2020年8月1日土曜日

顧客体験を イメージできるか?[連載第59回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2020年7月1日号掲載


 
最近、Webの世界においてキーワードとなっているのが顧客体験です
 顧客が今どんな商品やサービスを求めているかを感知して的確に提供することで、それによって顧客が感じる幸福感であったり満足感であったり、あるいは期待に応えた企業に対する信頼感や次への期待感などが醸成されたものを顧客体験と呼びます。
 ではなぜ今、顧客体験が注目されているのでしょうか。それはデジタルの力によって、個々の顧客それぞれに新しい体験を提供できる時代がやってきたからなのです。



■ 顧客満足はあくまで結果

 かつて顧客満足度という指標が重要視された時期がありました。もちろん、今日でもサービスを提供する側にとっては重要な尺度です。しかし満足度というのはあくまでも結果であって、どういう商品やサービスを常態として提供することができるかということが問われるべきだというのが当時からの帰結でした。
 いま、顧客体験と呼ばれているものは、提供される商品やサービスそのものではありません。商品やサービスによって、自分たちの暮らしや生活のシーンにおいて、そうあってほしい、あったらいいなと思ったことを、提供する方法やタイミングをコントロールすることで、より満足度を高めることができる、そういった手法のことなのです。
 これまでも、マーケティングやプロモーションの世界において顧客体験を提供する様々な手法やツールは生み出されてきました。  
例えば、店舗の特売チラシなども顧客体験を生み出すツールのひとつです。特売があることをチラシで知って、普段よりも安い値段で商品を買うことができたという満足感を生み出せたからです。

■ すでに常態化した個人別対応

 ところが、こうしたマスマーケティングの世界は ひとりひとりの顧客に対してアプローチすることはできませんでした。それが今日、デジタルの力を活用することで、顧客ごとに最適な体験を提供することができるようになったのです。 いわゆる、パーソナルマーケティングがそれです。
 例えば、ポイントプロモーションもそうですし、パーソナルチラシのようなものも登場してきています。年齢や性別、個人の嗜好、過去の閲覧歴によって ECサイトの商品の陳列を変化させるということなどは、すでに皆さんもよくご覧になっている通りです。
こうした個人ごとに表示や提案内容を変えることは、技術的な面では、そう難しいことではなくなってきています。
 一方で、いったい何を顧客体験として提案していけばいいのかということについては、模索が続いています。

■ 満足の得られる体験をイメージ

これまでのプロモーションの定石であった、価格、商品の特徴や特性だけでは限られた顧客体験しか提供できません。いわば、従来型の顧客満足の域を出ていないのです。
安く買えた、好みのものが買えた、だけではなく、もっと違った体験を提供しなくては、満足感を得てもらえなくなってきているということがいえます。
 なぜ、顧客体験を想像できていないのか、それは、どの企業も具体的な顧客体験をイメージするベースがないからです。
 自動車メーカーであれば、社員も車が好きだったり、毎日運転をしていたりして、その中からより満足のいく新しい体験を創出もできると思います。
 ところがいま求められているのは、MaaSのような移動そのものをサービスとしてとらえる考え方です。そうなると、自動車メーカーの社員といえども、そうそうアイデアが出てくるわけではありません。
 一方で、生協は生活者である組合員を起点として事業活動を行っています。当然ながら多くの役職員も組合員としても生協を支え、支えられて生活をしています。  
日々の生活の中で生活者として自分たちの暮らしを考えた時に、こういったサービスがあれば便利だとかここでこういったサポートがあれば本当に助かるのにということに気がつく場面は多いと思います。
ましてや、生協役職員を取り巻く社会もデジタルへの移行が進んでいます。スマホひとつをとっても、今回のコロナ禍を契機に、新しい使い方やサービスが多数提供されてきています。
そういったサービスのひとつとして、生協がこんなサービスをしてくれたら、と思うことは多いのではないでしょうか。
生協役職員が、新しい顧客体験をイメージできるかどうか。これからのデジタルシフトの中で、生協がその存在意義を認められるかどうかのひとつのポイントになるような気がします。

