでのマスから、パーソナルへと移り変わってきたというマーケティングの世界ですが、その最大の背景は、ネットやWEBのセールスが世の中で大きな存在になってきたからに他なりません。
  リアル店舗では、特にスーパーマーケットなどにおいては、相変わらずチラシによるマスマーケティングが主流ですし、ポイントカードなどによる囲い込みも利用結果に基づくアプローチであって、ひとりの顧客に対する個別戦略としては充分なものとはいえません。
  とはいえ、現状におけるマーケティングオートメーションも、本当の意味ですべての顧客に対して個別に対応しているわけではなく、顧客をいくつかのパターンに類型化するところから始まっています。ただ、それが従来あるような過去の購買行動によるランクわけとかではなく、現時点での顧客の行動による類型化と、対応する施策への顧客の反応によって、さらに次の類型化を行うことで、次第に枝分かれした無数のパターンを作り出すというものなのです。
  ひとつのモデル例を挙げましょう。あるグループの顧客に対して、サイトへの来訪をうながすメールを送るとします。そのメールを開封した顧客をA群、開封しなかった顧客をB群とします。A群は、その後、サイトに来訪してログインしたAA群、サイトに来なかったAB群に分かれます。AA群は、最終的に商品を購入したAAA群と、購入しなかったAAB群とに分かれます。この結果に基づいて、メールを開封しないB群に対しては、関心を持たせるようなメールのタイトルに変更する、あるいは、メールではなく、コールセンターからの架電などのアプローチに切り替えます。AB群には、過去の購買履歴などから、より関心の高いジャンルの商品を紹介するメールや、特別な来店クーポンを配信するのです。AAB群には、最終的な購入を後押しする施策、割引クーポンや特別ポイントの付与などを提案します。こうして、メール配信から購入までのサイクルが終わった段階で、顧客はそれぞれの行動によりグループ化され、次のサイクルでは、そのパターンに応じたプロモーションが行われていきます。こういったサイクルを次々に繰り返していきながら、ひとりでも多くの顧客をAAA群へと誘導していくことをめざしていきます。
  オートメーションといいながら、それぞれのグループに対してどういった施策が最適かということについては、現状では人間がいくつかのパターンを作り上げていくことになります。しかし、この施策のバリエーションや成功体験を積み上げていくことで、より精度の高い顧客戦略が可能になるということなのです。
  施策の立案やグループ化する要素を決定する段階において、顧客の反応だけでなく、購買履歴や年代、ライフスタイルや嗜好などの要素を加味することで、さらに複雑なプロモーションも可能になりますが、そうなってくると、もはや、人間の思考だけではパターンを作り出すことも限界になってきます。
  そこで、昨今、この分野において、人間に代わって様々なパターンや施策を立案するための機能として注目されているのがAI(人工知能)、特にその中でも、パターン学習による認識を中核技術とするディープラーニング(深層学習)です。
  AIというと、コンピュータが人間に代わって複雑な思考を巡らすようなイメージがあります。しかし、無から何かを生み出す能力は、やはり人間の専売特許です。コンピュータが実現できるディープラーニングとは、数限りない実例とそれによる結果を果てしなく蓄積し、その中からパターンを導き出す法則を学習し、これから発生する事象に対して最適な結果を予測するというものです。
  これにより、顧客のどういった反応に対しても、最適なプロモーション施策を実施できるはずなのですが、チェスや囲碁のような、ルールが明確になっているものですら、世界最速のコンピュータといえど、人間相手に苦戦する状況です。読むに読めない買い物の心理を、完璧に紐解くまでには、もう少し時間がかかりそうです。

2016年6月1日水曜日

ようやく動き始めた「マーケティングオートメーション」への取り組み(1)[連載第9回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年5月1日号掲載

