2017年12月1日金曜日

生協版オムニチャネルとは[連載第27回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年11月1日号掲載

登場してから数年になりますが、なかなか実態や対応がつかめないオムニチャネル。アマゾンや、国内でも成功事例がいくつか喧伝されはじめています。店舗だけでなく、宅配(共同購入・個配)という一般にはない業態を持つ生協では、どのような理解と対応が必要なのでしょうか。

■ 組合員という「顧客」を識別できているか

元々は、ひとりの顧客を識別しつつ、自社の持つ様々な購買チャネルへ誘導し、よりよい体験を提供することで、自社へのロイヤリティを高めるのがオムニチャネル戦略といわれてきました。
生協も、流通他社やEC専業他社と同様、様々なチャネル、すなわち、組合員との接点を持っています。もちろん、組合員は、IDでしっかりと識別された顧客です。
店舗、宅配、サービスといったそれぞれの事業チャネルにおいて、どの組合員が何を利用したかという実績は、掌の上にあるはずですが、それはあくまで結果であって、意図してそのチャネルの利用へ誘導しているかというと、はなはだ心許ないところです。
オムニチャネルのあり方を、組合員目線で考えてみるとよくわかります。
宅配は、生活必需品が自宅まで届く大変便利なチャネルです。若干手数料はかかりますが、個配であれば、受け取りに在宅する必要もなく、注文もECを使えばほぼ24時間いつでも受け付けてくれます。
ただし、配達曜日が決まっていて、注文からのお届けまでが1週間近いという制約があります。
宅配の最大のネックである、非即時性という点では、ネットスーパーのサービスが展開されていれば、ある程度解消されますが、現実には、まだまだ広がっていません。
もちろん、生協でも、店舗というチャネルは確保されていますが、宅配との連動などはそれほど確立されていないのかもしれません。

■ ポイントの共通化は必須

例えば、プロモーションの基本ともいうべきポイントについて、宅配と店舗で共用できている生協は少ないようです。これは、ポイント付与のレートの違いや、そもそも、プロモーションが独立していることも関係しています。
確かに、国内の流通各社でも、店舗とECのオムニチャネル化で成功している事例はそれほど多くありません。
しかし、EC専業から実店舗を出店して、オムニチャネル戦略で成功している例は、アマゾンなどが有名でしょう。
また、ヨドバシカメラのように、実店舗からECへ乗り出して、オムニチャネルの成功例といわれているものもありますが、いずれも、ポイントなどのプロモーションは、どのチャネルにおいても共通となっています。
利用者の目線に立てば、ポイントの共通化というのは必須です。
システムの違いは、いきなり完全共通化できなくとも、当面、手作業対応も含めた交換方式で対応する案もあります。

■ スマホを手にする時が購買タイミング

さらにオムニチャネルの核心は、購買のタイミングへの関わりにあります。
これからの購買タイミングは、「思い立ったそのとき」です。
何かが欲しいと思ったとき、どういった行動を取るかです。
これまでであれば、急ぐなら近くのスーパーかコンビニへ、生協組合員で、時間に余裕があれば宅配で、でしょうか。
これからの消費者の多くは、まず、スマホを手にすると考えていいのではないでしょうか。そして、自分がいちばん使いやすいチャネル、例えばアマゾンを選んで注文する、あるいは、ネットスーパーを利用するとなりますが、前者は生鮮品への対応はこれからですし、後者は、配送料と受け取りのタイミングなどまだまだ制約があります。
生協組合員の場合、欲しいと思った商品が、近くの生協の店舗にあることがわかり、宅配で来週届く代わりにもっと安い価格になっているということがわかれば、どちらを選択するかは、組合員自身の判断になるでしょう。
これに、宅配便配送のネットショップなどの購買チャネルなどが加われば、利便性からも、生協への集客はさらに高まるものと思われます。
つまり、スマホを入り口とした、店舗と宅配、その他のチャネルを横断的に利用できる仕組みこそが、オムニチャネルであり、その利便性をアピールし、入り口であるスマホやアプリへの誘導を図ることがマーケティングやプロモーションの役割となってきます。
オムニチャネルの入り口戦略として、アマゾンや他社との差別化を図れる要素である、コープ商品や生協というブランドロイヤリティを最大限生かすことはもちろんですが、サービスや仕組みの面でも、遅れを取らないような対応が求められています。

2017年11月1日水曜日

いま一度問う「スマホ対応は大丈夫ですか?」[連載第26回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年10月1日号掲載

最近の調査では、60歳以上の年代にも、スマホ保有者が増えてきているそうです。
元々、ガラケー利用世代ですから、携帯電話は利用していたので、ガラケーが姿を消す流れから、やむなくスマホへ移りつつあるということなのでしょうか。
しかし、やむなく使い始めても、機能があれば、幾人かは電話以外にも使い始めるものです。
こうした事情や、世代に関係なく、スマホがネット利用の主たるツールとなってきていることは間違いないようです。

■ 生協の注文もスマホからが過半数に

単品利用ではなく、一度に20品近い注文をしなくてはならない生協の宅配注文など、これまでであればパソコン利用者が中心だったのですが、ここへ来て、都市圏を擁する生協だけでなく、ほぼすべての生協において、パソコンとスマホ・タブレットなどモバイル機器の利用比率が逆転し、後者の方が過半数となってきています。
もはや、生協の注文も、スマホやモバイル機器でする時代。
自宅で夜遅くにパソコン向かっていた注文から、出先や空き時間、家庭内でも、リビングで家族団らんのなかや、テレビCMのあいだに、という注文スタイルが増えつつあります。
もっとも、各地の生協もすでに早くからこの動きを察知して、広報サイト、注文サイトのスマホ対応を進めてきています。