2020年7月1日水曜日

コロナ禍を改革の原動力に[連載第58回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2020年6月1日号掲載

   非常事態宣言は、一定解除の方向に向かいましたが。コロナウイルスへの感染の恐れがなくなったわけではありません。不安定な状況のなかで、経済活動やくらしが、コロナ禍以前に戻ると考えている人は少ないようです。
 厳しい経営環境に置かれた飲食業や百貨店、イベント関係はもとより、一時的な好況にも、安堵していられない業界もあります。生協もそのひとつです。この時期を社会全体の変革期ととらえることで、生協の事業についても、今だからできることがあると考えるべきではないでしょうか。



■ 意味を失う予算やKGI

 生協の宅配事業については、物流センターや配送現場で、年末最大物量を超える注文が、3月後半からずっと続いている状況で、悲鳴に近い声が上がっています。
 そうなると、もはや供給予算などKGIといわれる目標はあまり意味を持たなくなります。
 店舗も同様です。おそらく、今後、緊急事態宣言解除後の社会動向においても、外出自粛は継続するでしょうし、宅配需要や内食傾向は高止まりすることは間違いありません。
 緊急事態という非日常の中に身を置いているため、感覚が麻痺しがちですが、特需はいずれ終わります。そのときに、特需は厳しい前年実績として、減収という現実を突きつけてきます。

■ 否応なしの構造改革

 今回のコロナ禍は、今まで日常であった生活スタイルやビジネススタイルを根底から覆してきています。 つまりそれは、社会全体にある種の構造改革を求めてきているということです。
 近代国家が成立して以降、ビジネスも消費も、教育すら、人が集まりながら築き上げられてきた社会が、人との接触をある程度抑制しながら、これまで同様の、あるいは、これまで以上の関係性を持ち、これまで以上の経済活動を継続しなければならない、という時代へと一気に変わらざるをえなくなっています。
 けっしてこのことをネガティブに考える必要はありません。むしろ、こうした変革期こそ、新しいチャンスが数多く存在するからです。
 コロナ禍がある程度沈静化してくると、ひとや社会は元に戻ろうとするバイアスが働きます。しかし、震災や災害を見てもわかるように、復旧は復興以上に困難を伴います。完全に元に戻ることはありえないですし、また、元に戻すよりも新たに創造することのほうが、意味があることも多いからです。

■ 特需に流されない攻めの意識を

 今、特需に湧いている生協の事業かもしれませんが、このときだからこそ、この次を考え、準備しなくてはいけません。
 宅配需要は、すでに多くのライバルの参入を招きつつあります。ここまで需要が高まれば生協宅配のコンペチターも登場するでしょう。生協ほどのシステム効率や、規模を持たなくとも、採算が採れるめどが立ったと考える流通やその他の事業者は少なくありません。
そのときに、生協は宅配事業を守りに入るのでしょうか。
 ある程度安定した社会情勢では、なかなか取り組めなかった、挑戦的な取り組みが、今なら取り組める状況にあります。
 移動や繁華街への人出が制限されているなかで、ネットスーパー、夕食宅配、移動販売といった事業を一気に高度化し、規模を拡大したり、相互に組み合わせてリモデルしたりすることなど、今ならできることは数多くあります。
 生協宅配でしか扱えなかった商品を、一般の宅配便で届けるということも考えられるはずです。
 おそらく、すでに検討されている生協もあると思いますが、ネットスーパー事業においては、UberEatsなどとの協業を模索できないでしょうか。
事業だけではありません。業務遂行においても、テレワークが今後、当たり前になってくるとすれば、在宅を前提とした経験者の再雇用や、育児休職のあり方の再検討も必要になってくるでしょう。
実際にテレワークを実施してみての問題点や課題を解消し、Webコミュニケーションの円滑化などを図る必要があります。
おそらく、全国の生協の事務所で見られるような、密閉・密集・密接した作業スペースからの解放だけでなく、事務所コストの削減効果も狙えるはずだと思います。

2020年6月1日月曜日

アフターコロナ・ ウィズコロナ[連載第57回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2020年5月1日号掲載