  昨年末のこの連載で、「ネットからの大量データをどう活用するか」というテーマを取り上げました。
  その際に、ネット上から顧客別に収集した膨大なデータから、キーとなる情報を集計・分析し、顧客ごとの特性に応じて自動的に次のアクションに結びつける仕掛けを「マーケティングオートメーション」と紹介しましたが、その内容についてもう少し詳しくご紹介しましょう。
  ネットで買い物をされた経験をお持ちであれば、買い物サイトを訪れた際に、過去にそのサイトで購入したり、購入まで行かなくても検索した商品がおすすめ商品として表示されていることに驚かれた方も多いと思います。
  現実の店舗でも、常連の購買傾向や購入履歴をベテラン店員が記憶していて、次の商品をおすすめするということは昔からよくある販売手法で、ネットで、人間の記憶に代わるものとして購入履歴やサイトのログ情報を元に、同じ商品や関連する商品をおすすめする仕掛けは、「レコメンド」と呼ばれ、比較的単純なプログラムで実現でき、かつ、それなりに効果のある手法として、これまでも比較的広範囲に採用されています。
  しかし、この方法では、はじめて来訪する、いわゆる一見の客には履歴も何もないので対応できません。
  そうすると、あらかじめ用意しておいた今週のおすすめ品を紹介するとか、初来店の方への特別クーポンなどを提供して、まずは1品でも購入してもらう仕組みを組み込んでおくわけです。
  ここまでは、リアルの店舗でも同じような対応をされていると思います。ところが、ネットの場合は、レジで現金を払って商品を持って帰るということがふつうはありません。つまりは、一度でも購入してもらうと、メールアドレスなり、配達があれば住所までもが確保でき、店舗側から何らかのアクセスできる顧客ということになります。
  もっとも、最近は、オプトアウト、といって、この連絡先にはいっさい連絡を取らないでくれ、という宣言をされる、つれない顧客も多いので、店の側としては、「メールを受信していただければ、毎回お得なクーポンをお送りしますよ」などとオプトアウトされない工夫を凝らすことになるのです。
  ともあれ、こうして一見さんであっても、アプローチが可能な顧客が確保できたわけです。なんとかして、この顧客にもういちど来店してもらう仕掛けが必要になります。
  たとえば、購入された商品の味や使い心地をたずね、あわせて、お得なクーポンをプレゼントたり、他にもお気に入りそうなものがありますと2度目の来店をうながすわけです。
  こうして、2度目3度目の来店をうながしていき、その間、来店が間遠くなるとご機嫌伺いをする、久しぶりに来店すれば、お帰りなさいクーポンをプレゼントする、そうこうして、一見の客を常連に育て上げるというパーソナルマーケティングが確立されてお店は大繁盛となるわけです。
  こうした手法は、ネットに先立つはるか昔から、優良顧客を抱える老舗のセールスマネジャーたちが知恵を絞って作り上げてきたもので、今に始まったものではありません。そうしたマネジャーたちは、自分の記憶の及ぶ範囲という規模において、ひとりひとりの顧客に季節ごとに手紙を送るといった事細かな対応をして、そういった商売を成り立たせてきました。
  しかし、それを現代の大量顧客を相手にする販売業務において同様に対応することは現実的ではなかったのです。
  ひとりひとりの顧客にみずから手紙を送るような対応ができる範囲は限られています。いきおい、現代においては大量の均一な内容のダイレクトメールが氾濫することになってしまったわけです。
  もちろん、最近の生協の共同購入チラシのように、オンデマンド印刷で、個人別に違った文面を印字したりすることは実現できていますが、莫大な設備投資が必要であったり、様々な状況に応じて、日々スタイルを変えていくフレキシビリティには限界があるようです。
  ネットの場合は、こうした対応について、きわめて柔軟です。
  あらかじめ用意されている顧客育成のプログラムに応じて、初回利用かどうか、それ以降の利用回数、前回利用からの間隔といった定量的な条件にもとづいて、電子メールによるクーポン配信などのお誘い、おすすめ施策。サイト来訪時に、来訪頻度や購入金額といった顧客情報にあわせ、特別なバナーや特典商品の表示などはごく当たり前に顧客別対応ができるのもネットならではです。
  しかも、この顧客育成のプログラムや、それの下敷きになるシナリオは、販売状況や顧客の反応を見ながら、日々柔軟に変更することも可能です。まさに、かつての敏腕セールスマネジャーたちが、目の届く範囲でしか実現しえなかったような細密な顧客対応を、数万人という単位でこなしてしまう仕組みが「マーケティングオートメーション」と呼ばれるものなのです。
  では、もう少し、具体的な取り組み方法や、その限界などについても触れておきましょう。(つづく)