■ スマホ対応の落とし穴

ところが、早くから対応してきたところに落とし穴があるかもしれません。
初期のスマホ対応というと、パソコン向けのサイトを、いかに画面の狭いスマホのサイズに合わせるか、というところがポイントでした。パソコンとモバイル機器の両方に対応するだけでも、手間とコストは大きく増加します。
スマホ以前のモバイル機器、ガラケーに対応したサイトをスマホ用に変換するサービスが流行ったのもこの時期でした。
また、「レスポンシブ」という手法で、パソコン用のサイトを、半自動的にスマホの画面形式にあわせて表示する手法は、現在でもかなりのサイトで採用されています。
今さら、ガラケー用を変換したスマホサイトは云うに及ばずですが、「レスポンシブ」型のサイトについても、今日的には、重大な欠陥が表面化してきています。
まず何よりも、「モバイルファースト」ではないということです。パソコン向けに作成された画像や文章を、単に文字や画像の大きさや、並べ方を変えただけでは、スマホの特性を意識して専用で作られたサイトには及びもつきません。
一例を挙げると、パソコン向けサイトでは、リンクやボタンをクリックして次のページへ移動するのがごく普通の操作です。一方で、画面の小さなスマホでは、ページが移り変わると、見ている側は自分がどこにいるのかがわからなくなって混乱してしまいます。
これを避けるために、スマホ専用サイトでは、画面の一部を広げたり、縦に伸ばしたりして、ページ移動を極力減らすような手法を取り入れています。
また、マウスを使うパソコンと、指でのタップを中心とするスマホでは、操作感もまるで違ってきます。情報サイトでは、まだしも、入力の多い注文サイトなどでは致命的とも云えるかもしれません。

■ 利用者の声を拾い続けること


おそらく、自分たちのスマホサイトがどうなっているかについて、直接の当事者以外、特にマネジメント層のみなさんは、よくわからないのや仕方ないでしょう。
その場合、対応しているか否かという端的な確認だけでなく、「モバイルファースト」、スマホに最適化されているのか、使い勝手は満足のいくものなのかを確認することが重要です。
そして、特にお願いしておきたいことは、スマホの使い方は人によって千差万別であるということを理解していただきたい。
ひととおりの使い方で、すべての利用者が満足するものではないのです。
数字や文字を直接入力するのが得意な年代、選択型にしてほしい人たちなど、いろいろな要望にも対応できている必要があります。
まずは、そういった要望やニーズを徹底して聞くことからはじめることが大切です。すべてに対応できるものではありませんが、ひとつでもそういった声を拾い続けることが本当の意味でのスマホ対応だということを理解していただきたいのです。

2017年10月1日日曜日

共感型マーケティングのすすめ[連載第25回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年9月1日号掲載

 各地の生協を訪問しインターネットを担当する部局の方といろいろとお話しをする中で、最近、よく相談されることがあります。
 生協の宅配は、毎週、注文書(OCR)を発行しているうちの、7、8割以上の方が注文をしてくれる、とてつもなく優良な顧客を擁する事業となっています。
 ところが、ことネットでの注文となると、利用率が登録者の半数に届くことが極めてまれで、多くは3割台しかありません。
 もちろん、利用者からすれば、ネット注文も注文書注文も併用できますので、生協の利用率としては、これまでの水準を維持できているのですが。
生協のファンは多いのに
 生協組合員は、宅配の利便性や安心・安全の商品、そして自分たちが参加して作り上げてきたという意識などを持った、いわゆる生協ファンのかたが多くいらっしゃいます。
 特に商品についていえば、多くの生協で組合員が商品開発に関わって作り上げてきたコープ商品などもあり、高い支持を集めているわけです。
 確かに注文方法が、併用できるのは便利です。
 しかし、電話注文では受電対応のコストがかさみます。
 ネットだから扱える期限切れ間近などの限定商品、個人別おすすめなど注文を底上げするような施策が実施できることなどをふまえて、利便性やメリットのあるネット注文への移行をすすめてきたわけです。
 現状の水準が維持できているからといって、このままというわけにはいきません。
ツールとしての利便性ばかりを訴えていないか
 組合員の方の意見や声を聞いてみると、注文書とネットを併用されている方の多くは、「かんとなく」、「これまでの習慣で」という、どちらかと云えば積極的でない理由を挙げています。
 一方で、ネット注文を利用するのは、「注文書提出を忘れたとき」という、注文書回収より締切が遅いネット注文のメリットを活用していることもわかります。
 もちろん、「ネット限定商品はネットで」というピンポイントでネット注文のメリットを享受している面もうかがえます。
 結局のところ、ネット注文へ移行してもらいたい生協の思惑と、現状を変えずにメリットだけ享受したい組合員のそれとが一致を見ないことが、利用率3割台の原因のように思えます。
 ただ、もうひとつ、生協の側が考えなければならない点があります。
 それは、ネット注文について、これまで、そのツールとしての利便性ばかりを強調しすぎていなかったかという点です。
 たしかに、締切時間は圧倒的に遅くなりますし、それによって、商品が届いてから注文できます。
 過去の注文履歴から買い忘れを教えてくれる機能やスマホなどで外出先でも注文できます。
 合計金額を即座に表示することでの買いすぎを防止するなど、数え上げればきりはないのです。
 それでも、「習慣」「なんとなく」という非能動的障壁を越えることはできていません。
「ストーリー」や「物語」に共感を呼ぶ
 そこで、ひとつ思いだしていただきたいのがコープ商品です。
 確かに、安心・安全で品質や味、性能など優れた点は限りなくありますが、既存のナショナルブランドから切り替えてもらえるかどうかは未知数だったと思います。それを、現在のような生協ファン、コープ商品ファンといわれる支持者を増やしてきた手法があったはずです。
 それが、組合員参加型の商品開発です。自分たちも開発や改善に関わった体験を共有でき、その商品へのシンパシーを高めているわけです。
 最近、何かを作り上げるプロセスに参加する意識、あるいはその流れを疑似体験するということが、商品やサービスを認知し、そのファンを獲得する手法「共感型マーケティング」として、大変注目されています。
 ネット注文も、でき上がった仕組み、として紹介するだけでなく、そこに組合員が疑似体験できる「ストーリー」や「物語」を提供できるはずです。
 いただいた声、それを受け止めた職員の想い、開発や改善が実現するまでの舞台裏も「物語」とすることで共感を呼び、結果的にネット注文のファンを増やすことができるはずです。
 そして、もちろん、そうした機能や利便性があることの周知にもつながる効果もあわせて、積極的利用者の割合が増加するのではないかと思います。

2017年9月1日金曜日

シェアリングエコノミー花盛りの中国[連載第24回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年8月1日号掲載

