2018年12月1日土曜日

製造業から学ぶ手作りIoTとは[連載第39回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年11月1日号掲載

 トレンドワードから、やや遠ざかりつつある感があるIoTですが、製造業を中心に本格実用段階に入りつつあることがその理由のようです。
 もはや流行ではなく、IoTが当たり前になりつつあるというのが、製造業のトップの共通認識です。そこからは、やや取り残されている物流や流通業界においても、もはや避けては通れない道筋になりつつあります。
 では、どういったところから取り組んでいけばいいのでしょうか。その手がかりを探してみましょう。



■ もの作り大国ニッポンへの脈動
 今、国内では製造業を中心にIoTの活用が進んできています。「もの作り大国ニッポン」への動きが加速しています。
 最近、製造業を中心とした中堅企業数社のトップに連続してインタビューする機会を得ました。キーワードはIoTです。各社ともIT活用はもとより、IoTの先進的導入、活用企業として、その業界では有名どころばかりです。
 インタビューで垣間見えたのは、IoTというものは、どこかから買ってきて据え付ければ、業務の可視化や効率化ができるものではないということでした。
 どの会社においても、トップが率先して現場に立ち、問題点を洗い出しながら、その一方で、多くはエンジニア出身という得意分野を生かし、簡単なセンサーを取り付けたり、Webカメラを設置したりというところからスタートして、製造現場の業務改善を行ってきたということでした。
 例えば、高価な完全自動工作機を諦める代わりに、半自動機を導入し、異常検知センサーだけを手づくりして、夜間に粗加工を無人で行って、昼間に技術者が仕上げ工程を行うことで、少ない投資で24時間のフル稼働を実現した事例などもありました。

■ 物流・流通業のIoTは
 IoTは、製造業だけにとどまらない勢いを見せています。
 特に物流と流通業界でも新たな動きが始まっています。
 物流分野では、製造工場のIoT化に伴い、工場からの出荷予測の精度が大幅に高まり、納品先の貨物ヤードのスケジュールコントロールなども含めた高効率のロジスティックコントロールをサプライチェーン全体で実現できるようになってきています。
 二〇一九年には、東名阪での長距離トラックの隊列走行実験が開始されるなど、ロジスティクスのメインストリームは、この数年で劇的に変化していきます。一方で、物流のラストワンマイル、実際に消費者顧客へと届けるソリューションについても、これまで未来予測として紹介してきたものが実用実験段階に入りつつあります。

■ 店内を徘徊するロボット
 流通業界では、いよいよロボット技術の登場でしょうか。ロサンゼルスに本社を置くボサノバロボティクス社が開発したロボットは、小型のキャリーバッグほどの面積で、縦に2メートルほど。ゆっくりと店内を巡回しながら搭載されたカメラで商品棚を撮影していきます。
 そして、商品の欠品を発見すると担当者やバックヤードにアラームを発します。また、棚札とPOSのマスターの価格違いを検出し、これもアラームを発します。最近では電子棚札が多くはなっていますが、訴求性から紙のPOPは重要なツールです。しかし、枚数も多くなると、付け間違い、取り外し忘れは常態化しがちです。こうした、欠品や価格違いによる販売ロス、クレームの発生による損失などを、このロボットが防いでくれるのです。

■ 手作りIoTへの挑戦を
 ただ、こうしたソリューションも、導入となるとそれなりの投資も必要です。そこで、考えていただきたいのは、トップみずからが取り組んだ製造業のIoTの事例です。
 先ほどのロボットについていえば、Webカメラで店内の状況をくまなく撮影できれば、あとはソフトウエアでどのように処理をするかの問題です。
 画像処理で陳列している商品の数を数えるのはやや難しいまでも、商品の有無は意外と簡単に認識できます。最近のPOPにはたいていバーコードも印字されていますので、価格文字を画像処理で認識し、POSマスターとの価格比較や、棚割情報との比較で価格間違いや付ける場所の間違いなどは検知可能でしょう。
 あとは、例えば、何台かの買物カートにWebカメラを取り付けて、買い回るお客さんをロボットの代わりに活用するといったアイデアも出てくるかもしれません。
 製造現場で見いだされ、その後、本格的なシステムが開発されるきっかけとなった、いわゆる「手作りIoT」。
 流通業の世界では、まずはここからチャレンジしていく段階なのではないかと思います。


2018年11月1日木曜日

働き方改革とデジタルシフト[連載第38回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年10月1日号掲載

世は挙げて「働き方改革」。仕事を効率化するとはいいながら、残業時間削減だけが先行する感のある企業も多く見受けられます。とりあえず人間の単純作業をロボット化するツールが喧伝されていますが、あるべき働き方改革がどういったものか。おそらく誰しもが、ITやインターネットなどのデジタル技術を活用するという方法論では一致するはずですが、改革の着地点が同床異夢の様相を呈しているようです。


■ セルフレジはなんのために?
 最近では、多くのスーパーでセルフレジを見かけるようになりました。買物の最後にレジで待たされてせっかくの楽しい気分が吹き飛ぶという経験は誰しもあるもの。もちろん、スーパーの側でも対策を講じてはいます。大型店などで、百台近いレジを並べて、混雑を緩和しようとしたり、混雑時にスタッフ総出でレジに入るなど、当たり前の光景でした。  セルフレジはレジのスタッフを確保できなくても、とりあえずお客様に自身でチェックしてもらうことで、混雑緩和をめざしたものですが、かえって時間がかかったなどという声も多くあります。

■ アマゾンGOのねらい

 レジそのものを排除するということで、アマゾンGOという店舗を米アマゾンが展開していますが、働き改革の話題が多い日本では、もっぱら、省力化、合理化のための施策と捉えられています。  ところが、現地のアマゾンGOを視察した人からの報告では、米アマゾンのめざしているのは、省力化、無人化ではないといいます。  店内には商品の補充や説明のためにかなりの数のスタッフが配置されていて、その数は通常のスーパーよりもむしろ多いのではないかということでした。  どうやら、米アマゾンがめざしていたのは、せっかく顧客が買物という楽しい体験をしているのを、レジ待ちなどで台無しにしないための施策であり、そのために買物をサポートするスタッフも配置していたのです。