 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、緊急事態宣言まっただ中ですが、この状況がいつ終焉を迎えるかは執筆時点ではまったく予想できません。
 もしかすると、急転直下、感染防止対策が開発されて平常時の生活が可能になっているかもしれません。そうなると、今回の記事の半分は無駄になってしまうことになりますが、それでも喜ばしい事態です。万一、事態が継続している場合を想定して、両方の対応について考えて行きましょう。


■ ウィズコロナとは

 すでに非常事態への対応を行っている最中だと思いますが、いわゆる事業継続計画(BCP)に感染症対策が組み込まれていたとしても、今回の新型コロナのようなパターンにまで対応できているとは考えにくいでしょう。
 WHOはパンデミックを宣言していますが、国内において、感染者はその域には達していません。災害レベルの対応ではなく、その予防レベルと言うべきです。
つまり、多くの市民は基本的な衣食住についてみずから調達することを希望し、それができる環境を求めています。
 ある意味で、基本的な経済活動が可能な分野があります。まさに、生協が担う日常的な食生活がそれです。
 食料品を中心とした生活必需品をいかに円滑に組合員に提供し続けるか、それが生協に求められる事業継続の最大ミッションです。
 同時に、組合員と役職員を感染から守るということも必達課題です。
 政府や行政から求められているテレワークをはじめとする社会的距離の確保のためには、事前想定以上の対応を次々と生み出していかなくてはいけません。これが、コロナの中で事業を継続するウィズコロナです。

■ 平常時のルールからの脱却

そのために基本的な業務対応のセオリーは、ゼロベースで考えなくてはいけません。平常時にやってきたことをできるだけ継続することがBCPと思われがちですが、そうではないのです。
 さまざまな業務ルールも法的、社会的規範に反しない限り縛られる必要はありません。
 最たるものはテレワークでのタイムカード問題です。平常時にテレワークを導入する際には、勤務実態をどのように把握するかが障壁だったと思います。
 しかし、現状においては、やるべきことが処理されている限り、それをもって勤務実態とすることが求められます。
 事業活動においても、プロモーション活動は必要な情報を伝えるということに収斂する必要があります。平時であれば、あと1品、あと数ポイントの供給向上のために取り組んでいた課題も、自動化されているものは除いて、いったん見合わせ、それに投入している人時をより重要課題に転嫁すべきです。

■ 大胆な切り分けが必要

 一方で強化すべき点は、リアルタイムでの情報発信です。WebやSNSなどインターネットツールを最大限活用し、店舗の営業情報や宅配の配送情報などをより綿密に伝えるべきです。店頭は掲示やポスターなどがツールですが、デジタルサイネージなどがあれば、プロモーションを止めてでも、一時的に広報ツールとすることも必要でしょう。
 ウィズコロナの対応については、まだまだ、現時点では予測できない事態にも対応しなくてはいけない場面も予想されますが、組織合意を優先した逐次対応にならないよう、しっかりとしたリスクマネジメントがトップには求められます。

■ すでに始まっているアフターコロナ対応

 こうして続く感染期も、いずれ収束に向かいます。今回の影響は大規模な災害に匹敵しますので、一朝一夕には回復するとは思えません。ある程度の期間や困難を伴う復興が必要になります。
 その際に心すべきは、暮らしや気持ちは復旧させるとしても、ビジネスは復旧ではなく復興をめざすということです。
 元に戻すとなると、せっかく苦労してゼロベースで取捨選択した業務などが意味もなく元に戻りかねません。戻すのではなく、できれば緊急対応時のレベルで日常業務が回るような方法を考えるべきです。
 また、アフターコロナは、収束して始まるものではありません。すでに先進的な企業では、収束後を見据えて、一気にデジタルシフトへのスタートを切るべく、いまから対応を準備し始めています。
 この部分がデジタル化されていれば、この機能が足りていればと緊急時に判明した問題点を、その時点から改善すべく準備を進めているのです。
 もちろん、コロナ以前から準備していたDX対応も着々と進めています。
 アフターコロナのスタートはもうすでに切られているのです。

2020年5月1日金曜日

やってみませんか? Web会議[連載第56回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2020年4月1日号掲載