よその失敗は面白い?
  中国からのニュースというと、日本では考えられないほど前近代的であったり、民度が低いと感じさせるようなものが多いです。それは、最近流行の、外国人目線で日本や日本文化を称揚するテレビ番組が、日本人の自尊心を煽るかたちで視聴率を稼いでいるのと表裏一体というべき風潮かもしれません。
  もちろん、日本の文化を外国人という客観視線からとらえることで、われわれ自身が再認識するということについては、大いに賛成するところです。
  つい数ヶ月前にも、中国で自転車をシェアするサービスが登場しましたが、自転車を自宅に取り込んだり、勝手に鍵を付け替えて、自分しか使えなくするという不届きな輩が多くて、事業継続が難しくなったという、「それ見たことか」調のニュースが届きました。
失敗を糧に成功へと導くパワーは
  首都圏を中心にお台場や秋葉原で自転車シェアのサービスが始まっていますが、日本ではGPSで位置管理がされていたり、返却場所が決まっていることなどから、自転車が行方不明になったりすることは少ないそうですし、日本人の公徳性の高さは、遜(へりくだ)ることなく、誇っていいものだと思います。
 結局、中国での自転車シェアのサービスは、この話で、一件落着かと思われたのですが、最近、上海を訪れた人などの情報から、自転車シェアが爆発的に広まっているということがわかりました。
  GPSをつけたり、都心の一等地に専用の駐輪スペースを確保したり、岩盤と呼ばれる各種規制を突破する労力とコストを考えると、こうした新規ビジネスを立ち上げることなど、我が国においては不可能に近い状況です。
  それを彼らは、GPSで位置情報を把握する代わりに、深夜、人手で自転車を回収してまわり、一等地を確保する代わりに、キレイに整理整頓するという条件の下で、道路や歩道上に並べる許可を取って見事にビジネスとして成功させたばかりか、このモデルを見て新規に参入する事業者も爆発的に増え、もはや、中国の主要都市では当たり前のシェアリングサービスになりつつあるといいます。
  また、どこででもシェアできるとなると、わざわざ、自分で取り込んで管理したりすることのほうが手間となって、行方不明になる自転車も減少するという好循環に入っていったようです。
新たなシェアリングエコノミーの登場
  この自転車シェアの成功に触発された、ベンチャリストが目をつけた次なるビジネスが、傘のシェアでした。
自転車と違って、シェア傘の需要は雨が降り出した瞬間に集中することなど、容易に難しさが想像できますし、傘そのものには自転車ほどの資産価値がないことから、取り込むというより、返し忘れるという不作為による行方不明は防ぎようがないと思われます。
  案の定、原価千円のシェア傘30万本、総額3億円が、行方不明になってしまったようです。
 それでもへこたれないのが中国のベンチャリスト
  返ってこない原因は、返すのに適当な柵や手すりが見つからなかったのだろうと、さらに3千万本、3百億円分のシェア傘を中国各地に配置していくということです。
  この良くいえば挑戦的、端的に表現すれば「へこたれない」姿勢こそが、新規ビジネスを成功へと導く原動力なのかもしれません。
  一方で、日本を見れば、ビジネスに限らず失敗を許容しない他罰的、不寛容ななムードがネットを中心に広まっていることもあって、個人も、企業もなかなか挑戦的な取り組みに手を出し切れていない感があります。
さらなる可能性とアイデアが埋まっている
  とはいえ、中国の先進事例を見ていると、社会生活に必要な様々な耐久財の多くが、シェアできる可能性を秘めているということにもなります。
  これからの時代、耐久財は所有からシェアへと変化すると断言する識者も増えています。
  シェアリングエコノミーを支える基盤技術は、スマホとインターネットであり、現状の普及度合いから見ても、インフラはほぼ整いつつあるといって間違いないでしょう。
  自転車、傘に続く次なる耐久財はなんでしょうか。
  耐久財だけでなく、サービスもシェアの対象になります。
  帰宅時間帯や終電近くでのタクシーシェアなどはどうでしょうか。
  駅から同じ地区へと帰る人たちがWebサイト上で手を上げて、3~4人集まればタクシーに相乗りして帰宅、料金は人数で分割してサイト上でクレジット決済するというものです。
  ちょっと考えても、運輸行政の岩盤規制や課題は山積みですが、何かアイデアを出し合えば画期的なサービスとして成り立ちそうな気がします。

2017年8月1日火曜日

組合員への「リーチ」を考える[連載第23回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年7月1日号掲載

  ネットの世界のマーケティングやプロモーションに関わる話題として、永遠のテーマともいうべきものが「リーチ」と呼ばれる顧客への到達、簡単に云ってしまうと、顧客とどうやってつながるか、というものです。
  この古くて、いまだに新しいテーマについて生協の立場から考えてみましょう。


  元来、会員制の組織である生協の場合、連絡先は云うに及ばず、宅配を利用してもらっていれば、毎週のように直接のコンタクトの機会があるという、他業種から見ればとてつもなくうらやましい環境にあると云って間違いないでしょう。
  しかし、環境の変化は、その直接のコンタクトの機会を奪う一方で、仮に機会はあったとしても、本当に必要な相手に必要な情報が提供できるかというと、担当者の個人的力量というとらえどころのない障壁によって、思うように行かないのも事実です。
  毎週、週刊誌を超える分厚さのカタログを届けていても、ほとんどは全員一律の内容であり、そのどれほどが目に留まっているかは定かではありません。
  一方、ある程度の仕組みの整備は必要ですが、ネットであれば、任意のタイミングで、分類した相手に「リーチ」することが可能です。
  このネットからのリーチについては、いくつもの手段があると云われています。
  今回は、パソコンはひとまず置いて、スマホを中心に考えてみます。

王道はメール・メルマガ

一時期、SNSやLINEの浸透に伴って、メールはもはや過去のものという風潮がありましたが、いまだにしぶとく生き残っています。その理由としては、TwitterやLINEほどリアルタイムにこだわらないリーチについて云えば、メールの確実性や情報量の多さは魅力です。また、スマホの普及によって、メールもまた着信がすぐに確認できる即時性を取り戻したこともあるのかもしれません。
最近は、スマホに格安SIM(通話カード)を入れているひとも多くなってきており、ドコモやauなどの、携帯電話時代からのキャリアメールではなく、パソコンのメールをアプリで受信するという使い方も増えてきています。