■ めざすべきは「デジタルシフト」

 今、日本では国を挙げて働き方改革が叫ばれています。その目的とするところは、労働時間の短縮です。その手段として、業務の自動化、IT化による省力化が注目され、RPAツール(ロボティクス・プロセス・オートメーション、ロボットによる作業や手順の自動化ツール)がメディアや展示会場でもてはやされています。  たしかに、自動化され、合理化され、労働時間の削減につながれば、充分な成果には違いありません。  しかし、それは、働き方改革ではなく、生産性改善でしかないのではないかと思えます。  同じように話題となっている言葉にデジタルシフトがあります。デジタル化することで様々な作業や業務を自動化し、社会の仕組みの多くを変えていこうというものです。  人間がアナログベースで行って来たことを、主にインターネットを中心としたデジタル技術を活用することでの改善をめざすというものです。  ここに、生産性改善との大きな違いがあります。  デジタルシフトは、限られた人間の労働時間の中で、これまでよりもはるかに多くの情報や要素をコントロールしながら、顧客にもっとも素晴らしい体験を提供することと定義できます。  この場合の顧客とは、ほんとうのお客さんであったり、自身の属する組織やメンバーの場合もあるでしょう。また、顧客体験とは、言い換えれば、自分も含めたすべての相手に対して、アナログ時代であれば、個人の力量や共有不能なノウハウによってしか提供できなかった達成感や満足感を、均質に提供することのできる事象や結果だといえます。  働き方改革によって、残業時間は削減できたとしても、生産性が追いつかずに顧客満足度や自身のモチベーションが低下するようなことでは、会社にとってもマイナスですし、単なる切り捨てに過ぎません。

■ 第一線が使える道筋を

 ただ、このデジタルシフトというのも、一朝一夕にできるものではないのです。  システム化やIT化というレベルであれば、それこそ専門家に依頼して仕組みを構築すればなんとかなります。デジタルシフトは、ミクロ的にはそれぞれの仕事ひとつひとつにフォーカスして、それぞれに最小のコストで、最大のメリットを生み出すことを考えて行かなくてはならないのです。また、全員がそれに関わり、使いこなさなくては意味がありません。  もちろん、組織全体、社会全体と行ったマクロな視点も考えるべき立場の人も必要でしょう。  そのためには、デジタルシフトやその活用に即した人材の育成も喫緊の課題です。  生協の宅配や店舗といった第一線、いわゆる現場レベルでは、そういったリテラシーは不要と言われるかもしれませんが、現場を支える人たちが、デジタルシフトの恩恵を理解し、使いこなしていくように道筋を考えて行かなくてはならないでしょう。


2018年10月1日月曜日

ターゲットは「団塊ジュニア」 -意外にネット適性がある熟年世代-[連載第37回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年9月1日号掲載

20歳から35歳までの女性をF1層と呼んで、マーケティングやプロモーションの世界では最も重要視する消費者層としています。しかし、若年層に人口構成比が低下するこれからの時代、生協が注目すべきはもっと上の世代ではないでしょうか。しかも、その世代が予想外にネットリテラシーが高いとすれば、少し違った未来が描けるかもしれません。


 調査によれば、ネット通販の利用デバイスは、20代をのぞいて全年代でパソコンがトップだそうです。通常のネットとの接触では、過半数がスマホであるのに対して、意外な感もあります。
 理由のひとつとしては、商品の詳しい情報や精密な写真となると、画面の大きなパソコンに一日の長があるからかもしれません。ただ、スマホ本来の能力を引き出せるようなサイトの作りや使い勝手に、まだ多くのECサイトがたどり着けていないことも一因なのでしょう。

■ 利用者数に比例しない購入金額

多 くの生協のネット注文でも、スマホによる注文が半数に届こうとしています。その一方で、スマホ利用者の購入金額はこれまでの平均購入金額をかなり下回る結果になっているようです。
 これは、ネットに限らず、生協の利用年代層と購入金額との関係を見るとわかることです。いわゆる子育て若年世帯と熟年世帯とでは可処分所得に差があることなどから、50歳代がもっとも生協を利用している年代層になっています。必然的にスマホ利用の中心年代よりも平均購入金額は高いという結果になるわけです。
 しかも、利用の中心である50歳を中心とした年代がどういう年代かを考えると、面白いことが見えてきます。

■ 携帯とネットの登場

 日本で携帯電話やインターネットが普及し始めたのは、1995年、いわゆるウィンドウズ95の登場などがあって、ネットが市民権を得てきた時代で、その当時、社会に出たばかりの世代がちょうど今、40歳後半から50歳にさしかかっているのです。社会人としての当初から、携帯電話やパソコン、インターネットに慣れ親しんだひとたちです。
 パソコンが中心ですが、EC利用も活発な年代で、都市型で若年層に傾斜した年代構成の生協をのぞいて、ネット注文の中核となっているのもこの年代なのです。
 ところが、EC業界、もちろん生協においても、ネット利用はF1という信仰があって35歳くらいまでの女性がターゲットとされてきました。

■ 団塊ジュニアという世代
日本の人口ピラミッド、42歳付近のピークが団塊ジュニア


 確かに、F1層は、将来を見据えても生協を支えていく年代なのかもしれません。しかし、親たちが既に購買の世界から引退しつつある我が国では、40歳~50歳のいわゆる団塊ジュニアが、圧倒的な人口構成比となっています。
 今後さらに高齢化が進むとすれば、この世代が2030年台半ばくらいまでの、向こう十数年間の購買を支える世代といえるのではないかと考えられています。
 しかも、そこそこネットリテラシーもあるとなれば、ここに向けたネット戦略を立てるのが最も有効です。
 では、これまでのスマホ中心戦略を見直すのかというと、その必要はありません。
 団塊ジュニアの特徴は世間の流行にも敏感であることで、スマホにも適応してきています。ただ、今後の身体的衰えなどを見据えると、タブレットなどへの乗換も想定しておく必要があるでしょう。
 このあたりは、先行してのアプローチとして、東西でタブレットを中高年向けに展開している生協が、いずれも3千人を越える利用者確保している事例などを試金石として評価すべきでしょう。