2016年5月1日日曜日

Webカタログの「功」と「罪」(2)[連載第8回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年4月1日号掲載

  さて、前回の記事の中で、Webカタログが果たした功績について、生協ECの利用者が、初めてECらしい注文方法にふれることができた点を挙げました。
  たしかに、それまでと違って、当時はまだスマホが登場する以前だったため、パソコンにはなりますが、それさえあれば手元にカタログがなくても注文できるということは、注文番号での注文だけで、商品画像を表示しての注文が生協ECにはなかったこともあって、画期的な仕組みではありました。
  とはいえ、商品カタログをそのまま掲載したということは、カタログ紙面と同一のプロモーションしか提供できないというECにとってはある意味致命的な限界をも示したことになります。
  やはり、ECとはその特性を生かして従来型のプロモーションを超えたアプローチがあってこそのものだからです。それ故に、紙媒体からECへの移行の容易性やECを利用者が実感できる利便性を踏まえて、Webカタログは生協ECにおける入門編であると思っています。
  こうして登場したWebカタログですが、生協EC「eフレンズ」の利用構成比で30%程度に達する生協もあり、未だに半数近い利用比率を堅持する番号注文に次ぐ注文方法としての地位を確立しています。
  その後、日本生協連のインターネット共同基盤CWSの登場とともに、単純に紙のカタログをWeb化しただけの存在から、多様化したEC機能にあわせて、より高機能になったWebカタログが登場します。
  このCWS版の開発には筆者も関わらせていただいたので、思い入れもあるのですが、凸版印刷(株)が印刷製版会社ならではの技術で、製版媒体からより安定的な電子カタログの制作技術を提供してくれました。
  機能面では、注文済商品の画像の横に赤で丸に「済」というマークを表示したり、1ページずつの表示だったものを見開きでカタログ表示ができるようにしたり、カテゴリ別の商品が検索できたりと、電子カタログでありながら、ECの利便性を実現するものとなりました。
  このCWS版のWebカタログによって、CWS導入生協の多くで、Webカタログが標準機能として普及することとなりましたが、紙媒体のプロモーションから脱却できないという課題はそのままになっていました。また、製版技術との連動性の高さは、違う製版会社と連動しているカタログのWebカタログ化には、様々な制約や過重なコストがかかるといった問題もあり、すべての生協での導入ということには至らなかったことも事実でした。
  そうした中で、コープきんきが独自基盤への移行を行う中で開発したWebカタログの仕組みは、いまや電子カタログなどの標準となったPDFデータから、簡単にWebカタログを生成することを可能とし、製版会社に依存していた高コスト問題を一気に解消することになりました。また、特筆すべきは、PDFデータというのは、製版データなどとは関係のない、パソコン上でワードやパワーポイントなどのソフトで作成されたチラシやパンフレット上のデータからでも変換が可能です。つまりは、パソコンで作った簡単なパンフレットでも、そのままWebカタログとして公開することが可能になるということなのです。
  ただ、この時点ではきんきの独自基盤に依拠した仕組みのため、それ以上の広がりを見せることはありませんでした。
  この春、コープ東北で、この方式のWebカタログの仕組みをCWS共同基盤の外部連携方式のシステムとして稼働することが決まりました。
  このことは、CWS導入生協であれば、新しいWebカタログを随意に導入することができるわけです。おそらく、従来型のものと比べて、運用コストは格段に合理化できることは明らかで、すでにいくつかの生協が導入に動いている模様です。
  このように、当面はコストを重視して導入が進むかもしれませんが、共同購入・宅配のカタログから脱却できなかったWebカタログのプロモーションが、EC独自の道を歩み始めたことがポイントといえます。
  Web独自のこだわり商品を詳しく説明するのに、いちいちWebサイトを作っていてはコストも時間も合わないのが実情です。ところが、新方式であれば、メーカー提供のパンフレットをスキャンするだけで、詳しい商品説明のサイトが作成でき、そこからECの注文画面に遷移することも簡単に実現できます。
ここへ来てようやく、Webカタログが、その名の通り、紙からWebへと昇華しはじめたといえるのではないでしょうか。

2016年4月1日金曜日

Webカタログの「功」と「罪」(1)[連載第7回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年3月1日号掲載