アプリがあればプッシュ通知


スマホを前提としたリーチの手段として、忘れてならないのがプッシュ通知でしょう。スマホ向けにアプリを提供している生協も多くなっていますが、アプリならではの機能で、メールの代わりにアプリがメッセージを受信してくれるものです。アプリの起動の有無にかかわらず、メッセージを届けることができるので、強力な即時メッセージ機能になります。
さすがに電源オフや機内モード時には届きませんが、次に通信が可能なタイミングで再送することもできます。
メールは、メールアドレスがわかっていることが前提ですが、プッシュ通知は、アプリがインストールされていれば一斉通知は可能です。もちろん、メール同様、個人が識別できると、個人に向けた個別のメッセージや情報が送れることは云うまでもありません。

最強はショートメッセージ(SMS)

そしてもうひとつ、おそらくスマホを相手にした場合、これが最も強力なメッセージ通知手段と云えるのではないかというのが、SMSです。ショートメッセージサービスの略称で、携帯電話時代から各キャリアが自社端末向けにサービスを提供しています。
特徴は、短文であることですが、最近ではサイトのURLが送れることから、情報量は無限に広がっています。
何よりの強みが、電話番号がわかっていれば、メールアドレスがわからなくても、アプリがインストールされていなくても届けることができるという点です。
メールの不達で悩むメルマガ担当者にしてみればまず変わることがない携帯電話番号であれば、着信の確実性は格段に上がります。
ただ、SMSの最大の欠点は、電話代(通信費)がかかること。携帯電話会社を経由することから、個人でスマホから配信しても1通3円ほどかかります。外部から一斉配信のシステムを利用すると、1通15円というのが相場です。
これでは、日常的なメルマガの代わりというわけにはいきませんが、特に重要性、緊急性が高く、絶対に知らせたい場合向きでしょう。
このようにスマホを相手にした「リーチ」の手段は幾通りもあります。適正や目的に応じた手段を選択することで、より組合員との連携を強めることを考えてはいかがでしょうか。

2017年7月1日土曜日

共同基盤は認証基盤へ(2)-ブロックチェーン技術の適用も視野に-[連載第22回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年6月1日号掲載

  前回の記事の中で、何度か認証基盤という言葉を使わせていただきました。聞き慣れない言葉ですが、認証というのは、インターネットを利用する際の、本人確認の仕組みです。
この認証によって、他人が本人になりすまして、勝手に買い物をしたり、メッセージをやりとりしたり、時にはお金を引き出したりということを防止するために必要な仕組みであると説明すると、どれほど重要な機能かがおわかりいただけると思います。
  その一方で、インターネット上で、この認証機能を安全な形で提供することができれば、自宅や出先、パソコンやスマホ、といったように時間や場所、利用する端末機を選ばず、どこからでも利用できることの利便性は計り知れません。
  ここでのキーワードは、やはり「安全」です。
  認証基盤の役割は、本人の確認であると同時に、利用者に関する様々な情報を提供することにもあります。住所や氏名、電話番号はもちろん、口座情報、クレジット情報、購買履歴や趣味嗜好といったものまで、許された範囲ではありますが、サービス提供側に引き渡すことも重要な役割です。
  これまでのインターネット基盤では、本人の確認に最低限必要な情報と商品のお届けに必要な住所など限られた情報だけを、特別にセキュリティを確保した領域に厳重に保管してきました。
  一方で、これからのインターネットサービスに求められるものは、よりかゆいところにまでとの届くようなサービスです。そのためには、これまでは分散して保管されていたような過去の購買履歴や家族構成、趣味嗜好などの周辺情報も網羅した形で提供し、その人が求めるものを最適なタイミングと最適な形で提供する、いわゆる、ワンツーワンや個人対応型と呼ばれるサービスを提供する必要が出てきます。
  利用者に提供するサービスのレベルを向上させるための各種情報は、一元的にまとめて管理するのが理想ですが、それは同時に、個人情報の漏洩、改ざんといったリスクも飛躍的に大きくなります。利用者としても、そういった危険を冒してまでサービスを高めることへの警戒感もあるでしょう。組合員組織であり、常に安心・安全を標榜する生協としても、なかなか踏み出せない領域です。
  ところが、個人情報の管理におけるリスクを抱えているのはどの業界も同様で、生協よりもはるかに高い管理レベルが求められる金融機関などはあらゆる手立てを使って個人情報の保護に当たってきました。
  そうした中、インターネット上でのお金のやりとりを、現実の通貨ではなく仮想の通過で行おうとして登場したのが仮想通貨ビットコインです。本稿のテーマとは離れますので、詳述はしませんが、このビットコインを支える新しい概念が、これからの個人情報の管理に大きく関わってくるといわれています。
  それは、ブロックチェーンという技術です。簡単に云うと、情報をいくつものかたまり(ブロック)に格納し、それを鎖(チェーン)のようにつないでいくという概念です。
  同じブロックを、いくつものシステムや場所で共有しながら、保持することで、関連性を持ったつながりを読み解かなければ、個々のブロックだけでは情報としては成立せず、一方で、どこかのブロックが改ざんされたり破壊されたりしても、他の場所にあるブロックと照合することで、不正の発見や、復元が可能になるというものです。
  いろいろな事件もありましたが、ビットコインが仮想通貨として一定の地位を確保できたのも、このブロックチェーン技術が確立されたことによりますし、おそらく、数年以内にはこの技術がネット上での取引認証の中核になるといわれています。
  ただ、生協ECの共同基盤の再構築スケジュールにこの技術が間に合うかどうかは微妙です。現状では、二〇一九年には切り替えの予定です。同年秋に予定されている消費税の税率変更と一部除外への対応を新旧どちらの基盤で行うかという判断も外的要因としては考慮すべきものです。
  こうした内的、外的状況やテクノロジーの進化要因を含めて、どのタイミングで切り替えるべきかの判断が迫られては来ています。

  ※この続きは、もう少し取材をした上で新たな動きなどを加味してお伝えしたいと思っています。

2017年6月1日木曜日

共同基盤は認証基盤へ(1)[連載第21回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年5月1日号掲載