■ 非同質性アプローチで長期戦略を

 同質性を重んじた親の世代とは異なり、個性を重視するこの世代に対しては、単一の紙カタログよりも個人別対応やバラエティーを演出しやすいネット・ECのほうがアプローチしやすいことはいうまでもありません。その一方で、これまでそういった特別な扱いを受けてこなかった世代だけに、EC独特の施策に興味を持って受け入れてくれる可能性も高いはずです。
 いずれにしても、団塊ジュニアが現状の購入の中心世代を経て、やがて高齢者という年代へと移り変わるのには20年近い年月が存在します。
 今こそ生協は、この年代をターゲットにした、長期的なネット戦略、事業戦略を立てるべきだと考えます。

2018年9月1日土曜日

まだ手づくりしますか? 生協のECサイト[連載第36回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年8月1日号掲載

WebサイトやECサイトであっても、コンピュータプログラムとは無縁ではありませんでした。そこに登場したのが、SaaS(サース、Software as a Service)、プログラムやシステムの必要な機能を必要な分だけインターネット経由で利用するという概念ですが、今ひとつよくわかりませんね。この概念を、ECサイトで具体的に実現するために、もう一つのキーワードが登場します。


 いきなりの3文字英略語で恐縮ですがAPIというのをご存じでしょうか。アプリケーションプログラムインターフェイスといって、コンピュータプログラム間の連携を行う方式とでもいいましょうか。
 プログラムやシステムの話か、とお思いかもしれませんが、少しだけお読みください。

■ 他力本願の外部連携サイト

 インターネット事業がテーマの連載ですので、今回の話ももちろん、インターネットのECサイトに当てはめてお話ししましょう。
 日生協のCWS共同基盤にせよ独自基盤にせよ、これまでのECサイトは、まず、サイトを稼働させるサーバを確保し、そこで稼働するプログラムを開発し、デザインやバナーを用意し、ホストコンピュータと連携するインターフェイスを準備することでサイトをオープンさせることができました。
 ところが、「くらしと生協」や「スクロール」サイトのように、生協のECサイトから先方のサイトに遷移してそのまま注文ができるところも現れてきました。
 こういったサイトを外部連携サイトといって、組合員である識別情報だけを持って遷移することで、もう一度ログインし直す手間を省くことや、相手側のサイトで注文した情報を持って、生協サイトへ戻ってきて、あたかも、生協サイトで注文したかのように見せるなど、生協サイトではないところでも、同じ生協サイトのように見せる、ショッピングセンターのテナントのような構成を作ることができてきました。

■ 見えないところで活躍するAPI

 このように、利用者が気づかないうちにサイト間を渡って、同じように利用できる状況を作るために裏側で連携しているのがAPIです。
 スマホの注文アプリとECサイト間もAPIで連携してデータをやりとりしていますし、Webカタログのように、特定の注文機能を独立したサイトとして構築して、いろいろな生協のECサイトから利用する方式でもAPIが間を取り持っています。
 これまで一から十まで、すべての機能を自身のECサイトに持たなくてはいけなかったものが、APIによって、様々な機能を提供できるようになってきたのです。

■ ECサイトがカセットポンで作れる?

 こうして考えると、すでに、ECサイトを設置するサーバは、クラウドという環境を借りて運用するのが当たり前になりつつあります。注文機能も、アプリやWebカタログのように共同利用できる機能が登場してきています。それぞれの生協は利用者が組合員であることを確認(ログイン)して、それ以降の注文機能は、どこか違うところが開発した機能やサイトとAPI連携することで利用することで、ほとんど自身でシステム開発をすることなく、カセットポン式にECサイトを構築することが可能な時代に入ってきているということです。
 安定稼働のための手間や、新しい機能を開発する労力などをアウトソーシングすることで、より便利な機能を素早く組合員に提供できるAPI連携を検討すべきでしょう。

■ ほんとうはもっとスゴイAPI

 最後に、APIには、こうしたモジュール型の連携を図る機能以外に、システムを構成する様々な部品じたいをインターネット経由で利用する方式もあります。こちらの方がむしろ本来なのかもしれません。
 システム開発者はプログラムを開発するのではなく、APIモジュールを組み合わせて機能を作り上げます。個々のAPIは、インターネット上のどこにあるのかはわかりません。登録をして必要な利用料金を支払えば利用できます。スマホのアプリストアのように、APIのストアもインターネット上には多数存在しています。
 斬新な機能を持っていたり、多くのサイトで利用されている安定したAPIを利用することで、自分の思うままのサイトが開発コストを抑えながら、短期間で構築できる。長年システム部門が夢見ていたような世界が、Webの世界では、すでに訪れているのかもしれません。

2018年8月1日水曜日

AIのお試し利用って?[連載第35回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年7月1日号掲載

 例えば、コールセンターの対応向上と負荷軽減は昔からの課題ですが、最近ではコンピュータが人間の代わりに対応してくれるチャットボッと呼ばれるサービスも増えてきています。これを支えているのがAI技術です。これからの社会にAI技術は不可欠のものですが、その正体は不透明のままです。でも、まずは試してみるのも理解が進む方法かもしれません。


 世の中には、いつの間にかじわじわと広がっていて、気がつくと当たり前のように使われているものというのが存在します。近年でいえば、インターネット技術などがそれかもしれません。
 ここ数年、インターネットに関わるキーワードとして喧伝されてきたものも同じような流れをたどっています。
 例えば、クラウドなり、ビッグデータなども、あまり言葉を聞かなくなったと思われたとすれば、もはやあまりにも当たり前になってきたため、社会全体にとっての基礎技術ともいうポジションにまで到達したからに他なりません。

■ 旬のキーワードはAI

 同じようなキーワードで、少し事情が違って、まだまだ喧伝され続けているのがAIでしょうか。クラウドやビッグデータが基盤技術で、どちらかといえば黒子役であるのに対して、AIは直接人間との接点があるフロントサービスであるためかもしれません。
 昨今、わたしたちの身近なところでもAIの技術を組み込んだ製品やサービスが多く登場していますが、その割に得体の知れなさについては相変わらずと言っていいでしょう。
 例えば、いくつかのセンサーと論理回路でエアコンの温度検知能力を高めた製品にもAIという名称をつける例などもあとを絶ちません。
 ただ、本質的なAIは、すでに社会全体に広くサービスとして展開されつつあります。
 それは、インターネットを基礎技術とし、クラウドコンピューティングを基盤とし、その上でビッグデータを用いた機械学習や深層学習によるコグニティブ(認知)機能が、ある程度容易に活用できる段階に入ってきたからだといえます。
 そのため、AIを導入、AIを活用、といった宣伝文句を冠した製品や各種サービスが幅をきかせてきているのも確かです。