 パンデミックの中心が欧米に移り拡大の一途で、収束の兆しが見えなくなっている新型コロナウイルス。ある程度の長期対策は不可避となりつつあるなかで、これをきっかけとしながら、これまでの仕事のやり方やすすめ方を変えようという取り組みも進んでいます。そのひとつがWeb会議です。多人数だけでなく、一対一という使い方もありますので、会議というよりもWebコミュニケーションというべきかもしれません。 



■ 緊急時ならではのスピード感

 ウイルス禍の影響で、やや過去の話題のようにすら思えてきた「働き方改革」。
その中でも、もてはやされていたテレワークですが、いまや、否応なく導入せざるを得ない状況です。
 先行して準備を整えていたところも多かったようで、思いのほか在宅での勤務にスムーズに移行できたという事例が報告されています。
 もちろん、設備や機器といったインフラ回りから、労使間の合意形成といった制度やルールまで、通常であれば年という時間のかかる課題が、一気に進んだようです。緊急時ならではのスピードを感じた場面も多かったのではないでしょうか。
 ただ、テレワークというと在宅であったり、遠隔地間での移動を削減できたりというメリットの反面、コミュニケーションギャップなどが懸念されてきました。
 それについては、昨今のネットワーク事情から、電話やメールだけではなく、Web会議を通じて、あたかも社内で対面の打ち合わせを行っているのと遜色ないコミュニケーションを図れる環境が整っていたことも、こうした新しい働き方を広めることができた一因だと思われます。

■ 意外に手軽なWeb会議

 Web会議は、実際にやってみると、その手軽さや便利さに驚くことが多いと思います。
 会議室に大型モニターやカメラといった設備が必要と思われるかもしれませんが、参加者それぞれがノートPCなどを持っている職場環境では、もはや会議室すら必要なくなります。
 筆者だけが外部からWebで参加しているケースでは、会場にタブレット端末が1台だけあり、それと接続することで、モニターも、カメラも、音声もすべてまかなってくれます。
 資料はあらかじめファイル共有しておくと、会議室の様子もカメラでしっかり確認できますので、臨場感もあり、音声だけでは伝わりきらない場の雰囲気も感じ取ることもできます。
 それぞれが職場のデスクからWeb会議に参加するケースも増えてきていますが、その場合は、スマホなどでよく使われるマイク付きのイヤホンを使うことで、会議の音声が周囲の迷惑にもなりません。また、自分が発言するのは、電話をかけている声が周囲には聞こえているのと同じです。
 そのほか、双方向の発言や議論の少ない、報告と指示が中心の会議の場合、最近のWeb会議ツールでは、自動録画機能もあるので、リアルタイムに参加できない場合は時間をずらして視聴するタイムシフトという参加方法もとれます。
 例えば、全店舗の部門チーフの会議で、参加者はもちろん自分の店を離れることなく参加し、本部からは運営責任者や商品バイヤーが報告や説明をし、売場の実例をいくつかの店舗の実際の売場からスマホのカメラで写しながら報告をしてもらうという会議構成も実現できます。

■ 電話より高効率なWeb会議

 一対一のコミュニケーションであれば、電話でも充分と思われるかもしれませんが、We

 対面によって伝わる情報量は、電話などの音声だけの場合より飛躍的に多いことはよく知られている通りです。Webによって、対面に近い、より効率的なコミュニケーションを図るべきでしょう。b会議のツールには画面共有という機能があり、お互いにパソコン上に同じ資料を映し出しながら、内容を説明したり、その場で修正したり追記したりすることもできるのです。この機能を活用すれば、遠隔地にいながらひとつの資料をまとめたりするコラボレーションも容易です。
 もちろん、われわれの国民性から、どうしてもカメラに対する忌避感があることは否めません。ただ、それを有用なツールが広まらない理由にして現状を脱却できないというのはあまりにも惜しい話です。
 まずは慣れるところから。少しずつでも始めて行くことが大切です。

2020年4月1日水曜日

Ready to DX?[連載第55回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2020年3月1日号掲載