  この連載を始めたのが一昨年の9月、その当時は、生協におけるインターネットの共同基盤のあり方が不透明で、日生協をはじめ、基盤を運営する生協のほとんどが既存基盤を延命して継続利用する方針を固めた時期でもありました。
  その要因は、インターネットの事業の方向性がまだまだ安定せず、唯一、新しい基盤に挑戦したコープネットが、その道半ばという頃だったことも大きく影響していました。
  昨年、コープネットが新基盤を稼働させるに至り、ここに来て各地のインターネット基盤が新しいステージへと動き始めた感があります。
  ひとつには、一昨年に延命処置をした現状基盤の耐用年数が、引き延ばしたとしても来年度いっぱいが限度となってきたことがあります。
  もうひとつの理由は、これまで数年おきに基盤の更新という大きなイベントにかなりの労力をとられてきた生協が、しばらくとは言いながら、基盤への注力がやや軽減できたことから、本来、課題とすべき利用者目線での様々な取り組みにも傾注する時間ができたことで、それぞれの独自性がより際立ってきたことにあります。
  従来からの宅配注文機能をさらに深化させたものや、ネットショップ型の販売チャネル、メールベースのマーケティングオートメーション施策への取り組みなど、ある程度のシステム対応力を持った生協が様々に着手しはじめています。
  宅配注文の分野では、作業省力化と低コストをうたった新しいWebカタログが、利用人数比で過半数を超えるシェアを確保したり、生協の宅配利用額のプリペイドカードやクレジットカードでの決済システムも増えつつあります。また、生協加入をインターネット上で完結させる仕組みなど、取り組みの方向性も多岐にわたっています。
  ある意味、チャレンジ課題としてスタートしたこのような施策が、ある程度淘汰されて、いよいよ本格的な展開段階に入ってきたことで、インターネット基盤への要求仕様が少しずつ明確になり、再構築への後押しとなってきたようです。
  では、どういった機能が、新しいインターネット基盤に求められているのでしょうか。
  それは、ここ1年あまりで、日生協CWSとの認証連携するシステムが増加してきたことからも想像できます。
  まず、認証連携とは何かと云いますと、インターネットのサイトで、生協のサービスを利用する場合、まずは、その生協の組合員であることを確認する手続が必要になります。
  その際、ひとつひとつのシステムごとに組合員コードと認証パスワードを登録するなどという手間なことはできないので、どこかのシステムが代表となって、組合員であることを確認する仕組みを提供し、その結果を、それぞれのシステムに報告することで、利用者はいくつものパスワードを管理する手間が必要なくなるというものです。これを認証連携と云います。
  以前にも述べさせていただきましたが、現状の日生協インターネット共同基盤CWS構想も、元を正せば、全国の生協の組合員の認証を一元的に管理し、宅配注文などのEC機能や、ソーシャルネットワークを使った組合員交流機能は、それぞれの生協が独自に開発するという構想だったものです。
  ただ、CWS基板が成立したのが今から10年近く前ですので、その当時、宅配注文機能などを独自に構築できる力量を持った生協は限られていたこともあって、注文などのサービス機能も具備したオールインパッケージが、共同基盤のスタイルのように思われてしまったのです。
  以来10年。それぞれの生協が力をつけ、注力する分野も、それぞれの事業特性を意識したものとなってくると、ようやく、当初の構想にあった、認証連携に特化した共同基盤、いわゆる認証基盤が希求されている時代へと入ってきたというわけです。
  もちろん、長年、宅配注文の分野で様々なサービスを提供してきたCWS共同基盤の持つ、組合員の注文データを安全かつ確実に生協に送り届けるといった得意分野においては、これからも引き続きサービス提供をしていくべきだとは思います。
  では、認証基盤として何が求められているのかについて、次回詳述しましょう。
(つづく)

2017年5月1日月曜日

メルマガあれこれ[連載第20回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年4月1日号掲載

  4月になり、それぞれの生協でも新年度がスタートして新しい取り組みが始まっていると思いますが、最近のネット上のトレンドを踏まえながら、いくつかヒントになる話題を取り上げてみましょう。

そのメルマガ、携帯で読みますか?

  もはやメールマガジン(メルマガ)がネットプロモーションの主役ではないといわれながら何年もが経過しています。SNSやLINEなども取りざたされていますが、普遍的なツールといわれるだけのシェアを取り切れないためか、メールというオーソドックスなツールがまだまだ主役の座を譲っていない状況です。
  しかし、メルマガも、かつてのようなテキストだけの見栄えのしないものから、画像満載のリッチコンテンツへと変貌を遂げ、個人別対応も含めて引き続き威力ある武器となっています。
  ところが、ここに大きなジレンマが隠されています。
  それは、メルマガを配信するシステムの多くが、今なお、パソコン向けと携帯向けという過去の区分しか持っていないことなのです。
  携帯とはいいながら、その多くはスマホになっていて、パソコン同様にリッチコンテンツや動画ですら当たり前に閲覧できます。
  確かに、かつての携帯、いわゆるガラケーは、通信速度にせよ、表示画面にせよそういったコンテンツには不向きでした。通信コストも、データ量で比較すると、とてつもなく高額だったものです。
  キャリアメールといって、大手通信キャリアのスマホユーザーは、キャリア名を含んだメールアドレスを移用していますが、このメールアドレスには、スマホとガラケーの区分はありません。そのため、多くのメール配信システムでは、キャリアメールアドレスであれば、無条件にテキストだけのメルマガを配信するという仕組みも、まだまだ多く残っています。
  せっかくのリッチコンテンツのメルマガが、多くのスマホユーザーに送れないままになっています。
  ではどうすればいいのでしょう。
  結論から言いますと、システム云々ではなく、まずは、ていねいな対応が必要だということです。
  ユーザーに正しく案内をしましょう。キャリアメールの利用者に、あなたはもしかするとスマホをご利用ではないですか?というアンケートをとることやリッチコンテンツメールがあることをしっかりと伝えることです。
  それによって、これまでスマホは携帯メールを受信するものだと思っている利用者に、パソコン向けのメルマガを選択してもらえるようにする必要があります。
  もちろん、キャリアメールに向けて、テキストメールしか送れないような旧式のシステムの場合は、即刻入れ替えることをおすすめします。
  また、本来的には、登録の際に、パソコンか携帯か、だけではなく、スマホという項目も含めるか、リッチコンテンツメールがいいか、テキストがいいかを利用者自身に判断してもらう項目立てが必要でしょう。
  そして、コンテンツの内容も、パソコンとスマホとでは表示エリアやめにするタイミングが違うことを意識して作る必要があります。
  よりスマホに注力することが重要で、ながら読みや、通勤途上など、ちょっとした時間に見るというシーンを想定した作りがポイントになります。