■ 意外に身近になったAI

 そこで、AIをあがめ奉るのは、もはや本質ではないということを、いろいろな例を挙げ、すでに、AI技術はここまで身近で扱いやすくなってきていることをご紹介しましょう。
 AIを導入というと、何やら専門的なシステムを構築して、大がかりに導入するというイメージをお持ちだと思いますが、そんなことはすでに過去の話です。
 AIに関する様々な技術は、サービスとして提供されています。多くは、基盤サービスであるクラウドの一部として提供されていて、アマゾンが提供するAWS、マイクロソフトのアズール、グーグルのクラウドプラットフォームなどからも提供されていて、ほとんど、そのクラウドの利用料金プラスアルファで利用できます。

■ 1時間でAI導入の実験

 たとえば、AIの活用例でよくあるのがQ&Aのサービスを対話型でAIが答えるというものですが、マイクロソフトのアズールが提供する「QnAメーカー」というサービスであれば、エクセルで対応表になっている質問と回答の文章を読み込ませるだけで、自社独自の対話型Q&Aサイトが完成します。
 手順の解説サイトもありますので、専門的な知識なしでも1時間もあればできあがります。
 もちろん、この仕組みをいきなり組合員向けに公開するというものではありませんが、質問と回答の組み合わせによって、どのようにAIが回答するのか、質問する側の言い回しや不正確さをAIがどのようにカバーするのか、などを検証するのが最初でしょう。本格的なQ&Aサイトの前段階として社内向けに使ってみるなど、AIがどこまで対応してくれるものなのかを実体験できることも有効な使い方だと思います。

マイクロソフトAzureのQnAメーカーサイト









■ 事業サイドからの活用提案を

 組織の内部にクラウドやAIに精通した人材を擁しているというところはまれだと思います。それゆえに、外部からの提案を鵜呑みにしがちということもあります。
 じつは、AIは、もはやここまで手軽に試してみることができる状況になっていることを理解して、自分たちの課題をAIで解決できることはないかという観点で、システム部門やWeb関連の部局ではなく、事業部門、業務部門の皆さん自身が検討できる時代になっていることをご理解いただきたいと思います。

2018年7月1日日曜日

いずれが脅威か? アマゾンフレッシュとセブンミール[連載第34回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年6月1日号掲載

 昨年あたりから食料品配達の分野に、新しいサービスが次々と登場してきています。ネットスーパーとも違うサービス形態もあり、生協にとっても、コンペチター(競合相手)となるか、今後の動向に注文が集まります。今回は、いくつかのサービスの動向を分析してみましよう。

■ アマゾンとセブンの登場

 最近、調査会社などからネットスーパーと生協というキーワードでのインタビューを受ける機会が何度かありました。
 多くの場合、最初は生協となんぞやから説明しなければならない程度の理解から入っており、その結果、生協のネットスーパーと彼らが思っているものは、概して宅配のことだったりします。
 ただ、彼らも、生協の宅配が週1回配送でしかないのに、通販事業でこれだけのシェアを誇っていることが不思議なようでした。
 生協の宅配はさておき、そうしたインタビューや意見交換の中で、彼らが今最も注目しているサービスが、一つは通販最大のプレーヤーであるアマゾンがスタートしたアマゾンフレッシュ。もう一つがネットスーパーの形態をとりながら、扱い品目がコンビニのそれでしかないセブンイレブンのお届けサービス「セブンミール」です。
 それぞれの詳しいサービス内容は検索いただくとして、その仕組みや特徴について見てみましょう。

■ ネックは宣伝と手数料か

 まず、アマゾンフレッシュについては、アマゾンが持つ全世界で1億人ともいわれるプライム会員をベースに、生鮮品をはじめとする食料品の配送サービスです。首都圏を中心にエリアを限定して1年前からサービスを始めています。この1年で、エリアの拡大があったこともあって、利用者は2倍に増加したという発表がありましたが、実数は公表されていません。
 配送サービスそのものは、プライムナウと呼ばれる即日時間指定配送サービスとほぼ同じ対応です。
 一番のポイントは、生鮮品の調達をアマゾン自身が行っているのはごくわずかで、ほとんどは生鮮品配送サービスを自社で行っているオイシックスドット大地や、ローカルサプライヤーの商品である点です。
 つまり、アマゾンは、サードパーティ商品の販売と配送事業者のポジションであることです。もとより、リアル店舗を持たないアマゾンがネットスーパー事業に参入する訳ですから、この参入方式は極めて妥当な戦略だといえます。
 ただ、このままでは、アマゾンフレッシュは、便利な食品配送サービスでしかなく、サービス競争が激化した場合に、これまでの通販分野のように優位性を保つことは難しくなる恐れがあります。
 特に、プロモーション分野ではクックパッドとの連携など取り組みを強化していますが、目新しさには欠けるようです。
 また、年間3千9百円のプライム会費に加え、フレッシュ会員になるには、月額5百円、(年間6千円)の会費が必要になることも、利用者のとっての抵抗感にはなると思います。

■ お手軽宅食の品揃え

 一方で、コンビニ最大手のセブンイレブンが展開している「セブンミール」の配達サービスですが、どちらかというと、お弁当などのお手軽お届けサービスという印象があります。
 店舗の取扱商品がもともとお弁当などの商材がほとんどですので、むしろ、夕食宅配などとの競合が考えられます。
 また、配送手数料も、四国地域を除いて5百円以上の利用で無料となるなど、少額購入に適した料金体系になっています。
 もちろん、一部の加工品以外の野菜、魚、肉など生鮮3品は取り扱いがありませんが、グループ傘下のファミレスのデニーズの商品をレストランメニューとして取り入れている点などはミールキット(調理食材)ではないものの、今後の需要の拡大は期待出来るように思えます。

■ 競合相手となり得るか

 生協の宅配事業から見たときに、意外な競合点になりそうなのが、例えば、ペットボトルの箱など重量物のお届けという、生協宅配が強みとしてきた利便性を模倣して、新規参入のサービスの認知度を高めてくることです。
 ネット注文での、サービスの使い分けや買い回りが増えてくることが懸念されます。
 そういう点で、今回取り上げたふたつのサービスは、直ちに生協の宅配にとっての脅威とまではならないかもしれませんが、物流、商品、システム、宣伝の4つの軸でベンチマークしていくことは重要だと思います。


2018年6月1日金曜日

PC時代のままになっていませんか?[連載第33回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年5月1日号掲載

 ネット注文から生協を利用し始める人たちから、生協の注文はどのように評価されるのでしょう。現状でも、決して遅れをとっているわけではありませんが、スマホ中心の時代にどういった対応が必要なのでしょう。そして、その次の時代への対応は?