  中国が端緒となった新型コロナウィルスの感染の広がりは、感染そのものよりも検疫や隔離、ひととの接触の防止といった予防策によって世界全体の経済活動へのマイナスの影響という余波のほうがより重篤なダメージとなってきています。昨年秋の消費税率引き上げによる景気への影響が懸念される中で起きた今回のウィルス禍によって、リーマンショック以上とも予測される不況期が迫ってきているとすれば、それを乗り越える手立てはあるのでしょうか。



■ ピンチをチャンスととらえる
 すべてのビジネス分野に適用できるわけではありませんが、感染予防対策としてテレワークやWeb会議が注目を集めています。
 接客や現業系では適用できない対策ですし、移動そのものが削減されることは経済活動全体ではプラス面だけではないという意見もあります。
しかし、これまでの働き改革というかけ声だけでは進まなかったデジタルシフトが、ある種の「外圧」によって浸透するという面は評価できると思います。
 ただ、テレワークひとつをとっても、昨日今日、決意してもすぐにスタートできるものではなく、あらかじめの準備が必要なのはいうまでもありません。
 経産省が提唱する「2025年の崖」は、人材面でのリソースの払底対策が中心でしたが、それ以外のあらゆる面においても、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが必要なことが、今、この状況の中で気づくことも多いと思います。
 日本生協連が提唱する「2030年ビジョン」においても、社会情勢としては人口の減少やそれに伴う産業構造の変化、右肩下がり消費動向など、必ずしもバラ色の未来は描かれてはいません。
 シュリンクしていく社会構造の中にあっても、生協が組合員の暮らしを支えていくためにはより高度に効率化された事業構造への移行は、もはや待ったなしの状況です。今回の新型コロナの問題が、それをあと押しする出来事であったとすれば、ピンチをチャンスととらえる考え方でDXを進めていくべきかと思います。

■ アフターデジタルをイメージする

 先日、ある意味DXは、そのものが目的化していないか、という指摘がありました。たしかに、DXは、あくまで手段であり方法論です。めざすところは別にあるわけです。例えば、今回の感染対策もめざすところのひとつではありますし、働き方改革もそうです。こうした目的や到達点をさして、10月号で「アフターデジタル」という概念をご紹介しました。
 DXによって、どういった社会や生活環境を実現するのか。その中で自分たちのビジネスがどのようにあるべきなのかをイメージすることこそが、「アフターデジタル」になるわけです。
 そういった意味で、みなさんは生協の事業、さらには、組合員の暮らしにおけるアフターデジタルをイメージできているでしょうか。

■ 情報共有とDXに向けた準備を

 とはいえ、イメージするといっても、具体的に何ができるのか、あるいは、できそうかということを理解していなければ、結局は現在の延長線上にしか未来は描けません。
 できないというネガティブな情報ではなく、こんなことができる、あるいは、できそうだという前向きな情報が重要です。
 例えば、今年から実用化される5Gという通信方式とAR・MRなどの拡張現実を活用することで、自宅にいながら、まるで店内を回遊し、特売コーナーを探したり、野菜や肉のパックを手に取り、品質や鮮度を確認して買うことができたり、あと一歩で手ざわりも感じられたりするところまで来ていることを情報共有し、もっとこんなこともできるのではと、さらなるイメージを膨らませていくことも可能でしょう。
 そうして描き出されたアフターデジタルをどのように実現していくのか、それがDXであり道筋になります。2025年を待っていても、DXも未来もやっては来ないのです。
 まずは未来をイメージし、そこへの道筋をDXという手法で描くところからはじめるべきでしょう。
 アフターデジタルのイメージ作りは、職員、組合員をはじめ多くの人たちの協力も必要になります。
 それは、まさに生協だからできるイメージ作りになりますが、やみくもに進められるものではありません。アフターデジタルやDXについての、しっかりとした構想と体制を準備して進めるべきと考えます。

Are You Ready to DX?