メルマガコンテンツは一期一会

  かつてのテキストメールでは、文章を読んでもらうことがメールの最重要課題でした。
  リッチコンテンツが中心の現在では、見た目のインパクトのある画像から、文章以上に多くの情報を直感的に認識してもらうことがポイントになります。美味しそうだったり、使って見たい、着てみたいと思わせるような画像がそれです。
  ただ、そういった画像をいくつも並べたとしても、コンテンツは勝ち抜き選手権。選ばれるのはひとつって、ご存知でしたか?
  メルマガが画像中心になり、選ばれたコンテンツの先に、注文サイトやより詳細な情報サイトがあるという構造になると、特にスマホにおいては、メルマガ上でタップされたコンテンツ以外は、タップしてWebページなどに遷移した瞬間にメールアプリが閉じてしまいますので、メルマガをもう一度開きでもしない限り、見られることはほとんどありません。
  ですから、メルマガコンテンツは、あまり欲張って何でも載せるのではなく、より選ばれた先鋭度の高いものを中心に、少数精鋭で構成しておくことが大切だと云えます。
  まさに一期一会のコンテンツですね。

2017年4月1日土曜日

フィンテックがもたらす変化とは(2)[連載第19回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年3月1日号掲載

  新幹線で移動していると、ひと昔前に比べて、新聞を読んでいる人がほとんどいないことに気がつきます。また、パソコンで仕事に打ち込むひと、タブレットで動画らしきものを視聴するひと、スマホを操作する姿など、当たり前過ぎるのが車内の風景です。
  すでに、世の中は、ネットと何かをつなぐという時代から、ネットを介して、さまざまなサービスがつながり、融合していく時代へと進化してきています。
  前回お話ししたフィンテックの活用形としての家計管理の話をもう少し掘り下げてみましょう。
  家計の管理というものを俯瞰してみますと、かつては、現金で給与を受け取り、支出も基本は現金。費目別に区分けして、家計簿をつけて管理するというのが一般的でした。
  今日ではどうでしょう。給与などの収入を現金で受け取るというのは、まずあり得ません。また、支出も、ECなど、電子決済が増えていますし、電子マネー、クレジット支払いなど、かなりの部分において金融機関を経由しますし、現金で支払っても、断らない限りレシートなどの証憑が返ってきます。
  つまり、個人のレベルにおいても、ありとあらゆるお金の動きが情報化され、記録されてきているわけです。
  情報化されているという点では、お金の動きだけでなく、その目的、どこから収入があり、何に支出したかが、かなり克明に記録されていることは既知の事実です。
これまで、こうした購買情報などは、情報を収集した企業などがマーケティングや販売計画などに活用するということが一般的でしたが、利用者側にも提供して活用しようという動きが徐々に広まってきています。
こういった情報を生かす形で、家計簿を自動的に作成しようという試みは、すでにかなり以前から取り組まれています。
特に、共同購入と点のを複合的に展開している生協では、家計支出のかなりの情報を保持していることもあって、他の支出を保管することで、家計簿を完成させることができることから、スマホ向けの家計簿アプリを提供している生協もあります。
独自でアプリを構築する手間やコストを削減する一方で、生協以外での買い物情報も網羅できる可能性などを踏まえて、オープンな家計簿アプリに生協での購買情報を連携しているケースもあります。大日本印刷が提供するレシーピというアプリがそれで、すでに、いくつかの生協で導入事例があり、今後、広がりをみせそうです。レシーピそのものは、無料の一般公開アプリなのですが、提携している生協の組合員は、eフレンズのIDなどでログインすることで、生協でのすべての利用実績がアプリに送信され、他の販売店で購入した商品については、レシートをカメラで撮影するだけで情報が取り込まれるというサービスです。
ただ、これまでの生協での取り組みは、主に支出、それも消費支出を中心にとらえており、どうしても、マーケティングや販売計画寄りの印象がぬぐえません。
  今日的な家計簿では、電子マネーがどのカードにいくら残っているか、ポイントはどのくらい貯まっているかということも重要です。
  収入や現在高などの情報を金融機関やクレジット会社、電子マネーからポイントサービスまでと連携して、家計支出のみならず、資産管理を含めた家庭経営全般を支援してくれるサービスが始まっています。
  代表的なサービスとしては、マネーフォワードなどがそれです。元はクラウド型の会計ソフトサービスでしたが、中小企業だけでなく、個人の資産管理まで対応できるサービスとしてシェアを広げてきています。
  現状ではクレジットによる支出に関しては、品目などは把握できないという欠点がありますが、ここでもレシート撮影などには対応しています。ECからの支出にも対応すれば、家計支出面でも、一気に現状の家計簿ソフトを凌駕する可能性があります。
  こうした動きに対して、生協側の動きは、まだまだ迅速とは言い難いものがあります。もちろん、他の量販店についても同様です。
  この種のサービスは、先に連携モデルを構築した方が有利です。生協が持つ、家計支出、共済などの保険情報といったものをこう知ったサービスと連携することで、家計というキーワードのもとでの、あらゆる管理が可能になります。まさに、「ゆりかごから墓場まで」を地で行くサービスとなり得るでしょう。
  生協がサービス提供者の一翼を担うことで、生協にとっても、組合員の暮らしに関わるあらゆる情報をもとにした最適なサービス設計や提供が可能になります。
  これが、生協がめざすべきフィンテックのひとつの姿ではないかと思います。

2017年3月1日水曜日

フィンテックがもたらす変化とは[連載第18回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年2月1日号掲載