■ ネット注文のベテラン登場

 前回、生協のECサイト利用者も、組合員だから、生協宅配を利用しているからといった理由で生協のネット注文を始める人ばかりではないとお話ししました。
 また、限られたケースですが、ネット上で生協の商品を見初めて、そこから生協加入、宅配利用へと一気に進んでいく人たちが登場してきています。
 はじめに生協ありきではなく、はじめにネット注文ありき、という人たちは、今後さらに増えていきます。
そのときに、ネット注文のベテランたちから見た生協の注文はどう評価されるでしょうか。

■ 改善された使い勝手

 この10年ほどの間に生協の注文も大きく進歩しています。いわゆるネット注文が提供する方式のほとんどを提供しています。
 かつては、カタログを見ながら番号だけを打ち込む注文方法が大半でしたが、ここでも取り上げたWebカタログが登場し、アマゾンなどでも多用されている過去の履歴や購入傾向から個人別におすすめをするレコメンドなども整備されつつあります。
 しかし、ネット注文の世界は日々進化しています。現状で安寧としていると、すぐに取り残されてしまいます。
 特に、現状で最も急ぎ対処しなくてはならないのが、何度もお話ししているスマホでの注文です。

■ 様変わりするスマホ注文

 最近のスマホでの注文インターフェイスは大きく様変わりしています。
 これまでのような系統だったカテゴリーやテーマなどはさておき、とにかくインパクトのある商品画像をこれでもかと並べてくる手法なども、若い世代には抵抗感なく受け入れられています。ファッション系やホビー系の利用者からはアマゾンのサイトですら古いと言われる状況です。
 さいわいにして、生協のネット注文利用者はそこまで尖った層は少ないでしょうけれど、いずれは、そういう世代が生協利用者としてやってくる日はそう遠くありません。

■ PCからの脱却が急務

 では、生協のネット注文が取り組むべき優先課題はなんでしょうか。
 まずは、パソコン向けに作られた現在の注文方法を見直すことから始めなくてはいけません。
 確かに、デザインやページの構成などは、徐々にスマホ向けに見直されてきてはいます。
 しかし、ひとつひとつの注文方法は、相変わらずパソコン時代から脱却できていません。
 注文方法として一番ベーシックな番号注文は、相変わらず注文番号と数量を入力する枠がいくつも並んで、ひとつずつタップしながら数字を選んで入力する仕様です。これは、テンキーが存在するパソコンなら便利でしょうが、スマホ向きではありません。

■ アプリのノウハウを生かす

 解決策は意外に簡単です。
 スマホが普及しはじめた当時、アプリブームの中で製作した電卓型の注文アプリを多くの生協でお持ちではないでしょうか。ただ、アプリは、所詮インストールという壁があって、利用の比率は2桁に届くかどうかでとどまっています。
 ところが、この電卓イメージの機能は今日ではアプリでなくても、WEBで簡単に提供できるのです。
 まだまだ、生協の商品カタログはショッピングコンテンツとしての魅力を堅持しています。カタログを見ながらスマホ片手に、サクサク注文できるツールが必要なのです。
 旧来からの注文方式で、Webカタログもスマホ向けに進化し始めています。小さな画面であっても、ストレスのない拡大縮小やページめくりができ、個人別にカタログを出し分けてくれ、中断しても同じページから続きを表示してくれるなど、空き時間をうまく活用できる注文方式へと進化して、今、一番伸びている注文方式といわれています。

■ 新たな注文のスタイルをデザイン

 こうした、旧来からの注文方法を新しい使い方へ改善していくことも重要ですが、その一方で忘れてはいけないのが、次の時代に適合できる新たな注文のスタイルをデザインすることです。
レコメンドなど裏側での仕組みの進化も必要でしょうし、ひとつの方式だけで、すべてのニーズに適合できるとは思えません。
 デバイスも、スマホから次のステージへと進化してくると思われます。こうした時代を先取りする取り組みも生協に求められています。
 おそらくは、スマートスピーカーなどを中核とした複合型のホーム注文システムではないかと考えています。
 すべてはこれからですが、未来の注文システムを生協から生み出していくチャレンジを進めたいと思っています。ご興味のある方、一緒に考えてみませんか?

2018年5月1日火曜日

即時注文で成果を上げるWeb加入[連載第32回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年4月1日号掲載

 Web加入の仕組みが整備されつつあります。これによって、生協も一般のECサイトのように商品プロモーションを前面に押し立て、それを入り口に加入から宅配利用までを一気通貫に利用できるはずなのですが。意外なハードルが実現を阻んでいるようです。

■ プロダクトファーストとは

 ある調査によると、商品購入の場合、以前は特定のECサイトに登録して、そのサイト内で希望する商品を検索する、おすすめ商品を選ぶという買い物行動が多かったようです。最近では、通常の検索サイトで先に商品を検索して、そこから最安値のECサイトで購入するというパターンも増えてきています。
 そのため、アマゾンなどの大手ECサイトは、検索サイトでどの商品を検索しても、自サイトの表示を上位に出すような広告を表示しています。
 プロダクトファーストともいうべき買い物行動ですが、そこで課題となるのがサイトごとに会員登録や支払い方法の登録が必要になる点です。
 これまでは、前出のアマゾンのような巨大なECサイトや、楽天市場のようなモール型サイトを利用することで毎回登録する手間を省くという流れがありました。
 一方で、コモディティ商品以外の、いわゆるレアな商品は専門業者のECサイト、やや高額な家電品などは価格コムなどの価格比較サイトで最安値のECサイトを探して注文するというのもよくある買い物行動です。
日生協加入サイトの商品画像
ある程度EC慣れをしてくると、めざす商品を手に入れるためには、登録の手間はそれほど大きなハードルではなくなるようです。