今回は、これまでのやや概念的なテーマではなく、生協のインターネット注文(EC)におけるWebカタログというツールのこれまでの評価と、これからの存在価値についてお話ししてみます。
これまでも、いろいろな場所で説明させていただきましたが、世間一般のECと生協のそれとの最大の違いは、通常の注文が、不定期で、かつ、単品か多くて数品の関連買いであるのに対して、生協では毎週、定期的に10数点から20点の商品を注文するところにあります。
一般のECは、基本的に目的買いであり、その発端は様々な外的プロモーションの結果によるものです。目的の商品が、少なくとも品目としてはある程度決まっていて、あとは検索や比較による購買の検討というプロセスに入ります。
生協のECも、同様のプロセスを経るものがないとはいいませんが、主流となっている共同購入・宅配のECにおいては、スタート地点は、毎週の注文の締切があることではないでしょうか。
毎週注文し、毎週商品が届くという生協の共同購入ならではの定期型注文行動が基本にありますので、ECについてもおおむねその注文行動は同じものです。
言い換えれば、生協のECの現状は、いわゆる共同購入・宅配の0CR注文書がパソコンやスマホに置き換わっただけのものなのです。
もちろん、ECならではの様々な利便性やプロモーション性によって、OCR注文書では実現し得ないような利用向上の取り組みがあることは間違いありませんが、その説明は別の機会とさせていただきます。
毎週、2千アイテム以上もある品揃えの中から、20点の注文をセレクトするということになると、もちろん、1点ずつ検索したりはできません。まずは、従来からある商品カタログをめくって、購入する商品を決めて、OCR注文書の記入欄に数量を書き入れていた注文行動を、パソコンやスマホに置き換えた番号注文というスタイルが主流になってきます。
現実に、全国の生協のEC注文においては、この番号注文という方式が、現在でも、注文全体の40~60%以上を占めているのが現状です。
これでは、本当にECとは名ばかりで、OCR記入欄がキーボードに置き換わっただけの注文装置に過ぎなくなります。
こうした中で、まだ、生協ECの黎明期といっていい時期に登場してきたのがWebカタログでした。当時、電子カタログというものがインターネット上でようやく認知されるようになった時期で、それまでの上のカタログをそのまま電子化することで、ひとつのプロモーション媒体を、紙の世界でもネットの世界でも共通に利用できる画期的なものでした。
当時の生協EC「eフレンズ」では、これを一歩進めて、生協の共同購入・宅配のカタログを電子化するだけでなく、カタログ上の注文番号をマウスでクリックするだけで、注文となるという仕掛けを作り出しました。もちろん、インターネットサイトの知識があれば、同様のことを実現することはそれほど難しいことではありませんでしたが、生協の場合、毎週100ページを超える大量のカタログが登場するため、当時の常識では注文機能どころか、電子カタログ化することすら規模的に困難されるものでした。
それを、当時eフレンズのシステム開発を担っていた日本電気(株)が、独自の方式を編み出し解決したのでした。
まず、カタログの電子化は、イメージスキャナで読み込むことで実現しました。さらに、生協が得意とするOCRの技術を適用し、紙面イメージにある注文番号の文字だけを認識して、そこに注文のリンクを形成するというものです。
もちろん、電子カタログをEC上に表示したり、注文番号のリンクがクリックされたことを認識して注文につなぐシステムは日本電気(株)が制作しましたが、毎週のカタログを電子化する作業は、ほとんどの生協が独自に、しかも、専門家ではなく、内部要員の作業だけで対応できました。
このWebカタログの登場により、生協ECの利用者が、かなり増加したことは言うまでもありません。
それまで、紙のカタログを見ながら注文番号をメモし、パソコンを立ち上げて、あらためてその注文番号を入力するという、おおよそECとはかけ離れた注文操作を余儀なくされていたところ、一般のEC同様、パソコンだけで注文が完結できるシステムが登場したわけですから、これでようやくECで注文していることが実感できたという利用者も少なくなかったようです。
こうして生協ECの利用者が、初めてECらしい注文方法にふれることができたという点においても、Webカタログの果たした功績は大きいといえるでしょう。(つづく)
パソコンだけでなくスマホでも利用できるWebカタログ