 

2020年3月1日日曜日

不採算事業のリビルドをめざすには[連載第54回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2020年2月1日号掲載

  デジタルとイノベーションの世界の2020年は、ラスベガスで開催された世界最大級の家電ショー「CES」で始まりました。日本からも多数の企業が参加して話題になっていましたし、一般のメディアでも報道されましたので、皆さんもご存じかと思います。様々な分野で、最新の技術やソリューション、そしてビジネスモデルなどが紹介されていました。
 こうした技術やソリューションをベースに、デジタルの力で、生協が関わる様々な事業やサービスをより収益性のあるものへとリビルド(再構築)できないかを考えてみましょう。



■ 自動運転は実用期に

画像出典:カルモマガジン
MaaSは自動運転技術というイメージがありましたが、これが大きく覆されました。
 今年のCESにおいては、自動運転はもはや新しい技術ではなくなっていました。
 すでに確立された技術としての自動運転があり、それによって構成された移動機器、移動するためのベースとして自動運転のモビリティが登場しました。いくつかの実例が登場してきていますが、その中でも目立ったのが、自動運転でコントロールされた台車のようなものです。この台車に人が乗る座席やルーフを乗せれば小型のバスや移動手段になります。この台車の上に小さなお店を載せれば移動販売のお店が出来上がります。つまり台車という土台の上にどのようなサービスを乗せるかというのは利用する側、あるいはサービスを提供する側の自由な発想に任せられているということです。
 移動手段(Mobility)とサービス(Service)を自由に組み合わせることが可能になってきたわけです。
 このように、これまでのビジネスの形や概念が、大きく変わりつつある中で、こうした新しいソリューションやサービスモデルを、生協の事業に当てはめてみると、様々なことが考えられるようになります。

■ 着目すべき生協のビジネス

 その際に、どうしても事業の改革や未来志向というと、現状の宅配事業や店舗事業を意識しがちですが、それ以外にも生協の中にはたくさんのサービスが存在していることに着目すべきだと思います。
 もちろん、ここでいうサービスの中には、あまり収益が見込めないようなサービスも数多くあります。社会貢献や組合員貢献という意味合いで提供しているものも多いはずです。
 しかし、新しいビジネスのモデルを構築することでそれが収益事業としても成立し組合員に対しても、有益なサービスになることも考えられます。 例えば、MaaSを活用するとすれば、以前にも取り上げた、移動販売が考えられます。
 現在の移動販売は、どちらかといえば、買い物難民対策というところに主眼が置かれて、収益よりもボランティアの要素が強いものとなっています。営業エリアも。店舗のない郊外が中心で、販売地点までの移動にかなりの距離と時間がかかってしまい、それによる燃料費や人件費などの負担が収益を圧迫してしまいます。
画像出典:日本生協連HP
しかし、先ほど紹介した、自動運転の台車のようなものをベースにしてその上に小型のお店を載せることによって、都市の住宅地の中を巡回するような移動販売も充分に成り立つと考えられます。

■ リビルドによってめざすもの

 スマートストアのように無人で販売できることが理想ですが、当面は商品の補充・管理やチェックアウトを担当する人間がひとり乗車しているだけとし、一定のコースで地域の中を巡回するような移動販売ができるのではないかと考えます。
 現在どこの場所を走行しているかという情報を地図上に表示することで、利用者はスマートフォンで現在の場所を確認し、近くに来る時間に路上に出て買い物をすることができます。
 また、決められたルート走行するだけではなく、近くに来てほしいというリクエストをスマートフォンから発信して、移動販売の方がルートを変更して、利用者の近くまで移動して行くという、オンデマンド販売の方式も考えられます。
 MaaSは基本的にEV(電気自動車)を前提としていますので、燃料費については大きく削減が可能です。人件費についても、運転は必要がないため、シルバー人材や、短時間のパートタイマーの活用することも可能です。
 こうした取り組みで、移動販売をビジネスモデルとしてリビルトすることが可能になるのではないかと思います。
 
移動販売に限らず、生協は組合員さんのニーズによって様々なサービスを提供しています。これまでは、ビジネスとは言えなかったようなサービスもデジタルを活用することで不採算とまではいいませんが、収益性の低い事業を、より儲かる事業にリビルドしていくことは可能でしょう。今後、生協の成長を支えるビジネスの一角を担うことができるようになるかもしれません。

 

2020年2月1日土曜日

Webデザインの極意[連載第53回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2020年1月1日号掲載