■ メンバーファーストな生協

   ここで、生協に目を転じてみましょう。この稿でも何度も取り上げたように、生協のEC対応は一般のECとも比肩できるレベルにあると云えます。ただ、生協はどちらかといえば、プロダクトファーストではなく、メンバーファースト、商品よりも組織や会員メリットを前面に出しているという違いがあります。
 もちろん、生協にはミックスキャロットなどに代表されるコープ商品というトップブランドがあり、その魅力もあって多くの組合員に支持されてきたわけです。
 しかし、生協のスキームは、あくまで商品はひとつの看板であって、まずは組合員になって生協の様々な魅力を感じ、商品やサービスを利用してもらうというものです。
 もちろん、生協加入には出資金という他の会員登録にはない手続がありますので、生協という組織に加入するということをしっかり理解していただく必要はあります。


■ 変化はWeb加入から

 ただ、従来からの生協利用までの流れが、変化しつつあることも確かなのです。
 それは、ここ数年で大きく進化してきたWebからの生協加入です。
 店舗利用ではなく、宅配利用の場合、生協への認知から加入手続き前の資料請求はかなり以前からWebが中心となっていました。一方で、実際の手続や出資金の納付などは対面による必要がありました。
 現在では、多くの生協でWebから生協加入の手続や出資金の支払いが可能になってきています。
 これによって、生協の商品をWeb上で見つけ、それを購入したいために生協に加入するという流れができる状況になりました。
 認知や関心というものは、そのタイミングを逃すとあっという間にその熱は失われてしまいます。
 ECサイトの多くが、会員登録から注文までを一気通貫に手続きできるのも、その熱が冷めないうちに顧客を取り込んでしまおうという狙いでもあります。
エフコープのWeb加入ページ
これまで、Webでの資料請求から注文の開始まで1週間以上が必要だった生協利用が、一般ECと同様に、思い立ったときに生協の加入から宅配の注文までが完結できる仕組みが整いつつあるわけで、これで、ようやく生協もプロダクトファーストへの対応が可能となったといえます。


■ 注文までたどり着けない
残念なことに、加入手続から宅配の注文まで、すべてWeb上で完結できている生協は、一部にとどまっています。
 宅配の配達する曜日や時間をWeb上で確定することが難しいというのが理由です。システム上や配送現場の運用上のハードルはあるにせよ、仮でも構わないので配送日時の登録を可能として、注文まで完結できるWeb加入の仕組みの実現が急務です。
 事実、完結できている生協では、Web加入の伸張が尋常ではないという成果も報告されています。
 また、プロダクトファーストということで、あたかも特定の商品購入のためだけの加入のように感じられるかもしれませんが、Web加入するのはECに慣れた若い年代が多いということもあって、まだ紙のカタログが手元にない加入直後の時点からWebカタログを利用して既存の組合員と同程度の品目数を注文されていることも付記しておきます。

2018年4月1日日曜日

スマートホームで暮らしはどう変化するか(2)[連載第31回]


 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年3月1日号掲載

 スマートホームのキーデバイスとなると思われるスマートスピーカー。取り巻く状況は、日々変化しつつあります。家庭内に数多く散在する赤外線リモコンを、ひとつにまとめそれをスマートスピーカーでコントロールする機能などが登場してきています。周辺機器の充実を背景に、スマートスピーカーやスマートホームの本質を考えてみましょう。

■ リモコン革命

 みなさんのご家庭でも、ちょっと見渡すといくつかのリモコンが目に入るでしょう。テレビ、エアコン、ビデオデッキやLED照明などもリモコンつきが増えています。
 それぞれに用途や操作方法が違うこと、よく行方不明になる、まとめておくと結構行き場所をとることなど、便利さの反面が見えてきています。
 いくつものリモコンの機能をひとつにまとめるインテリジェントリモコンという製品も存在していますが、それなりの価格のため、なかなか普及には至っていません。
 その中で、スマートスピーカーと連動して、家電のリモコンの機能を果たすデバイスが登場しています。Wi-Fi接続のため、スマートスピーカーのない場所に設置しても、コントロールが可能で、スマート家電が普及するまでの間、スマートホームの隠れたキーデバイスになるかもしれません。
 こうして、スマートスピーカーがリモコン機能という手足を持ち始めることで、一気に生活が進化するかに思えますが、少し想像をして見てください。
  朝、寝室で目覚めてからリビングのテーブル前に腰を下ろすまでの様々なスイッチやリモコンの操作。一体どれほどの数があるでしょう。それを、ひとつひとつ声で指示をするなら、現状のほうが明らかに便利です。
  それぞれの作業はスイッチひとつで完結するようにはなっていますが、なかなか一連の操作とはなっていないのが現状です。
  こうした操作が自動的に行われてこそ、スマートといえるのではないでしょうか。

■ 自動化しているのは誰か

  自動化を実現するのは、スマートスピーカーではないのです。実は、このことが、スマートホームやAIなどの本質につながることなのですが、スマートスピーカーも、音声認識のためのマイク、スピーカー、ネットワークと接続するための通信機能を持っただけのデバイスに過ぎません。
  では一体どれが中核なのか、というと、ネットワークの先、クラウドと呼ばれるコンピュータ群の中で作動しているプログラムなのです。
  例えば、アマゾンエコーというスマートスピーカーの背後で動いているプログラムが、アマゾンアレクサというものです。
  アマゾンエコーで何かしようとすると、「アレクサ」と呼びかけるのは、ここから来ています。
  アレクサの中で、スマートスピーカーにさせたい機能を担っているのが、「スキル」と呼ばれるプログラムです。
  「テレビをつける」、「エアコンをつける」といった操作、「チャンネルを1にする」、「温度を21℃にする」というスキルを用意して、寝室で「おはよう!」と云っただけで、一連のスキルを作動させるように設定することが可能なのです。