2016年3月1日火曜日

シェアリングエコノミーの可能性と生協[連載第6回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時- 
コープソリューション2016年2月1日号掲載

訪日外国人の急激な増加によって、最も影響を受けているのは、出張を常とするサラリーマンではないでしょうか。そういう筆者も東京でのホテルが確保しにくくなり、日帰りを余儀なくされたりしています。

こういう事態への対応として登場してきたのが「民泊」で、羽田空港に近い東京都大田区などを特区に指定して旅館業法の規制を緩和するなどにより民泊を広めようとしていることなどはご存じの方も多いでしょう。

こうした規制緩和を待たずして、すでに日本国内でも民泊は広がりを見せているのが実態です。民泊というのは、自宅や所有する不動産に空き室などがある場合にこれを有効活用するというもので、海外では古くから提供されているサービスのひとつです。

これをよりグローバルなサービスとして展開してきているのがAirBnB(エアービーエヌビー)と呼ばれるインターネット上のサービスです。AirBnBは貸し出すことのできる部屋を持っている提供者がサイト上にその情報を公開して借り手を募集し、借りたいひとはそのサイト上で希望の物件を予約する、というものです。仲介に当たって、料金などの決済手段やトラブルへの対応などのサービスを付加することで、提供者と利用者の利便性を図って手数料を得るというモデルです。

民泊という文化が根付いていない日本においては、法整備やルール作りが、これから必要ですが、オリンピックのようなピーク型イベントへの対応策として期待されるサービスです。

同様のサービスとして、タクシー配車のUber(ウーバー)があります。マイカーと自分の空き時間を登録して、予約が入ると、目的地まで利用者を送迎するものです。日本の場合、マイカーは白タク営業と見なされるため、タクシーに限定したサービスとなっています。

こうしたサービスを総称してシェアリングエコノミー(共有型経済)といい、サービスの形態は様々ですが、リソース(資源)を持つひとと、利用したい人を、インターネットを介して結びつけ、これまでであれば買うようできなかった資源を有効に活用しようという経済活動なのです。

リソースの特徴は、部屋や車、空き時間のある駐車場といったモノのリソースが思い浮かべられますが、実は最も大きなものは人的リソース、いわゆる、ひとの空き時間なのです。

自分の空き時間を有効活用してもらえる仕組みがあれば、それを提供したいと思っているひとは多いはずです。

ところが、時間単位の空き時間などを活用することなど、今までであれば思いもつかないところですが、そういったひとりひとりの微少な空き時間をうまくマッチングさせることのできる仕組みがインターネットだったわけです。

以前、ご紹介したインスタカートも、自分がスーパーで買い物するついでに、誰かの買い物を手伝って自宅まで届けてあげるという、ごく些細な頼まれ仕事から発想されたサービスです。

最新の情報では、アメリカでは、インスタカートだけでなく、同種のサービスが複数に広がりを見せているということで、いずれ日本にも入ってくることは必至です。

こうしたシェアリングエコノミーの仕組みは、より広くたくさんのリソース提供者と利用者を結びつけるところから、インターネットを介することによって初めて成立するものです。ただ、逆に考えれば、仕組みだけでは、成り立つだけのリソース提供者や利用者は集められないということにもなります。

現代の社会ですから、ある程度大規模な広告を打つことで初動の集客は可能かもしれませんが、サービスそのものの利便性や魅力がないと長くは続きません。そういった意味で、シェアリングエコノミーは生態系(エコシステム)のように自己増殖できるような仕掛けになっていなければならないものでもあります。

生協の事業はまさしくシェアリングエコノミーとして発祥し、エコシステムとして増殖拡大してきたところではありますが、巨大化し専業化する中でややシェアリング(共有)の精神が失われてきた感は否めません。ただ、再びシェアリングが見直され、インターネットという手段を得てエコシステムとしての自然増殖の可能性を取り戻せる時代にさしかかっていることはまちがいないと思います。

ひとつの事例としては、コープ東北で行われているタブレット先生によるタブレット講習会の活動が、生協が長年培ってきた、教えあい、学びあいの精神をシェアリングエコノミーの形で具現化したものといえるかもしれません。


2016年2月1日月曜日

2016年の生協のインターネット事業を展望する[連載第5回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時- 
コープソリューション2016年1月1日号掲載