  年が明けて早くも1ヶ月が過ぎました。年末年始の対応であっという間とお感じになった方も多いでしょう。
  そうこうしている間にも、世の中は変化をし始めています。英・米を中心に脱EUやトランプ政権の成立など、反グローバリズムが台頭してきているように思えます。ネガティブなもののほうが報じられやすいメディアの影響もありますが、実は、グローバリズムがより浸透してきていることの現れではないかという見方もあります。
  そのひとつの兆候が、フィンテックと呼ばれる金融とテクノロジーやインターネットとの融合です。金融という言葉だけをとらえると、わたしたちのくらしとは縁遠い世界のように聞こえますが、フィンテックの進展によって、究極的には、銀行などの金融機関や円やドルといった紙貨幣が実態をなくしてしまうのではないかといわれています。
  わたしたちの周囲を見渡してみても、日常の買い物で電子マネーの普及は、レジの待ち時間を減らしたり、小銭を減らすといった効果だけでなく、同時にポイントサービスを受けられたりということで、広がりを見せつつあります。お店の側からも、無人レジなどの導入などのコスト削減になる電子マネーは、ポイントをつけてでも利用促進したいものです。
  昨年からiPhoneがおサイフ携帯機能を持ったことで、JR東日本のモバイルスイカの利用が急速に延びています。こうした、モバイル系電子マネーの特徴は、クレジットカードから直接チャージできることから、次第に現金の必要性が低下しています。
  すでに、諸外国では普及している個人間の少額決済サービスも、規制緩和で今年から導入が始まり、割り勘をスマホで決済できるといった、わかりやすいサービスから広まりつつありますが、フリーマーケットの支払いや、民泊、個人間のカーシェアなどシェアリングエコノミー系のサービスに広まることで、規制緩和とあいまって、決済の煩わしさが障壁となっていた様々な個人ビジネスを強力にあと押しするものになることは間違いないでしょう。
  この種の話になると、メディアを中心に、決済情報やシステムの安定性や安全性をネガティブにとらえる向きがありますが、実は、そこにこそフィンテックが、これまでの決裁システムと違うところあります。
  これまでの決済は、銀行などの金融機関それぞれが巨大なシステムを構築して運営していました。そのため、システムの障害などがあると社会問題にまで発展することもありました。しかし、フィンテックの中核技術である「ブロックチェーン」というのは、いくつものシステムが相互に情報を持ち合うことで、どこかで障害があったり、不正があったりしても、相互にカバーしたり、検知して是正することができる仕組みになっています。
  では、フィンテックによって生協のビジネスや組合員へのサービスはどのように変わるのでしょうか。
  長年にわたって、生協は組合員との支払いを銀行や郵貯の口座引落という方式に頼ってきました。商品代金や共済掛金の引き落としだけであれば、今後もこの方式で充分と思われるかもしれません。
  一方で、組合員へ提供する商品やサービスが多様化する中で、世帯でひとつの決済手段で充分かといえばそうではないはずです。主たる家計支出だけをこれからもターゲットにするのではなく、家族それぞれの支払いも意識しておく必要もあります。
  また、組合員間での少額決済も必要になってくると思われます。生活文化活動での有料講習、有償ボランティアなど、これからの場合、どこかで一定の代価を支払う活動が増えてきます。生協が集金するのであれば口座引落ですが、そのためには、ある程度の制度の整備やシステム構築も必要になります。
  おそらく、そういった場面で、最初に上げた少額決済サービスを利用するケースが出てくるのでしょうけれど、外部の決済サービスを推奨するのがいいか、生協自身がそういったサービスを提供するのか、どちらが組合員にとってより安心できるものかはいうまでもないと思います。
  こうした決済サービスに加えて、家計支出と口座管理を一体化させたサービスも登場してきています。資産管理とは、一部のお金持ちたちに必要なものという時代は終わっています。むしろ、生活に欠かせない家計簿の機能がより発展的にフィンテックと結びついて、家計支出から決済機能、資産管理までを提供するサービスとして組合員の生活に深く関わりながら、マーケティングやプロモーションといった購買行動を左右するものと結びつくことも、そう遠くないはずです。
  現在の金融機関もそうでしょうし、多くのビジネスプレイヤーがこの分野の覇権を狙ってくることは間違いないでしょう。そのとき、生協は単なる生活資材のプロバイダー(提供者)のままで大丈夫なのでしょうか。

2017年2月1日水曜日

2017年、変化の兆候を見逃さない年に[連載第17回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年1月1日号掲載

  年の初めということで、やや前のめりかもしれませんが、この1年がどのように進んでいくかを考えてみましょう。
  ここ数年の傾向として、夢のような話として登場した技術や発想が、翌年には2割から3割が、その翌年にはもう2割から3割が実現、もしくは実用の域に達してくるということです。つまり、どんな奇抜なアイデアに思えた話であっても、2年後には約半数以上が現実のものとなっていることです。
  おそらく、今年、社会に大きな影響を与えると思われる技術のひとつが、IoTです。これまでも、IoTの概念として、生活空間にあるあらゆる製品にインターネットと結びつける機器が組み込まれるということは理解できても、電源をどうするか、通信手段をどうするかという、越えなくてはならない壁がありすぎました。けれども、この問題も、ボタン電池1個で10年近く稼働し、通信コストも問題にならない低価格な装置が次々に登場しています。
  IoT機器が、生協の事業分野や、組合員の暮らしの中に組み込まれはじめるのもおそらく今年からではないでしょうか。
  昨年末に日本にも登場したAmazonダッシュボタンのような特定商品の注文という単目的型のIoT機器もありますが、多くの場合、多様なセンサー技術を搭載したIoT機器が直接的ではない周辺情報を大量に収集します。隔靴掻痒の感はありますが、直接的に人間の行動をデータ化することには監視されているなどの拒否反応がありますので、間接情報から目的となる情報にたどり着くことが必要なのです。
  それに加えて、暮らし周辺情報においては、人間そのものが最大のセンサー端末であることも忘れてはいけません。センサーが読み取ったすべての情報を、ビッグデータとしてAI(人工知能)が処理するのは理想ですが、人間の知見や感性も重要なファクターになり得ます。
  冷蔵庫や食品庫の在庫管理と自動補充は、完全自動であるだけでなく、例えば、調理のときに、「お塩がそろそろ少ないかも」と云うちょっとしたつぶやき声を集めておいて、次の注文タイミングで提案することなどがあります。現状の音声認識だけでは、関係ない会話も拾ってしまい、必要のない家庭に紙おむつを提案するといった可能性もありますが、過去の購買行動や履歴、気候天候といったファクターも掛け合わせて考えれば、本当に求められる提案を導くことも可能になります。
  こうした、IoTで集められた各種のデータをビッグデータとして解析し、AIが処理や提案をしていくという図式は、これまでもお話ししたとおりですが、そういったものが今年より現実のものとなってくると思われます。
  その場合、データを処理する中核となるAIは、別の言葉で「深層学習」と呼ばれているとおり、様々なケースやパターンを投入して記憶させる必要があります。特に、対象が自然現象でない、人間の場合、その感性の部分までを学習させていかなければ適切な解釈や提案は難しいといわれています。
  わたしたちの暮らしに関わる判断の多くは、人間の感性によるところが大きくなります。そのため、AIや深層学習においても、そのベースとなる知識は、ある程度人間が形作る必要があります。
  いわゆる購買に関わるマーケティングの世界では、まだまだ充分な知識量が確保できていないと云われています。どのような条件のときにどのような購買が刺激されるのか、それを数多くの顧客に対して実践し知識を収集していくマーケティングオートメーション(MA)の普及が鍵となります。
  この連載でも、生協の中でのMAの研究や実験の取り組みを取り上げてきましたが、いよいよ、今年、実験や研究を終えて、実施段階に移行しようとしている動きがあります。
  ある調査では、これまで普及が遅れていた中高年齢層へのスマホ普及が加速しはじめたそうです。一因は、もはやガラケーが入手困難になりつつあるからのようですが、こうしてあらゆる世代にインターネットへのアクセス手段が広まった今年、様々な変化の兆候をとらえ損ねないよう情勢を注視しておく必要があります。
  そういった情勢を畏怖したりするのではなく、むしろ生協が、その先導役として進んでいくチャンスが到来していると考えれば、新年をわくわくとした心持ちで迎えることもできるのではないでしょうか。