■ 生協も注文スキル開発を

  こうしたスキルのパターンをいくつも用意することや、もう少し先になるかもしれませんが、スキルそのものを簡単に作成できるスキルなどが登場することで、家庭内でのくらしは、一気に便利さを増します。
  もちろん、こうしたスキルはスマートスピーカーだけではなく、スマホからも利用できるようになるので、外出先からロボット掃除機を起動したり、帰る前にエアコンをつけたりといったことも可能になります。
  また、かならずしも、人間の指示が必要ではなく、スマホのGPSから位置情報をキャッチして、外出を検知したら掃除をはじめる、近くの駅に着いたらエアコンやお風呂のお湯を入れる、玄関の鍵が開いたら室内の電気を点灯するということも可能になります。
  あらかじめスキルを設定しておき、起動するタイミングを別のセンサーが検知した内容をトリガーとすることで、さらに範囲は広がってくるはずです。
  もちろん、生活資材の購入や注文という分野での活用も、極めて早い段階から実用化されてくるものと思います。そのタイミングを逃さないためにも、生協も現状のインターネット注文の段階から、機能のスキル化などでのスマートスピーカー活用に着手する必要があると思います。

2018年3月1日木曜日

スマートホームで暮らしはどう変化するか(1)[連載第30回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年2月1日号掲載

 毎年恒例のCES(米家電見本市)で、今年はスマートホーム(SH)が注目のひとつだったようです。かつては、ホームオートメーションとも呼ばれましたが、家電や各種センサーとの接続やクラウド上のAIと連携し、音声だけで家庭内のすべての家電を操作できるなど、未来の家庭生活がより現実味を帯びてきました。

■ CESとは

 CESという世界最大の家電見本市が毎年1月に米ラスベガスで開催されます。家電とはいいながら、近年ではパソコンからインターネット関連機器など、時代の先端を行く電子機器の総合見本市となっています。
 ハードウエア、ソフトウエアの基礎技術をベースとした概念実証型の展示会は他にもありますが、CESでは、より消費者に近い位置で、半年から1年以内には製品として登場してくる、現実味のある商品の見本市となっています。


■ 注目はスマートホーム

 今年のCESでは、IoTやAIなど、昨年までぼんやりとした概念だったものが、様々な製品として展示されていたようです。
 なかでも、注目は、スマートホーム(SH)です。SHの概念は、これまでも数多く提示されてきましたが、様々な最新製品を組み合わせてひとつの製品群として登場してきています。
 まず、構成される要素としては、各種家電製品が直接ネットワークと接続され、また、様々なセンサーが家庭内に配置されるIoT製品群の登場です。
 家庭内において、各種機器をもれなく、スキ間や切れ目なくインターネットと接続するためのメッシュ状ネットワークというインフラも整備されてきました。
 SHを構成する機器とネットワークが接続される先は、家庭内ではなく、クラウドコンピュータ上で稼働するAIであり、その知識の元となっているビッグデータなのです。

■ 有能な執事を雇うような

 こうしてインターネット上や家庭内から収集された各種情報を背景として、われわれ人間と対峙してくれる存在のひとつが、スマートスピーカーです。(AIがスピーカー内にあるような誤解を避けるため、AIスピーカーとは呼称しなくなっています。)
 クラウド上のAIと人間が会話する上で、パソコンのキーボードやスマホのタッチパネルよりも、音声のほうがより擬人的で抵抗感がないことは明らかです。
 よくいわれるように、有能な執事を雇っているとでもいいましょうか。AIがより学習していく中で、相手の言い回しのクセやいつも利用する内容を理解し、いわば「あうんの呼吸」といった関係がAIとの間で築けることが理想でしょう。
 もちろん、すべてが音声で返されるわけではなく、複雑であったり、情報量が多かったりする場合は、AIが判断してテレビやスマホの画面上に返すこともあります。それこそ、人間に対して「忖度」のできるAIが究極なのかもしれません。

■ スマートスピーカー市場の覇権は

 SHがこのレベルに到達するには、まだもう少しかかりそうですが、少しずつ近づこうとしていくのがこの1年だと思われます。
 おそらく、スマートスピーカーが普及するスピードのほうが、家電や室内への各種センサーの配備より早いと思われますので、当面はAIの機能を使った人間への情報提供、サジェッション(示唆、提案)、および、インターネット上への発信の代行からになるでしょう。
 様々な検索とその結果の回答、メールや電話の代理発信、ネット注文の操作の肩代わりなどが想像できます。
 スマートスピーカーというと、グーグル、アップルなどが有名ですが、最大のベンダーはやはりアマゾンです。スマートスピーカーのアレクサは、サードパーティー製も含めると、すでに百種類以上が販売されています。
 ネット通販最大手のアマゾンが、この分野に最大の力を入れているのは、スマートスピーカーがネット通販の世界の覇権を握るツールとなることを確信しているからに他ならないでしょう。
 ネット注文をAIに指示したときに、どこの商品を優先するか、そう遠くない時期にそのレベルからの争奪戦がやってくることを意識しておかなくてはならないのです。(つづく)

2018年2月1日木曜日

2018年の生協をインターネットの切り口から眺めると[連載第29回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2018年1月1日号掲載

2018年の到来。景気回復の流れは、生協の業績にも好影響を与えています。こうしたなか迎えた新年は、生協の事業、とりわけ、インターネットという切り口から眺めたときに、どういった未来が垣間見えるのでしょうか。

■ スマホがPCを越えた

昨年の傾向を見ると、インターネットやSNS上の出来事が話題として報じられるのはもはや日常になり、既存のメディアも、その情報源の多くをネット上から入手するまでになりました。インターネットの存在が日常生活と、それ程、不可分のものとなったといっても過言ではありません。
スマホの保有率も70%を超え、特に、ガラケーの販売が少なくなったこともあって、60歳代以上のスマホ保有率の増加が顕著です。
こうした背景から、生協とインターネットとの関わりの中で、エポックとなったことは、昨年で、インターネット注文の過半数がスマホ経由となったということです。長らく、これからは「モバイルファースト」、スマホがネット利用の中心になる、といわれ続け、そのことがようやく現実となってきたのです。
早くから、モバイルファーストに対応してきた生協や、そのインターネット注文の仕組みでは、この流れを受けて、一気に昨年対比150%という 成果が現れているところもあります。
この流れは、2018年も、これから先も続きます。立ち遅れているところは、早期の対策が不可欠でしょう。