経済情勢がある程度の活況を示す中で迎えた2016年。幾多の課題を内包しながらも、各地の生協は着実な歩みをすすめています。

オリンピックイヤーであり、経済から社会動向の当面の節目である2020年まであと5年。団塊の世代が後期高齢者となり、生産人口や消費人口動態が右肩下がりの社会へと移行する2025年まで10年。こうした中長期の前提を踏まえながら、この1年のインターネットに関わる生協のあるべき姿について提起してみましょう。

2月には、いよいよ生協最大のEC基盤となるコープネットの新基盤が稼働をはじめます。

この新基盤の特徴は、システム関連にとどまらず、宅配事業の基幹システムとの連携による多角的なプロモーションやマーケティングに関わるというところにあります。

すでに更新時期を迎えていた日生協のCWSをはじめ、コープきんき、コープこうべなども、この新基盤の動向を注視するが故に基盤の刷新ではなく、当面の延命を図ったといわれるだけに、本稼働には多くの期待が寄せられています。

これまで、ECといえば、システムや機能の整備が中心でしたが、今後は、コープネットの新基盤を皮切りに、カタログ紙面では制約があり、実現できなかった施策が、ネットの可用性を生かすことで、年代や購入履歴と組み合わせ、利用者ひとりひとりに向けた個人別商品提案やプロモーションなどが、いよいよ実践編として装備されます。

こうした仕組みは、マーケティングオートメーションといわれて、この1~2年、ネット業界では非常に注目されてきており、コープネット以外の生協でも導入の検討や実験が進んできています。

一方、ここ数年、流行語ともなっていた、ネットと実際の店舗の融合を意味するオムニチャネルについても、生協版ともいうべき形が少しずつ現れ始めています。

生協のECは、その多くが宅配事業の受注基盤となっており、店舗組合員からは利用しにくいことが課題でした。

しかし、ようやくいくつかの生協で、店舗組合員でも利用できるネットショップ型ECを導入されてきています。このネットショップが、世間一般と同様に宅急便物流とクレジット決済だけであれば、いかに生協の商品を扱うといっても、なかなか差別化は難しいでしょう。

そこで、宅配事業のECであるCWSなどと認証基盤(ログイン機能)を共通化することで、両方のECを共通利用できることが重要です。決済も、クレジット利用には抵抗のある層が多い生協利用者に対して、生協宅配だけでなく、共済などでも利用の多い口座引落で決済できるようにすることで、店舗型生協を中心にこれまでにない割合の組合員をECに取り込むことができる環境が整うことになります。

あとは、ネット得意のメールプロモーションなどで組合員を店舗とECの両方に誘導する導線を作り上げ、囲い込みと利用拡大を同時に図れることが可能になります。

生協利用の中心であるシニア層にもスマホ利用がさらに拡大している現在、不安も多いネットやECの利用への最初の入り口を生協にすることで安心感を提供できることが重要な要素となっています。

ただし、シニア層のネット・EC利用については、まだまだ手放しというわけにはいかないところもあります。

この場面でこそ生協のくらしのたすけあい・教えあい活動のDNAが本領を発揮する場面ではないでしょうか。

東北サンネットでのタブレット先生によるネット利用の教えあい活動は、シニア組合員への安心の提供と同時に生協EC利用の促進にも大きく貢献しています。

今後、シニア層のネット利用が生協を窓口として拡大していくことで、この年代の消費ジャンルが衣食からシフトしていく先のひとつとされているヘルスケア分野での新しいビジネスモデルも視野に入ってくるでしょう。

最後に、昨年の生協におけるインターネット事業の動向をふりかえってみると、いくつかのエポックメイキング的な取り組みがあったことをのぞくと、やや行き詰まり感のある生協もあったように思えます。かつてのように、仕組みやサービスを組合員に漫然と提供していれば済んだ時期はすでに過去のものとなり、未来投資や先行投資、研究分野という名目だけでは評価されなくなっています。

たとえば、宅配事業のECにおいては、宅配受注におけるネット構成比のさらなる伸張と、利用単価において、OCR受注に対する優位性といった実績を確保し続けることが求められています。そういった裏付けがあってこそ、新たな分野への挑戦権が得られるということを忘れてはいけないのです。