 様々なプロモーションや販売チャネルが、紙媒体からWebサイトに移りつつある中で、どうすればサイトへの誘導やプロモーションの効果を高め、結果として事業貢献できるかが課題になっています。
 Webデザインは、課題解決のために最も重要と言われていますが、デザインという言葉に惑わされて、美術やアートの分野の話のように思っているみなさんが多いようです。実はWebデザインは、ビジネスモデル全体の検討の話にも、かなり通じるところはあります。
 今回は、Webサイトのあるべき姿、いわゆるWebデザインを例題として、サイトのあり方とビジネスの関係などについて考えてみます。



■ Webサイトの存在価値を決める

 自社サイトをネット上で露出し、顧客の来訪を促すプロモーションについては、SNSの活用など、いわゆる店舗の来店促進のチラシと同様の販促提案が、形を変えて喧伝されています。
 しかし、店舗を例に挙げるだけでおわかりの通り、来店誘導だけで売り上げが向上したり、ビジネスモデルが成立したりするわけではないことは明らかです。
 まず、そこで展開されている商品販売やサービス提供などのビジネスモデルが来訪者に受け入れられることが重要であり、通常は、まず、何を売るか、どうサービス提供するか、という切り口からビジネスが検討され、その実現手段としてのWebサイトがあり、そこへの来店誘導があるわけです。
 一般に、Webデザインというと、画面の色目や画像の配置といった純粋なデザインを思い浮かべがちですが、より広義にとらえると、Webサイトの機能や目的、ビジネスモデルにおける存在価値までを考えるのがWebデザインです。
 どうしても、トリッキーな見た目や新しい機能に傾注しがちですが、本来の目的は、来訪してくれた人に、いかに満足してもらえるかが最大課題ですし、来訪者の満足とこちらのビジネス目的の両方を実現してこそのWebデザインなのです。

■ UDは必要最低条件

 よく、Webデザインというと、ユニバーサルデザイン(UD)を上げるケースがあります。サイトを健常者と同等に使いこなせること、同様に情報を得ることができるよう、色目や文字サイズといった点で様々な配慮をする必要があります。しかし、UDを満足したことだけでは、必要最低条件を満たしたに過ぎません。
 UDもそうですが、完成という到達点がないのがWebデザインです。めざすべきところは、使っていて心地よいサイト、また来ても迷わず目的地にたどり着ける安心感、そして、ワクワク感の創出という3つのポイントにあります。

■ おもてなしとワクワク感の醸成

 最初のポイントは、やはり、おもてなしの気持ちです。利用するのに、いくつもの説明を確認しなくても直感的に使い方がわかるような構成が必要です。いきなり最初から実現は難しいかもしれません。
 これは、ちょっとした手直しや改善の積み重ねで、はじめて実現できるものです。具体的には、問い合わせや利用者の声、アンケート調査の自由回答の中からキーワードを見いだす等の取り組みを継続的に行い、そこから改善ポイントを導き出すという手法があります。
 再来訪者(リピーター)を、よりロイヤリティの高いユーザーにするためにも、何度来ても、もちろん初回からでも、サイト全体がわかりやすい構造になっていることが重要になります。 
 いきなり、目的のページにたどり着ける直達性も重要ですが、それではどうしても視認性という点でチャンスロスになります。多少寄り道をしても、最後には目的地にたどり着けるというのも安心感につながります。
 そして、来るたびに、何か新しい発見をしてもらえるような、ワクワク感あふれるサイトをめざす必要があります。いつもと同じ安定感の中に、ちょっとした変化と驚きを演出する。この部分には、たくさんの知恵と発想が不可欠でしょう。
 また、サイト運営側としては、クレームを回避するための言い訳めいた説明を多く書きたがりますが、それは、そもそものビジネスルールに何らかの問題があることが多く、説明文で責任回避するのは当たりません。見た感じ文字が多そうなサイトの多くが、このジレンマに陥っています。
 この3つのポイントは、まさしく実店舗でも同じことが云えるものですし、ビジネスモデルの創造においても事業構造と並ぶ顧客満足という重要な柱のひとつにも当たるものです。
 デザインという言葉を、既成の概念でとらえずに、例えば、自分たちのビジネスと顧客との関係といったキーワードで、どのように描き出すのかもデザインです。
 Webデザインを例として取り上げましたが、あらゆるビジネスの場面でデザインという思考方法は必要になってくると思います。
 