■ AIスピーカーは優秀な執事か

組合員の暮らしにおいても、2018年は大きな変化の年になります。
まず、昨年から注目を集めているAIスピーカーがあります。AIを人工知能という呼び方で、どこか未来世界の話としてとらえていたひとびとが、一万円札1枚か2枚でおつりがくる小さなスピーカーが、家庭用ロボットのように呼びかけに応えてくれる存在をどう思ったでしょう。
しかも、この製品は、買っておしまいではなく、インターネットの向こう側に控える膨大な知見やそれを有機的に結びつける深層学習機能によって、日々進化していきます。最初は、言葉で応えるだけですが、既存のリモコンの操作を肩代わりしてくれ、パワーコントロールといった家庭向けIOTの浸透に伴って、家庭内の様々な機器や電力をすべてコントロールしてくれる優秀な執事の役割を果たしてくれるようにもなります。
もちろん、通話やメール、メッセージングといった外部や人とのコミュニケーションをも媒介してくれます。それも、キーボードではなく会話によってなのです。
そうなってくると、この優秀な執事を介して、生協をどう利用するのか、生協はどう利用しやすいようなインターフェイスを構築するのか、この対応が急務です。

■ マーケティングもAI

インターネットマーケティングの世界では、One to One、個人別の対応はもはや当たり前になりつつありますが、生協では、カタログ配布やOCR注文書のオンデマンド印刷など、従来のメディアにおいての個人別対応にも注力しています。ただ、こうした従来手法はどうしても、フレキシブルさやコストの点ではネット上のそれには及ばないものです。様々な試行も含めて、ネットでのオンデマンド対応が今後進化していくでしょう。
ここでも、次なるキーワードがAIです。これまでの過去の注文・購買履歴を元にした結果型オンデマンドから、次の行動を予測したうえでの商品提案や売場構築という予測型オンデマンドが次なるトレンドでしょう。
ただ、予測といっても、徒手空拳で予測できるものではありません。その中核となる知見、経験はやはりこれまでに築き上げられた実績から導かれる部分や人間ならではの発想が必要だといわれています。

■ 生協の知恵を集める場が必要

 こうして2018年のトレンドやキーワードを並べてみると、生協のインターネット事業において、それらを具現化するためには、まずはそれぞれの生協の枠を越え、多くの衆知を結集し、組合員の暮らしや新たな関心領域に生協がどのような姿で関わっていけるのかを模索する場、チャレンジングな取り組みを行える場を、力を合わせて作っていかなくてはならない年になりそうな気がします。

2018年1月1日月曜日

進化したSNS広告にチャレンジ[連載第28回]

 生協のインターネット事業-新たな挑戦の時 
コープソリューション2017年12月1日号掲載

最近の統計によればネット利用は7割がスマホからとなっています。これまでのサイト構築や広報なども、まだまだPC寄りの対応となっています。Web広告もしかり。増加するスマホ利用者に最もアプローチできるといわれる、旬な広告手法「SNS広告」についてご紹介します。

■ アンケートと異なる実態

ある生協でネットからの宅配利用者にアンケートを実施したところ、PCから注文するという回答が過半数以上を占めました。
ところが、宅配のネット注文全体を見ると、この生協でもスマホからの注文がPCと並んで約半数となっています。
こういった実態と乖離した結果になった理由は、ひとつには年代層が高い、コアな組合員のほうが、アンケートなどへの反応率が高いこともありますが、アンケート募集がメルマガによって行われたことも一因だったようです。
詳細は、別の機会にお話ししますが、メルマガは、どうしてもPC利用者に届きやすく、スマホ利用者に響きにくいという実態があります。

■ PC寄りのWebサイト

同じような傾向として、Webサイトも、どちらかといえばPC利用者に利用されやすい傾向があります。限られた画面サイズのスマホに最適化されたWebサイトが、まだまだ少ないことが理由ではないかと思います。
そうなってくると、すでに保有率が70%を越え、生協の宅配注文でもPCを凌駕しつつあるスマホの利用者に対して、どのようにアプローチすればいいのかが課題となってきます。

■ Web広告の限界

生協の宅配事業で、業績を左右する要素のひとつとして組合員拡大があります。生協は、拡大のために多大なリソースを投入していますが、新聞不振の昨今、折り込みチラシ投入も反応が少なく、ポスティングなどの人海戦術では限界があり、ここ数年、Webでの広告にシフトしてきています。
ただ、これも、リスティング広告と呼ばれる、検索キーワードを手がかりとして結果画面に広告を表示するという、受動的要素が強い広告手法で、一定の成果は上げていますが、状況を大きく変えるところまでは至っていません。
しかも、スマホでは、検索結果でも画面サイズの限界から広告が極めて表示し難くなっています。
これまでのPCと、利用シーンも機器の特性も異なるスマホ向けには、それに適した対応が必要なのは間違いありません。

■ 注目されるSNS広告

現在、Web広告の世界で、注目されているのがSNS広告です。
スマホ利用者の半数以上、特に、生協がこれからの組合員として期待する20歳から40歳代の女性に限れば、70%以上が利用するコンテンツがTwitterやFaceBookなどのSNSです。タイムラインと呼ばれる投稿や記事中に表示される広告の視認率は、極めて高くなっています。
理由は、スマホに特化した記事や投稿の表示形式に合わせることで、広告が目にとまりやすく、じゃまにならないことです。SNSの場合、性別や年代、居住地域などがあらかじめ登録されているため、広告を表示する対象者が容易にセグメント(抽出)できることも、検索など不特定多数相手の手法に比べて有利です。
居住地域は、大きくは都道府県、小さくは市区町村の行政区が一般的ですが、SNSの登録情報とは別に、とある場所への到達情報を地域や、場所によっては商業施設単位で収集する手法もありますので、居住者だけでなく、そのエリアへの通勤者やよく買い物に来る人を対象にすることも可能です。
このセグメントの場合、競合するスーパーへの訪問者にだけ生協店舗の利用を誘導する広告を表示させることも可能になります。
こういった情報が収集できるのも、位置情報をはじめとする多種な情報を保持できるスマホならではの利点ですし、もちろん、利用者の同意のもとで収集された公正な情報であることはいうまでもありません。

■ 早い者勝ちの媒体は

SNS広告の中でも、いま、最も旬な媒体はLINEです。これまでは、大企業を中心に展開してきましたが、最近、出稿の審査や費用面でのハードルが緩和されてきました。月間アクティブユーザー5千万人といわれるLINEへの広告出稿は、早い者勝ちのチャンスかもしれません。