2016年1月1日金曜日

顧客動線分析も自動化-ネットからの大量データをどう活用するか-[連載第4回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時- 
コープソリューション2015年12月1日号掲載

POSとは、販売時点情報管理システムのことです。言わずもがなですが、来店者情報管理システムではありません。あくまで、商品を買ってくれた結果の情報なのです。

流通小売業においては、常々、来店しながら買わずに帰ったひとの情報こそが重要といわれてきました。なぜ、買わなかったのか、POSではとらえきれない情報を求めて、現実の店舗では、顧客動線調査といって、来店客ひとりずつを調査員が追跡して、どの棚でどの商品を手に取ったかまでを、密かに調査する手法がしばしばとれられてきました。

さすがに、ITが進化した現代においては、買い物カートやカゴに専用の発信器を取り付けて店内各所に設置した端末で位置情報を拾う方式や、最近では顧客のスマートフォンが発するWi-Fi(ワイファイ)という電波を補足することで、比較的簡易な設備で、動線を把握する方式も実用化されてきています。

とはいえ、情報収集には、それなりの手間やコストがかかることは以前も現在も同様です。

ところが、インターネット上のECサイトの場合、POSデータに相当する購買記録は、言うに及ばず、サイトの来訪者が、どのページをたどってどの注文ボタンからその商品を注文したのか、また、注文しなかったのかまで把握できるのです。また、現時点ではPCに限られる方法ですが、ある特殊な手法を使うと、従来は視線カメラなど大がかりな機材を必要とした、画面上のどの商品や画像、広告バナーを注目していたかを傾向値として把握することも、特別な装置なしで可能になっています。

もう少し簡単な例では、共同購入の商品案内カタログの紙面上に、表紙と中面など同じ商品を複数箇所に掲載する手法が採られることがしばしばありますが、OCRの注文書でも、インターネット注文でも、注文番号を変えない限り、どちらで注文されたのかといった紙面上の掲載場所の効果測定は不可能でした。しかし、最新のWebカタログでは、同じ注文番号であっても、どのページの注文番号であるかまで情報が収集できるようになっています。

このように、ひとりひとりの利用者の行動を克明に把握できるのがインターネットサイトの特徴でもあるのですが、克明であればあるほど、収集される情報の量も幾何級数的に膨大なものとなってしまいます。

規模の大きな生協のECサイトから収集されるデータの量は、文字に換算して1日あたり数億から十数億文字に相当します。もうお話しすると、それが今流行のビッグデータかと思われるかもしれません。残念ながら、いわゆる「ビッグデータ」とは、やや趣を異にしているデータで、アクセスログと呼ばれるものですが、規模についてはまさしくビッグデータではあります。

この規模のデータとなると、そのままでは扱えるものではないので、専用の解析ツールを使用することになります。各地の生協で使われている日本生協連のCWS共同基盤では、サイトカタリストというツールを使って、様々な角度からの分析や定例レポートを作成していると聞いていますが、詳しい分析や検証を行うには、それなりに専門知識を持ったデータアナリストやデータサイエンティストという人材が必要となってきます。せっかくの貴重なデータを事業やプロモーションに生かすためには、こうした人材の育成がこれからの課題となっているようです。

ただ、生協の事業のように、日々、あるいは、週次のサイクルで様々な活動が刻々と遂行されるような場合には、毎回、仮説検証型の分析を行うのではなく、ある程度「定石化」されたロジックを使って、収集されたデータを個人別に集計して、最も適切な告知やプロモーションを自動的に展開するような仕組みが存在しなければ、データ分析が単に分析のための分析に終わってしまう懸念があります。

インターネットサイトから個人別に収集した膨大なデータから、キーとなる情報を集計・分析し、顧客ごとの特性に応じて、自動的に次のアクションに結びつける仕掛けを、昨今、「マーケティングオートメーション」と呼んで各企業などが力を入れてきています。

生協陣営でも、すでに大手事業連合を中心にいくつかの実験的な試みがされていると聞いています。

こうした施策によって、インターネット利用者層の生協利用向上を実現することがインターネット事業には求められているのです。

※「ビッグデータ活用」と「マーケティングオートメーション」については、あらためてご紹介させていただく予定です。