2020年1月1日水曜日

2020年への焦燥[連載第52回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2019年12月1日号掲載

 様々な取り組みや計画が進行してきたオリンピックイヤー2020年。この何年かのビジネス社会におけるマイルストーンのひとつに、いよいよ到達します。
 次なるは、2025年の崖です。この崖は突然に訪れるものではなく、すでにもう、わたしたちのまわりで変化は起きつつあります。
 この数年の到達点であり、来るべき2025年に向けた次なる変化の端緒の年である2020年が、わたしたちのビジネスにどのような影響をもたらすのかを、ある種の焦燥感を持って迎えようとしているみなさんは多いのではないでしょうか。



■ ITへの過剰な期待

 IT分野を中心としたコンサルティング大手のガートナー社が、毎年秋に公表する「先進テクノロジーのハイプ・サイクル」という図があります。話題となっている先進テクノロジーの成熟度と社会への採用度・適用度を表した図で、黎明期、過剰な流行期、幻滅期、回復期、安定期を経て、社会の基盤技術へと進化するというものです。
 2019年版では、レベル4と呼ばれる完全自動運転の一歩手前のレベルに達するにも、まだ10年の歳月が必要という幻滅期に自動運転技術を位置づけたり、話題の5Gは、過剰な期待度の頂上にあったりするという、やや厳しい指摘の多いレポートとなっています。
 ところが、同じレポートの2015年版、いまから5年前を見直してみると、AIの一角をなす基礎技術である「深層学習」、「IoT」、「音声翻訳」などが過剰な期待のピークといわれ、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)は、幻滅期という低い評価に位置づけられているのです。

■ 消えたテクノロジー達

 2015年版で過剰な期待や幻滅という評価を受けたテクノロジーの多くは、すでにわたしたちの身の回りにも登場してきており、回復期、安定期に位置づけられるのかもしれませんが、2019年版にはその名前すらありません。
 もはや、先進テクノロジーですらないほど、一般化しているという事実は、現在、過度に取り上げられたり、評価されたりしているテクノロジーの多くが2025年までには、実用化、商用化している可能性が高いことを意味しています。
 こうしたテクノロジーを現実のビジネスに取り入れているところは数多くあります。もちろん、流通業においても事例は増えつつあります。最近では、いずれも業界では大手のシステムベンダーと流通小売が組んで、小売りの持つ膨大な顧客データや購買データを、AIを使って分析し、最適な顧客戦略を立案するプロジェクトが、いくつもスタートしています。こうしたリリースの中に、生協の名前がないことが一抹の不安を感じさせます。
 新しいテクノロジーを一般化したシステムやサービスが、ある日、提案書の形で持ち込まれることがないとは言い切れませんが、その時点では、実用化のノウハウや初期の先行者利益は、別の同業他社に奪われてしまっているでしょう。

■ いまがDXの好適期

 冒頭にも述べましたが、各社が取り組んできた先進技術のビジネスへの転換が、この1年ほどの間に、次々と現実のものとなってきます。
 このタイミングこそ、みずからの組織のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現する好機でもあります。
 とある大手システムベンダーのトップが、あるインタビューでDXはあくまでツールだと断言して各方面からひんしゅくを買ったようです。システムベンダーの立場からすると、あながちそういう意識もあるのかもしれません。
 しかし、DXが単なるシステムツールや手技・手法でないことは、すでに多くのみなさんがご存じの通りです。
 DXは、今日的な事業構造改革であり、組織改革・機構改革です。そのために、精神論や小手先のテクニックではなく、新しいテクノロジーを中核としたデジタルベースの思考力を備えたデジタル人材によって実現されるべきものだと考えます。
 もし、あと1ヶ月を切った現時点で、DXのための準備が充分でないと感じられるのであれば、かなりの焦燥感を持って2020年を迎えていただく必要があると思います。