2017年1月1日日曜日

2020年を見据えた中期計画の立案を[連載第16回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2016年12月1日号掲載

  いよいよ年も押し詰まってきました。一年で最大の供給規模を誇る十二月ですが、この号を目にされる段階では、ほとんどの段取りを終えて、あとは成果を待つというのがあるべき姿なのですが、みなさんのところではどのような状況でしょうか。
  前回、この時期であればこそ、来年度や来る2020年に向けての中期の計画を立案すべきということを書きましたが、背景に触れておきます。
  2020年の東京オリンピックは、国際的な一大行事であると共に、この多様化が叫ばれ、価値観の基準も曖昧になってきた現代において、ひさびさに国民や社会が、一丸となって、一つのピリオドに向かっていく画期的な節目でもあります。
  もちろん、個人だけでなく企業や組織においても、何らかの節目を設けてそれぞれに取り組むことはあると思いますが、それが、多くの企業や団体・組織、個人に至るまで、東京オリンピックまでにという目標が設定されて、それをめがけていくという現象は、おそらく、この数十年、この国にはなかったような気がします。
  それだけに、この期間に目標を定めてチャレンジしていくことは、それぞれが個々に取り組むよりも大きな成果を生み出す可能性を秘めています。
  では、どういったスケジュール感で計画を立てていけばいいのでしょうか。
  まずは、到達点は2020年度のスタート時点をゴールとするべきでしょう。そして、17年度から19年度末までの3カ年の中期計画としてはどうでしょうか。
  計画の対象範囲は、もちろん、インターネット事業としてもいいのですが、おそらくは、この数年間の流れからすると、インターネットはますます社会インフラとして影の存在、さらにいえば、当たり前の存在になります。もう少し範囲を広げて、インターネットインフラを活用するすべての事業活動としてもいいかもしれません。
  あまり風呂敷を広げすぎると、計画の焦点がぼやけるかもしれませんので、具体的テーマでは実現性を加味して範囲を絞り込むことも重要です。
  さて、中期計画の立案というと、まずは、現状の自己分析が重要です。その場合、どうしても現状の延長線上の計画をたててしまいがちになりますが、それから大きく乖離するような目標を立てる意識が必要です。というのも、インターネットやITを取り巻く情勢は、この数年で技術や環境が大きく変化しており、これから数年の間にも更なる変貌を遂げることは想像に難くありません。
  もちろん、そういった技術的、環境的要素をどこまで期待するかはそれぞれの立場や生協の考え方もあるでしょうが、事業の死命を制するほどの規模の計画や対象範囲でないのであれば、よりチャレンジャブルな計画とすることをおすすめします。
  そういったチャレンジャブルな計画が、無鉄砲で無責任といわれないためにも、技術動向に充分な目配りをしておく必要があります。
  詳細にまでは触れられませんが、いくつかの分野については注目すべき技術動向が存在します。
  まず、物流分野においては、自動運転技術ですが、こちらは規制緩和という属人的要素が影響を及ぼす可能性が高く、すぐさま現実には行き着きそうはありませんが、関連技術や人間が補完することにより近い状況までは実現できるものがあります。
  この分野でのもう一つの注目は、UVerやInstacartなどのシェアリングエコノミーサービスとの連動でしょうか。
  対顧客向けサービスにおいては、これまでハードルとされていた人的コストを大きく改善する技術としてAIが本格化することがあげられます。この先にあるのは、これまでコンピュータやインターネットに距離を置いていた世代や年代層に対して、あたかもひとが対応しているように思わせるヒューマンインターフェイス(UI)でしょう。スマホやタブレットを操作するのではなく、電話をかけ、対話するようなUIであればどんな利用イメージが実現するでしょうか。
  言葉では知られるようになったビッグデータや仮想現実(AR)も、くらしをより便利にするために、組合員に寄り添い、ひとがサポートするような細やかな気配りを実現できれば、もはや「仮想」の世界ではなくなるのかもしれません。
  こういった技術は、企業や研究所だけでは実現し得ないものです。くらしにより近い現場を持った生協が積極的に実験やチャレンジをすることで、本当に使える技術になると思われます。
  変化を待つのではなく、積極的に取り入れ実験していくことも、中期計画レベルの時間軸があれば、取り組めるものだと思います。
  ぜひ、チャレンジャブルな中期計画を描いていただきたいと思います。